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ネイチャーポジティブに向けたICTの可能性【IISE FORUM 2025 ブレイクアウトセッション(環境編)】

国際社会経済研究所(IISE)が2月7日に開催したIISE FORUM 2025の後半では、各会場に分かれてテーマごとにより深い議論を進めるべく、ブレイクアウトセッションを実施しました。本記事では「環境」テーマのセッションについて、内容をレポートします。
 
「ネイチャーポジティブに向けたICTの可能性」と題されたこちらのセッション。東北大学大学院生命科学研究科教授の近藤 倫生 氏、国際協力機構(JICA)サステナビリティ推進担当特命審議役の見宮 美早 氏、サントリーホールディングス株式会社 サステナビリティ経営推進本部 生物多様性統括 水グループ部長の瀬田 玄通 氏、日本電気株式会社(NEC)コーポレート事業開発部門AgriTechビジネスグループ ディレクターの村川 弘美 氏が登壇しました。
 
国際社会経済研究所(IISE)ソートリーダーシップ推進部の崎村 奏子の進行のもと、自然の価値を統合した社会・経済を実現する方法やデジタル技術の可能性について、会場からの声も交えて対話しました。


「生物多様性のリスクはチャンスでもある」挨拶-野口 聡一

野口 本日行われている4つのブレイクアウトセッションテーマの中でも、環境セッションは私としても最も関心が高く、注目しているセッションの一つです。

株式会社国際社会経済研究所 理事 兼 CTO 野口 聡一

IISEではこれまで、ネイチャーポジティブに向けたICTの可能性を探ってきました。多くの企業が今、生物多様性のリスクを同時にチャンスと捉え、企業活動の中にネイチャーポジティブの考え方を取り入れていこうとしています。

ネイチャーポジティブの現状と課題

篠崎 気候変動、人間社会、生態系は相互作用のあるシステムです。その相互作用を生かした問題解決が求められます。自然資本は急速に劣化し、我々の暮らしの存続にとって大きなリスクとなっています。

株式会社国際社会経済研究所 ソートリーダーシップ推進部 プロフェッショナル 篠崎 裕介

2022年の生物多様性COP15で「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、企業へ自然との関係に関する情報開示要請が盛り込まれ、ビジネスをネイチャーポジティブへ変えていくお金の流れが変化しようとしています。

環境に関するIISEのソートリーダーシップ

藤平 IISEは環境に関するソートリーダーシップをさまざまなかたちで推進しています。2023年10月にはネイチャーポジティブ、2024年2月は適応ファイナンスをテーマにシンポジウムを開催しました。「IISE公式note(注:本note)」で随時情報を発信し、「IISE Webinar」では専門家による最新動向を提供しています。

株式会社国際社会経済研究所 ソートリーダーシップ推進部 プロフェッショナル 藤平 慶太

昨年、ホワイトペーパー「GX-VISION」を発行しました。ネイチャーポジティブの分野でICTの活用が期待されています。

ネイチャーポジティブに向けた様々な取り組み

崎村 ネイチャーポジティブに関するみなさんの取り組みについて教えてください。
 
近藤 生態学やエコロジー学の観点から、自然のバランスについて研究しています。ネイチャーポジティブの難しさは、「複雑性」「地域性」「マルチステークホルダー性」の3つの要素を考慮しなければならない点にあります。

東北大学大学院生命科学研究科 WPI-変動海洋エコシステム高等研究所 Ecological Complexity Unit 教授 近藤 倫生 氏

まず、複雑性に適う十分なデータが無ければ、状態把握も予測も目標設定もできません。そこで、水や土壌の中に含まれるDNAを使用して生息する生物を調べる「環境DNA」を基本に、日本全国をカバーする観測網「ANEMONE」を立ち上げました。国際観測網「ANEMONE Global」に発展しています。
 
地域性とマルチステークホルダー性を支えるためには、データを使って地域社会の合意を形成していく仕組みが必要です。東北大学をベースに、ネイチャーポジティブ拠点を設立しました。データの収集、活用、地域の合意形成、ネイチャーポジティブへの投資促進などを議論しています。

株式会社国際社会経済研究所 ソートリーダーシップ推進部 プロフェッショナル 崎村 奏子

見宮 JICAは途上国で多様なプロジェクトを実施しています。私自身、地球環境部で中南米、アフリカ、アジアなどを担当、それ以前はケニアとフィリピンに9年滞在しました。
 
JICAは長年にわたって自然環境保全事業に取り組んでいて、「自然環境を守る」ことと「自然環境の恩恵を生かす(Nature-based Solutions)」を柱としています。これに加えて、サステナビリティの軸で、生物多様性の視点をインフラなど他のセクターに主流化することを推進しています。

国際協力機構 サステナビリティ推進担当特命審議役 見宮 美早 氏

ある事業を実施すると、その領域以外でトレードオフが起きえます。良かれと思って進めた開発が、自然にとってはネガティブな結果につながる可能性もあります。いかにトレードオフを避けて、むしろ相乗効果(シナジー)を発現させていくのか、いろいろな分野の事業において ネイチャーポジティブ の事例をつくれるのか、追求、実践しています。
 
瀬田 当社は1923年、大阪府の山崎に日本初となるウイスキー蒸留所を建設し、地域の名水とともに事業を100年以上続けてきました。「原料」「水」「容器・包装」の3つが当社の経営基盤であり、すべてが生態系に支えられています。その生態系を支えているのが生物多様性です。つまり、当社の存続には生物多様性が欠かせません。

サントリーホールディングス株式会社 サステナビリティ経営推進本部 生物多様性統括 水グループ 部長 瀬田 玄通 氏

サントリー「天然水の森」活動は、地下水の水源となる地下水涵養エリアの森林を守るプロジェクトです。16都府県、26カ所、1万2000haに及ぶ森林を保全しています。当社が使用している地下水の2倍以上の地下水を涵養できる規模です。
 
この内の6カ所が「30by30目標」の「自然共生サイト」に認定されています。観測とシミュレーションを基軸とする「Research-PDCAサイクル」により、確度の高い取り組みを進めています。
 
村川 NECは2008年頃から農業に少しずつ参入してきました。ビジョンは「誰でも農業が可能な世界の実現」です。AIやIoTを活用し、農業生産現場の革新を進めています。衛星、センサー、人による作業などを通じてデータを集め、状況を可視化し、さまざまな気づきやノウハウを得ています。
 
優秀な農家のやり方をAIに学習させるAI営農により、未来予測や自動化を進めます。一次生産から加工、流通までを含むバリューチェーン全体をICTで支援していきます。
 
2022年9月、ポルトガルにカゴメ株式会社と合弁会社をつくり、加工用トマトのAI営農支援を進めています。灌漑量を19%削減し、収穫量を23%増やすという実績を記録しました。

スマホを通じて参加者のコメントを集め、会場全体で対話した

日本の技術と経験で世界の取り組みを支援

崎村 自然の価値を織り込んだ社会や経済にしていくために、私たちは何ができるでしょうか。
 
近藤 自然は多くのステークホルダーをつなぐ結節点です。私たちが進めている活動が、他のステークホルダーにどのような価値を与えているのか。コストではなく投資としての価値を生み出す可能性について、データとモデリングで可視化しています。そこにデジタルの大きな可能性を感じます。
 
見宮 かつて日本の社会問題となった公害より酷い状況が、途上国で見られます。先進国と途上国はバリューチェーンでつながっており、途上国の自然資源は私たちが使っている資源でもあるのです。自然の課題はローカルであり、グローバルでもあります。その意識で、何ができるか考えています。
 
日本は公害を経験し、河川の管理技術を含む多くの技術と経験値を持っています。それをデータで示すことでよりよく途上国に伝え、また、技術をつなげていくことができます。例えば、ブラジルではAIと衛星技術を活用した違法伐採の監視に取り組んでいます。
 
瀬田 水源を守る取り組みを世界に広げています。スペインのトレドやオーストラリアのブリスベン近郊に工場があり、その流域で多数のステークホルダーと水資源を守るプロジェクトを進めています。
 
ブリスベン近郊では農地が増えることで土壌浸食が起き、河川を通じて土壌が海に流れ込み、ジュゴンの生息域に影響しています。現地では多数のプロジェクトが進められていますが、ICTは各プロジェクトの効果を可視化して協調を促し、流域全体で効果を高めることに貢献できると考えます。

日本電気株式会社(NEC) コーポレート事業開発部門 AgriTechビジネスグループ ディレクター 村川 弘美 氏

村川 水と肥料を減らすことが重要な施策となります。しかし、農作物の生産量も減らす可能性があり、強い反発があります。テクノロジーの導入によって効率を高め、水と肥料を減らしてもビジネスとして成長できる仕組みを模索しています。
 
日本はカロリーベースで言うと食料自給率が非常に低いです。肉や加工食品、調味料などの大半が輸入であり、世界中のさまざまなルートを通って私たちに届いています。自然破壊の少ない農業を、デジタル技術で支えていきます。
 
崎村 本日はありがとうございました。このフォーラムがみなさんの共創の場となり、アクションにつながることを期待しています。

【アーカイブ動画・抄録を公開中】

国際社会経済研究所(IISE)では、当日のセッションの様子を収録したアーカイブ動画および抄録を公開中です。

アーカイブ動画

抄録

https://www.i-ise.com/jp/information/symposium/2025/sym_iise-forum2025_ab.html

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