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【noteでBL】栗飯のまつたき栗にめぐりあふ【4700字小説】

仕事上がり、家にやって来た片桐さんが、勝手に俺の部屋着に着替えようとしているのも、おいおい何やってんだよって感じだった。

けれど、それよりも何よりも着ていたボトムを脱いだ片桐さんが、
「なんでパンツ履いてねえんすか!」
ってとこが問題だった。

俺の指摘に対して、片桐さんは、キョトンとした顔をする。
可愛い。
いや、四十過ぎの男相手に可愛いじゃねえのよと、慌てて脳内で自分に突っ込む。
ていうか、そうしてる間も下半身が丸出しで気が気じゃない。
かといって、俺の下着を貸すのは何かいや。でもぜったいこの人下着なんて持ってない。っていうか持ってたら履くだろ、履いてない時点で持ってないんだよな。そんなくそどうでもいい思考がとめどなく続く時点で、俺はかなり動揺している。

俺が下着を渡さなかった場合、片桐さんに許されるのは、下着を履かずにそのままいるか、俺が近くのコンビニに出かけて下着を買ってきてあげるかになる。
どうしてこの人のために、俺が買い物に行ってあげなきゃいけないのか、という反発がふつふつと湧いてくるのを感じながら気が付いたのだけれど、仮に下着を買いに行ってあげたところで、その間この人は下半身丸出しのままで、俺の家にいることになるのではないか。
二択のようで、俺の家にしばらく下半身丸出しの片桐さんがいる、という部分はどちらの選択肢にもあるのなら、ほぼ一択なんじゃないか。
つまりは結局、俺はこの人に下着を貸してやるしかないのだ。

と、ここまでを俺の人生の中でも五本の指には入るだろうかなりの高速、フルスロットルで思考してから、俺は結局片桐さんに洗いざらしの下着を投げつけた。
「とりあえずこれ履いて、その見苦しいもんをしまってください」
片桐さんは、俺が投げた下着を器用にキャッチしてから、
「ああ、パンツのことか、履き忘れてた」
と、のんびりと言った。
「というか、見苦しくはないでしょうよお」
「見苦しいです」
「自分だって同じもんがついてるくせにさぁ」
「何当たり前のこと言ってんですか……。いいからさっさと履く! ひとんちに来て、フルチンでいるってどういうつもりなんですか、セクハラですよ!」
「笹田君のパンツかあ、入るかなあ」
「入るでしょ、どう考えてもあんたのほうが俺より華奢なんだから」
なんやかんや言いつつ、渡した下着は素直に履いてくれるが、罪悪感がひどい。いや、服貸してやってなんで俺が罪悪感なんか感じないといけないのか。

急に現れた他人に、新品の下着を貸せる人間てそうは多くはないだろう(いや、それ以前にそんなシチュエーションもそうないかもだが)と思うけれど、世に知られた天下の人気俳優に自分の洗いざらしの、それも下着を身に着けさせるなんて、バレたら社会的に抹殺されそうだ、と思う。
だからといって、この人のために新品の下着を用意しておくなんてのも絶対に嫌だ。なんか、なんか嫌だそれは。それは俺が負けたことになるんじゃないのか、何の勝負かわからんけども。

パンツを履いて、俺の部屋着を着て、片桐さんは我が物顔でくつろぎ始めた。
「ああ疲れた」
それを言うならこの一瞬で俺の方が絶対に疲れたけど、と思ったがそれは流石に言わない。
俺は、今日は午前中の打ち合わせだけで、ほぼオフ日だったけれど、この人はつい今しがたまで仕事をして、たった今帰って来たところなのだ……って、
「だから俺の家に来んのを、帰って来たとか言うな俺」
「なんか言った?」
「何も言っておりません」
どういうわけか、マイペースなこの人に懐かれてしまって以降、この人が自分の生活圏のどこかにいるのが、段々と当たり前になり始めている。
相当に、毒されている。

「なんでパンツ履いてなかったんすか」
くつろぐ片桐さんに、当然のようにコーヒーを差し出してしまいながら聞いた。
準備しながら、もてなす気満々過ぎでは、と思ったけど淹れてしまったコーヒーに罪はない。ドリップパックだから簡単だし、そんなべつにもてなそうとか思ってないし。
なんなら今晩あたり来そうだな、と通り雨に対する感想のように思って、夕飯の下準備も昼の内にしていたが、それについては一旦悩むのをやめた。どうせこうなったら夕飯まで出さざるを得ない。悩むだけ無駄だ。
ちなみに今晩のメニューは栗ごはんと、きのこの味噌汁である。おかずまで作る気力はさすがになくて、そのあたりは近所のスーパーで買った総菜だ。許されたい。
休みの日の真昼間に、一人暮らしの男が台所にこもって栗と格闘したのだ。笑いたければ笑ってくれ。いやちがう、自分が食べたかっただけだから。ちがうから、そんなんじゃないから。なんならそろそろちょうどよく炊き上がるのだけれど。
俺の脳内の葛藤も知らずに、片桐さんは言った。
「ああ、今日映画の撮影でさあ。あ、映画ってのはね、まだ情報解禁前なんだけど、」
情報公開前の話を、屈託なく話さないでほしい。
「ストップ。映画の詳細はいいです。起きた物理的な話だけにして、概要は喋らないで」
当然の気遣いで話を遮った俺に、片桐さんは口をとがらせる。
あざとい。
四十過ぎのおっさんだぞ、気をしっかり持て。この人は自分がどうすればどう見えるかわかっててやってんだから、そういう商売の人なんだから、と思ったところで、つまりこの人にしてみれば、俺がこの人のことを可愛いとか思わないようにしようとしてる時点でもう可愛いって思ってる、ってことがバレているということでは?というゲシュタルト崩壊しそうな恐ろしい事実に気が付きかけてしまって、それ以上考えるのをやめた。
「で、まあその映画が濡れ場が多いんだけど」
濡れ場。
……なるほど。
「濡れ場の撮影ってさ、前張りさせられるじゃない? 前張りってわかる?」
「ああ、はい、え、っと、あれですよね」
「ちんこが映らないようにカバーさせられるやつね」
俺の恥じらいを無下にして、片桐さんがはっきり言った。この人の綺麗な顔で、その単語を言わないでほしい。別にいいけれど。
「俺、若いころに前張りで一度、痛い目みたことがあって」
「粘着テープを剥がすときに、的なやつっすか…」
想像しただけで痛い。
それ以上細かい話を聞きたくなくて、顔をゆがめながら尋ねたのに、無情にも片桐さんがは首を振る。
「いや、前張り外した後なの忘れて、でもパンツ履く暇なくて、ある態で勢いよくチャックをあげて、ちんこが…」
「やめて! 聞きたくない!」
俺は思わず悲鳴をあげた。怖すぎる。
他人様のちんこが犠牲になる話なのに、なんでちんこが犠牲になる話はこんなに聞いているだけで痛いのだろうか。鳥肌が立ってしまう。なんなら涙も出る。
「ていうかそれは別に前張りのせいじゃなくて、片桐さんがおっちょこなだけでは……」
口に出したつもりはなかったのだけれど、言ってしまっていたらしい。
「まあ、そうかもだけど……」
片桐さんが、しょげた声を出したので、慌ててフォローした。
「いやでも、気の毒でしたねそれは」
もちろん、おっちょこちょいだろうが何だろうが、それは嫌な記憶だ。トラウマにもなろうというものだ。
「そん時は、撮影手順の効率が悪くて、同じ衣装なのに、無駄に何度も脱いだり着直したりさせられたの。しかもなんか、男だから良いだろってまともな更衣室もなしで、まあ俺がまだ下っ端だったのもあるけど」
「ええ……」
「ディレクターが良いって言ってんのに、プロデューサーだったのかなあ、あれ誰だったんだろ。よく覚えてないけど、撮り直した方がいいみたいな口出されて、それで何度も脱いだり着たりになったんだよねえ」
それは。
あんまり口にしたくないけど。
なにか本来の趣旨に外れるようなことが、起きてたんじゃないだろうか。直接見たわけでもないから何も言えないけれど。
「それで、着替えに焦ったりしてだから、完全に俺だけのせいとも言えないわけ」
と、片桐さんは胸を張った。
この人、どこまでわかってて、どこまでわかってねえのかな。
ここを突くと藪蛇になる気がするけれど。
「昔のことだからね」
と、片桐さんは微笑んだので、ああ、やっぱりわかってんだなと思った。
わかってんだな。自分がどう見られるか。わかってて、その第一線で生きて来てるんだもんな。
「今はそういうのないんですね」
「やっぱ時代がねー、許さないよねえ。今日もいたけど、インティマシーコーディネーターを入れてくれる現場も増えたしねえ。あれは女性だけじゃなく、俺みたいなおっさん俳優にもありがたいよ、本当」
ほう、っと自分の口から、息が漏れた。
そうか、片桐さんが嫌な思いをしてないなら、よかった。
と、いい話風に収まりかけて、はたと気がつく、いや収まってねえわと。

「え、今日パンツ履いてねえのと何の関係が」

「だからあ、もう前張りするときは、その場面が終わってからも、同じ衣装の間はしっぱなしなわけ、その何度もやり直しさせられたときのがトラウマすぎて」
「あ、はい、さっきの話、はい」
「で、それってやっぱり窮屈なわけ」
まあ、うん、そうだろう。
「で、撮影終わると開放感でパンツ履く気がなくなるから、それで帰って来たって言う」

いやいやいや。何当たり前の顔をして言ってんだろうか、この人は。

「そこは履きましょうよパンツ」
「だいじょうぶ、服着てるし」
「そういう問題じゃないです。そんな状態で街中に出ないでください」
「街中出てないよ、マネージャーの車にすぐ乗るし」
「え、それならじゃあまあ、いい…のか? え、てか、俺の家に来んのにマネージャーに送らせてんの!?」
明かされた事実に大きな声が出た。
嫌すぎる。
何て説明してうちに来てんの。
「流石に笹田の家って言ってないでしょうねえ」
「言わずになんて言って送ってもらうのよ。ちゃんと言ってるよ、笹田君ちに遊びに行くから送ってって」
「まさか、前回も」
「送ってもらってるね」
今度現場でマネージャーさんに会った時にどんな顔をすればいいかわからない。
「え、マネージャーさんは、片桐さんが俺の家に来るの、どう思ってんですか」
「それは知らないけど『笹田さんに迷惑かけないようにしてくださいね』とは言われてる」
無駄に似ているモノマネが挟まって、いつも目の下にクマをこしらえて忙しそうにしている、片桐さんのマネージャーが頭に浮かんだ。
ああ、マネージャーさん。ありがとう、そしてなんかごめんなさい。
いや、俺が謝るのも何か変だけれど。
あと、この人、俺に迷惑ばかりかけてくれやがるので、今度からうちに送ってくれなくていいです。とっととセキュリティ万全の自分の家に帰してやってくれ。
「迷惑はかけてないから大丈夫って答えてる」
「大ウソじゃないですか」
片桐さんは、わかりやすくおどけた顔をすると、
「さあて、今日のごはんは、なんですか」
と言った。
そんなもん用意していない、と俺が答えるよりも早く、炊飯器から炊き上がりを知らせるメロディが流れた。童謡のアマリリス。
ぐっと言葉に詰まった俺をしり目に、片桐さんはにこにこと嬉しそうな顔をする。
「どうぞ食ってってください…」
ぎりぎりと、歯ぎしりをしながら俺は言った。
悔しい。あからさまに嬉しそうにされて、よかったと、ホッとしている自分がいることが気に入らない。
「何かな、何かな」
「あ、ちょっと勝手にいじらないでください」
勝手に台所に入ろうとするのを、慌てて追いかける。

「ねえ、今度食材買って来たらなんか作ってくれる?」
「いや、自分ちで勝手に作ってくださいよ、どうせ高級食材なんでしょ」
「よし、今度国産の松茸を買ってこよう」
「……どうせなら肉がいいです」
片桐さんは、にっこりと笑って言った。
「じゃ、両方」
ちくしょう、可愛いな。



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皆様こんにちは、四四田です。
#noteBL 13弾!

今回のお題は、
「秋の味覚」「本当にあった怖い話」「パンツはき忘れた」でした。

いつもは本編前にご挨拶的なものを書くのですが、今回は終わってからにしてみました。
深い意味はないのですが、なんとなくちょっと、本編読んでいただいた前提で書きたかった、というのはあるかもしれません。

今回のお題、「本当にあった怖い話」ということで、ゴリゴリオカルト系にしーよおっと、とワクワク思っていたのですが、ちょっとでもBL的な雰囲気持たせつつ「パンツ履き忘れた」に対応できる二人組が、当方にとりあえず一組しか思い当たりませんでして(ってXで呟いたらFFの月さんが当ててくれたのですが)。

結果、本編を担当しました、片桐さんと笹田君になり、となると、この人たちあんまりオカルトで盛り上がってくれなさそうだね?と思い(笹田君はこわがってくれそうだけど、仕事中だと無視するタイプで、片桐さんは怖がらないタイプかな…)。

本当にあった怖い話はオカルト系ではなく、こういう感じになりました。

四四田はおんなのこなので、挟んじゃう話と粘着テープ剥がすときの話の怖さは想像するしかできないのですが、だいぶ痛くて怖いらしいです。
あと、まじめな仕事中の現場に、別の目的で入り込んでる輩がいるのって怖いよなと思ってそれも。
あと、勝手に家の中でくつろぐ人がやって来るのも怖そうだなってのと、だんだんほだされてる自分に対して、笹田君が怖がっているのでそれも、怖い話かなって。

でも最大に怖いのは、
この人たちこれで付き合ってないんだぜ
っていう。よくあるタイプの怖い話です。

そろそろ笹田君が観念して付き合ってくれたらいいんですが、笹田君はすでに片桐さんにだいぶラブを持って接しているので、今回はそこにフォーカスしてみました。
来るかどうか約束もしてない人間のために、休みの日の昼間の時間を使って、栗ご飯は作れない。
お前それだいぶラブやぞ。

あと、別に世の中のBLに文句があるわけじゃないんですが、予定外に泊まることになった相手に新品の下着を提供できるタイプのBLが(特に二次創作には)多い気がして、みんな偉いなあと思います。笹田君は持ってなかったのですが、やはりBL世界のたしなみなんでしょうか。持ってないから彼らは進展しないのでしょうか。
ちなみに四四田本人はパンツの新品は買いおかないので無理なんだよな、うちに来る前にコンビニ寄ってください。これじゃドラマは生まれないのか。
パンツの新品があるという余剰が、運命を引き寄せドラマを生むのかもしれません。
とはいえ笹田君の家には貸すかもしれない新品パンツよりも先に、片桐さんの自前パンツ(ブランド品)が置いていかれるほうが先のような気がします。作者としては、それよりも先に付き合っておいてほしい。安心したい。

タイトルは、日野草城の俳句です。
栗飯のまつたき栗にめぐりあふ
欠けのない栗のうれしさって、ラブだなって思ったんですよね。
配慮とか、気遣いとか、なんかぜんぶラブ。それに気づいて甘えるのもラブ。
片桐さんのお茶碗には、欠けてない栗をなるべくよそって出すと思います、笹田君は。そういうの。

あと、四四田、浅学にして日野草城をあまり存じ上げなかったのですが、エロスが主題の作品が特徴的というか有名なようですので、二人の進展を祈って。


いつも楽しいお題をありがとうございます!
noteでBLを実家だと思い始めてる四四田がいる。いつもですが今回もなみさんに特大の感謝を寄せたいと思います。らぶ。


※見出し画像はみんなのフォトギャラリーからお借りしました。

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