コモンズとしての月面都市 ~月面を考えることは地球を考えること~ 【IISE FORUM 2025 ブレイクアウトセッション(宇宙編)】
国際社会経済研究所(IISE)が2月7日に開催したIISE FORUM 2025の後半では、各会場に分かれてテーマごとにより深い議論を進めるべく、ブレイクアウトセッションを実施しました。本記事では「宇宙」テーマのセッションについて、内容をレポートします。
「コモンズとしての月面都市 ~月面を考えることは地球を考えること~」と題されたこちらのセッション。国際社会経済研究所(IISE)ソートリーダーシップ推進部 プロフェッショナルの佐野 智がモデレーターを務め、豊橋技術科学大学 准教授の小野 悠 氏、株式会社ispace Corporate Strategy Groupマネージャーの中上 禎章 氏、株式会社竹中工務店 シニアチーフアーキテクトの田中 匠 氏、一般社団法人SPACE FOODSPHERE Space Reverse Innovationプログラムディレクターの浅野 高光 氏が登壇しました。
「生活者視点で考える月面都市、月面活動の地球生活へのフィードバック」などをテーマに、2009年にコモンズ論でノーベル経済学賞を受賞したオストロム氏のコモンズ成功の8原則などを紹介後、それぞれの専門分野からの意見やアイデアをお伺いし、最後にIISE理事兼CTOの野口 聡一がクロージングの挨拶を行いました。
導入-「月面活動の動向と月面生活」について
佐野 2018年、月面に水の氷が存在する証拠が発見され、有人活動計画が活発化してきました。それによって、中国とロシアは共同で月に研究拠点をつくる計画を立て、対抗するアメリカもアルテミス計画を打ち立てます。一方で1960年代につくられた宇宙条約では、月資源の所有権や取引は定められておらず、その国際ルールやガバナンスの再考が課題になってきました。本日はそういった課題に関する問題提起としまして、グローバル・コモンズとしての月面利用のガバナンスについて、みなさんのご意見をお聞かせいただきたいと思います。

また、民間企業の活動に関しても、ここ5年から10年の間に、衣食住に関連する企業や、建設メーカー、自動車メーカーなど、さまざまな分野の企業が加わり、月面に行く目的やインフラ整備といったことが議論されています。それらの活動は、これまで技術視点、システム視点からの議論が多かったところ、生活者視点で月面活動を考えることで、より豊かな月面生活や、地球生活への還元の可能性についても議論させていただきます。
グローバル・コモンズである月面での活動におけるガバナンス
中上 ispaceが月面活動におけるガバナンスの課題として捉えているのが、さまざまなステークホルダーがいる中で月での活動内容や目的の合意形成が図れていないことです。そのような中、民間企業としてのispaceとしてまず注力していることは、月にものを運ぶTransportationというインフラを確立し、月へのアクセスを高頻度・低コストで実現する機能を提供することです。そしてそのように活動をしていく中で、いち早くスタンダードになりうるものをつくっていくことが重要だと考えています。そして、各国政府や国連、グローバルな企業活動とも協調し、ガバナンスの構築に貢献できるポジションを目指しています。

小野 現状、月面の土地利用は方針やビジョンのようなものがなく、早い者勝ちになっていることにびっくりしました。地上では人口が過密になって問題になったのが公衆衛生です。その問題が解決されたと思っていたのに、新型コロナウイルスの流行によって未だに解決できていないことに気づかされました。月にも人が住み始めるとさまざまな問題が発生するでしょうから、土地利用のビジョンや方針を共有することが重要です。

また、早い者勝ちで得た土地の権利はいつまで有効なのかという問題もあります。そこにも事前にルールを決めておくことが必要だと思います。地上の都市計画でも成功例や失敗例はいっぱいあり、地上のコモンズを知ったうえで宇宙コモンズに取り組むことが大切だと、改めて思いました。
浅野 宇宙の生活者視点でルールメイキングするのに大切な視点は、現地ではそれがアプロプリエート(適切)であるということですね。都会から見たら、ナミビアの都市計画は滅茶苦茶にも見えますが、現地で見たらアプロプリエートなのです。現地現場の適切さ、宇宙だからこその適切さを考えられるといいなと思いました。

田中 地球での土地利用は、最初に法律があって建物を建てたわけではなく、経験からルールがつくられていきました。今、月は誰も住んでいなくて、まだルールや基準がありません。
例えば重力が1/6だったら、階段の大きさや天井の高さも考え直す必要があるでしょう。誰かが現地に即したガバナンスやルールをつくっていかなければならないでしょう。0からつくるというところは非常に面白いです。それを私たちのチームでやりたいと思っています。

月面における「生活者視点」を考える
佐野 月面において「生活者視点」で考えるべきことは、何だと思われますか。月面での学びは、いかにして地球生活・地球コモンズへフィードバックできるのでしょうか。
浅野 よく、宇宙と地上って全然環境が違いますよねって言われるのですが、Past behavior is the best predictor for the future behaviorというように、人間の行動や思考は宇宙でも大きくは変わらないんですね。重要なのは、我々が地上で経験してきたことと紐付けながら、推測していくことです。
すなわち、月面での生活者視点とは、地上での生活者視点と基本的には変わらず、それが宇宙だったらどうなるのかを考えることが大切になってきます。
田中 宇宙建築は、宇宙での生活の質、QOLの向上をキーワードに考えています。宇宙飛行士でなくても、誰もが出張で宇宙に行くような時代に、どうやったら宇宙で快適に過ごせるかをしっかり設計していきたいです。
地球へのフィードバックとしては、例えば一番分かりやすいのは被災地での避難生活だと思います。月面という隔離された場所でも快適に生活ができるようになれば、それをフィードバックすることで、地上の避難所や南極とか山の中の工事現場など、いろいろな場所の快適な生活に還元できると思っています。
小野 月面で生活者視点を取り入れていくにあたって、例えば地上も週休3日にして、そのうちの1日は「暮らす」ということをしっかりやったほうがいいと思っています。ナミビアだと家をつくるとか、水を引くとか、作物をつくるとかを日常的にやっています。月面もシステムや環境の設計より、まずライフスタイルの設計を描いて、次にそれを実現するシステムをつくることで質の高い暮らしが実現できるのではないかと思います。
また、地球の都市は農村から人が出てきて孤独になるという問題が出ています。宇宙という厳しい環境の中で、人々のつながりや心の豊かさを重視した都市を考えて、その知見が地上にフィードバックできればいいですね。
中上 ispaceの活動は、シスルナ(cislunar)経済圏という、地球と月が互いに関連する領域での経済圏を考えていますので、地球へのフィードバックはとても重要と捉えています。地球につながる月面の要素は「資源」「技術」「文化/風土」の3つがあると思います。
「資源」は経済的に価値があり、「技術」は地球の過酷な環境にも応用できるなどイメージしやすいと思います。「文化/風土」は、宇宙に行くと人生が変わると言われますが、ispaceと一緒に月面探査のミッションに参加しているお客様も、会社の企業風土や文化がポジティブに変わることを、月事業に取り組む価値の一つと感じていただいております。そういう観点から、地球と月が一体となったシスルナ経済圏ができるといいなと思っています。
浅野 最近は高校生の探求学習に関わっているのですが、そこでは宇宙飛行士の映像とかをたくさん見せて、徹底して宇宙で生活しているような気持ちになってもらっています。
そうすると、エネルギーは無駄遣いしないとか、食べ物は残さないなどは当然、というふうに考え方が宇宙パラダイムにシフトするんですね。自分たちの生活も大きく変わっていきます。そういう宇宙パラダイムで動ける若い世代の人たちが、サステナブルなビジネスを始めたら非常にインパクトが大きいと思います。

野口 私は、宇宙は引き算の世界であるといつも言っています。地上でできていることが、できなくなっていくのです。環境や通信条件が厳しかったり、食事や入浴に制限があったりします。
地上でも、例えば、災害が起きた時とか、部分的に通信が遮断されるようなことは引き算の世界になります。そういう引き算の状況でのQOL向上を考えることが月面生活であり、本日のセッションでそれが地上でも同じように考えられるのだという気づきが得られました。本当に素晴らしい議論を楽しませていただきました。ありがとうございました。

【アーカイブ動画・抄録を公開中】
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アーカイブ動画
抄録
https://www.i-ise.com/jp/information/symposium/2025/sym_iise-forum2025_ab.html
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