AIネイティブ社会に向けた知の協働が、ソートリーダーシップ活動を加速させる。 ~IISEアドバイザリー・ボード新設から約1年、これまでの試みを振り返る~
こんにちは、国際社会経済研究所(IISE)理事長の藤沢久美です。
今回はIISEがソートリーダーシップ活動を加速させるために、2024年11月に立ち上げたアドバイザリー・ボードについて、改めてその意義を考えてみます。そして立ち上げから約1年を経た今、ここまでの成果を振り返ってみようと思います。
そもそも、なぜIISEはアドバイザリー・ボードを新設したのか。
IISEは、テクノロジーを社会課題解決に生かすためのビジョンと戦略を描くNECグループの独立シンクタンクです。ソートリーダーシップ活動は経営戦略そのものであるという前提のもと、さまざまな活動に取り組んでいます。
冒頭に述べた「ビジョンと戦略を描く」は、未来の社会像を言語化し、その方向へ企業や行政が意思をもって踏み出せる形に翻訳すること、と言い換えることができます。これはソートリーダーシップ活動の根幹であり、研究でもマーケティングでもなく、まさに経営の核心にある営みです。
一方で社会の変化はさらに複雑化し、少子高齢化、地政学リスク、国際秩序の揺らぎ、そしてAIの急速な発展など、多層の変化が同時に進行しています。こうした現実の前では、一つの組織だけで未来を描くことは難しい。
こうした課題意識から、産官学や世代を越えた集合知を得るために、アドバイザリー・ボードを立ち上げました。
世代も専門領域も混ざり合う“知の場”づくり
アドバイザリー・ボードは、いわゆる「有識者会議」とは少し異なる設計をしています。メンバーは40歳前後を中心としつつ、経験豊富な世代の知見も重ねることで、世代を横断した議論ができる“知の場”をつくりました。
世代が違えば、見えている課題も、未来への感度も違う。その“違い”が交わることで、新たな視点や問いが生まれていきます。
さらに、AI開発、法律、ガバナンス、投資、国際動向、メディア、生活者視点など、異なる専門領域の方々に参加いただきました。そうすることで、単一の視点では見えなかった論点が次々と立ち上がっていきました。

AIが議論を支える、新しい会議の形。AIネイティブ社会の議論は、人間の幸福に踏み込む議論に
アドバイザリー・ボードで取り上げたテーマは多岐にわたりました。特に印象的だったのは「AIネイティブ社会」をテーマにした議論です。AIがもたらす社会変容が、技術だけの問題ではないことを改めて実感しました。
議論は、次のような根源的なテーマへと広がりました。
・AIに意思決定権を、どこまで委ねられるか
・その法的根拠や責任の所在を、どう考えるか
・働く人々の働きがいや生きがいは、どう変容するか
・人の幸福や豊かさを、どう守るのか
AIネイティブ社会の本質を描こうとすると、技術だけでは応えられない領域が必ず現れます。人間の尊厳や幸福の在り方までを視野に入れた“複雑な社会像の設計”が必要であることを、強く認識することになりました。
アドバイザリー・ボードでは、議論の進め方にも新しい挑戦を取り入れました。参加者それぞれの過去の発言や視点、論点をAIで整理し、AI生成のディスカッションペーパーを事前に共有したのです。
その結果、議論は驚くほど活性化しました。
・参加者同士の視点の重なりや違いが、明確になる
・深掘りすべき論点が、自然と浮かび上がる
・会議冒頭から高いレベルで、議論が始まる
AIは、議論の「準備工程」そのものを高度化し、より濃度の高い対話を可能にしてくれました。AIが議論を支える──新しい会議の形です。
学び続ける“覚悟”の下、個別テーマ含め議論が進展。次期経営計画への貢献も
もちろん、AIだけでは目指す姿は実現できません。対話のためには、IISE自身が“学び続ける覚悟”が必要です。
アドバイザリー・ボードで最前線の有識者と議論を重ねるほど、IISE自身が知を磨く必要性を痛感しています。日本でも第一線で活躍されている方々と対話するためには、こちら側も相応の知見と感度が求められます。
外部の知を迎え入れることにより、「自らの問いを高め、学び続ける組織であること」を、私たちIISEの行動原理として再確認しました。
個別のソートリーダーシップ活動もテーマに議論を行いました。例えば、モビリティをテーマにした議論の中では、地方が持つ可能性に改めて光が当たりました。人口構造や生活動線が多様な地方は、未来の社会モデルを育てる実験場となり得ます。
この議論をきっかけに、IISEのモビリティ領域の活動は、地方への軸足をより明確に強めることになりました。
アドバイザリー・ボードを通じて得られた知見は、IISE内部だけではなく、NECグループ全体の中期経営計画にも具体的な示唆として生かされています。
IISEおよびNECにおいて、ソートリーダーシップ活動は経営戦略を形成する基盤そのものであるという前提は、今後さらに重要性を増していきます。未来の兆しを捉え、問いを立て、社会実装の道筋へつなげていく。それは、経営の意思決定を動かし、社会を動かす原動力となる営みです。
おわりに──これからのIISEとは。未来への問いを、共に育てる
来年度は、アドバイザリー・ボードをさらに発展させ、AIを積極的に活用した新しい有識者会議の形を探求していきます。多様な知が交差し、AIが議論を支え、未来の兆しが立ち上がる場をつくる。これをIISEの次なる挑戦と捉えています。
外部の視点は、私たち自身の思い込みを外し、新しい物語の入口を示してくれます。そして、テクノロジーの最終的な利用者である生活者の視点の重要性を改めて思い出させてくれます。ソートリーダーシップ活動とは、未来への仮説を立て、それを社会実装へつなぐ営みです。
アドバイザリー・ボードで得た知恵は、IISEが次のステージへ進むための大きな推進力となりました。これからも、テクノロジーと人が共に進む未来社会を描き、その実現へ向けた道筋を、皆さんと共に探り続けていきたいと思います。
文:IISE 理事長 藤沢 久美
藤沢 久美
大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て1995年、日本初の投資信託評価会社を起業。1999年、同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却。2000年、シンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年~2022年3月まで同代表。2022年4月より現職。
企画・制作・編集:IISEソートリーダーシップHub(藤沢久美、寺田亜紀子、福井衛)
