社会課題を解決し、市場を形成する ソートリーダーシップの「本質」と「可能性」【IISE FORUM 2025 基調・特別講演~パネルディスカッション】
国際社会経済研究所(IISE)が2月7日に開催したIISE FORUM 2025。その前半では機械経営CEOの安野 貴博 氏による基調講演、国際社会経済研究所(IISE)理事長の藤沢 久美による特別講演、そしてこの2人に加えて、インターブランドジャパンSenior Executive Directorの佐藤 紀子 氏、早稲田大学大学院経営管理研究科准教授の樋原 伸彦 氏が登壇し、パネルディスカッションを行いました。こちらの記事では一連の様子をレポートします。
【基調講演】未来をデザインする力 ~スタートアップ、SF作家、都知事選の経験をもとに~
IISE FORUM 2025は、機械経営CEOの安野 貴博 氏による基調講演で始まりました。2024年7月の東京都知事選に出馬した安野氏は、自身の研究テーマでもある人工知能(AI)を駆使して前例のない選挙戦を展開し、15万票という大きな支持を獲得しました。その体験談を会場と共有し、テクノロジーで社会プロセスを変えることの意義や成果につなげるためのポイントなどについて語りました。

ほぼ無名の状態で都知事選に出馬し、15万票を獲得
私は主に3つの職業を通じて、テクノロジーを使って未来を描いてきました。
1つ目の職業は、AIエンジニアです。東京大学工学部の松尾研究室で、AIの中でも特に自然言語処理(NLP)という分野を研究してきました。人が普通に書いたり話したりする日本語をAIで解析するテクノロジーです。
2つ目は、起業家です。AIの技術を駆使してプロダクトを作り、販売しています。これまでに2社創業しました。1社ではAIチャットボットを開発して提供しています。もう1社は、リーガルテックに関する事業です。法務とNLPを組み合わせ、法曹界や企業の法務部で働く方々の業務をサポートするツールを開発、提供しています。
3つ目が、SF作家です。2024年7月に発行した小説『松岡まどか、起業します AIスタートアップ戦記』は、AIを活用して10億円企業をつくる大学生の話です。少し先の未来で起きる事件と世界観を、小説形式でリアルに表現しています。
テクノロジーの使い方が、個人の人生、企業経営、国やコミュニティ全体の未来を変える時代です。AIによって多くの業界が実際に、急速に変化しています。その1つの事例として、私が体験した東京都知事選挙の事例を紹介していきます。

私は、一般知名度がほぼ無い状態で、2024年7月の都知事選に出馬しました。大手メディアの反応は冷ややかなものでしたが、結果として1カ月間の選挙活動を通じて15万票を獲得することができました。当落には全く絡めないレベルでしたが、大きな意味のある数字です。過去21回の都知事選で、30歳代で15万票を取った候補者は1人もいません。議員経験も政治経験もなく、政党からの支援も受けていない無名の候補者がこれだけの票を集めたということで、永田町でも大きな話題になったそうです。
膨大な意見や議論をAIでサポート
無名の状態から15万票も獲得できた理由は、AIを活用した双方向型の選挙に取り組んだからだと考えています。これを「ブロードリスニング」という概念で説明しています。いわゆる「ブロードキャスト」の逆の概念です。
1人の声をメディアを通じて多くの人に届けるのが、ブロードキャスト。逆に、多くの人の声を集約して1人の頭の中に入れるのが、ブロードリスニングです。これは、「聴く」「磨く」「伝える」の3つのステップによって実現します。
ステップ1は、「聴く」です。まず、有権者との議論の出発点として「安野たかひろマニフェスト」をオンラインで公開しました。私の理想や政策を説明する90ページほどのドキュメントです。これを発表すると、SNSのコメント欄に多数のフィードバックが集まりました。また、YouTubeで行った石丸伸二候補との対談が200万回以上再生され、5000~6000件ほどのコメントが付きました。
これらのフィードバックを実際に1人ですべて読むことはとても難しいでしょう。しかし、各コメントの内容をAIに分析させ、内容や意味の近さを数値化して2次元空間にマッピングすることで、トピックごとのボリューム、議論の内容、代表的なコメントを地図のように可視化し、全体像を俯瞰することができました。
私たちが開発したブロードリスニングの仕組みは、今日ではテレビの選挙特番などに利用されています。東京都が「未来の東京」戦略を発表していますが、そこでもブロードリスニングによる政策の検討が行われました。見落としていたニーズを発見し、新たな戦略の柱につなげようとする実例が生まれています。
ステップ2は「磨く」です。選挙期間中、Web上にフォーラムを立ち上げ、掲示板を作り、誰でもマニフェストへの意見や変更提案を出せるようにしました。これには、オープンソースのエンジニアが使っている「GitHub」というプラットフォームを利用しています。都知事選が行われた6月20日から7月6日までの17日間で、232個の課題提起と104個の変更提案があり、そのうち85個がマニフェストに反映されました。2週間で政策が85回もバージョンアップされた計算になります。
これだけ大勢の人が参加して、掲示板の議論が荒れなかったのか?
よく聞かれる質問です。私たちは、建設的な議論を実現するために、ここでもAIを活用しました。活用の軸は2つあります。1つは、攻撃的な投稿や不適切なコメントを自動検出し、見えないようにしたこと。もう1つは、議論の重複を発見し、テーマごとに整理された個別のスレッドに誘導したことです。200ものスレッドが立っている掲示板の書き込みを、隅から隅まで読んだうえで議論に参加することは不可能に近く、同じような議論があちこちで発生します。それをAIで検出し、テーマごとにまとめていきました。
新たな価値をデジタルでどう生み出していくかに注目すべき
ステップ3は「伝える」です。85回もバージョンアップされ、90ページを超えるようなマニフェストを数十万人というユーザーに届けることは、簡単ではありません。そこで、マニフェストの内容と自分の考えをAIに学習させ、自分の分身(アバター)として自動的に応対できる「AIあんの」を作りました。
ユーザーから刻々とやって来る批判や意見に対し、AIあんのがコメントを返します。その仕組みをYouTube上で24時間稼働させました。また、YouTubeを使い慣れない方々も想定して音声で回答できる電話版のAIあんのも作りました。
結果、YouTube版のAIあんのは16日間で7400件のコメントに返答し、電話版のAIあんのは12日間で1200件以上の電話に音声で応えました。
合計8600件の質問や意見に回答できたわけですが、1人の人間では、とてもできないことですよね。有権者はAIあんのと1対1で対話し、自分の知りたいことに近づくことができたでしょうし、とても有意義な取り組みになったと思います。
AIをこのように活用した結果、都知事選で15万票を集めることができました。
今回の取り組みで得られた教訓があります。それは、テクノロジーを使って世の中を変えていこうとする時に、既存のワークフローをそのまま置き換える考え方では良くないということです。テクノロジー本来の潜在能力を活かせないからです。
デジタルトランスフォーメーション(DX)には、2つの考え方があります。1つは、現状の業務プロセスを、そのままデジタルに置き換えていく考え方。これでは、業務を抜本的に変革することは難しい、と私は考えます。
そこで検討したいもう1つの考え方は、デジタルだからこそ可能になるメリットを最大限に活かし、業務プロセス自体を変えていくことです。
今回の都知事選では、従来型のブロードキャストをそのままデジタル化することもできました。しかし、ブロードリスニングという新しい手法を実現するためにデジタルを活用することを選んだ。
未来を考えていく際には、新たな価値をデジタルでどう生み出していくかに注目すべきと考えます。

【特別講演】ソートリーダーシップ活動とは何か ~ソートリーダーシップ活動の本質と可能性~
国際社会経済研究所(IISE)の理事長を務める藤沢 久美が登壇し、マーケティングから経営戦略へ領域や概念が変遷してきたソートリーダーシップの最新事情について語りました。先行き不透明な時代において、企業がソートリーダーシップ活動に取り組む意義と可能性はどこにあるのか。IISEにおける研究成果を基に、実際の取り組み事例を交えて解説しました。

ソートリーダーシップ活動が仕事のプロセスを変えていく
IISEはNECの独立シンクタンクとして、ソートリーダーシップ活動を牽引しています。3年前に理事長に着任し、ソートリーダーシップについて考え続けてきましたが、なかなか本質をつかむことが難しいテーマです。
ソートリーダーシップを社会のみなさまがどう認識しているか、2025年1月に調査しました。一般的なビジネスパーソンの間での認知度は1割程度で、ソートリーダーシップという言葉自体は、日本ではまだしっかりとは根づいていないようです。

ソートリーダーシップに関するさまざまな論文を調べた結果、2000年代、2010年代、2020年代で、それぞれ大きな変遷が見られることがわかりました。
インターネットが台頭し、eコマースが広がった2000年代。主にSNSの領域でB to Cのビジネスを対象とし、インフルエンサー・マーケティングの文脈でソートリーダーシップを語る論文が多く見られました。
2010年代に入ると、対象がB to Bのビジネスに移ります。デジタルマーケティングの領域で、企業がホワイトペーパーのようなかたちで調査結果やインサイト、産業動向などを発信し、プル型のマーケティングを実現していく。そのような文脈で、ソートリーダーシップを語る論文が数多く見られるようになりました。
そして2020年代。デジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれるようになり、企業は社会課題の解決とビジネスを同時に考えていかなければならない時代になっています。ソートリーダーシップはB to S(Society)をテーマにし、経営戦略として語られるようになりました。
ソートリーダーシップ活動を進めるには、3つのアプローチが必要になります。
1つ目は、未来ビジョンを提示する「不確実性へのアプローチ」です。2つ目はソートリーダーを発掘・育成する「人的資本へのアプローチ」。3つ目は、戦略思考に基づいて戦術の実行をする「市場創造へのアプローチ」です。
VUCAの時代と言われています。社会のデジタル化が進み、AIが進化する中で、企業全体、社会全体、産業全体がトランスフォームしていかなければならない。お手本がない中で、自らビジョンをつくり、旗を立て、仲間を増やし、共に未来の姿を実現していくような活動が求められています。それがまさに、ソートリーダーシップ活動です。

これから求められるリーダー像は、未来の姿と戦略を描ける人です。ソートリーダーシップ活動とは、ビジネスリーダーを社内から発掘し、育成していく活動と見ることもできます。
そして、ソートリーダーシップ活動で新しい市場を創るというコンセプトは、これまでのマーケティングや営業、事業のプロセスを変えていきます。市場ニーズを発掘して対処する仕事のスタイルから、市場ニーズに先んじて「こうあるべきだ」と打ち出していく戦略思考の仕事に変わっていきます。
4つの戦略思考と3つのステップで進める
ソートリーダーシップ活動には、4つの戦略思考が必要だと考えています。
1つ目は「先回り思考」です。答えがない、お手本がない世界では、先回りして理想を示し、先に走り出すという思考が必要です。
2つ目は「マルチステークホルダー思考」です。1社では新しい産業も社会もつくれません。産官学に加え、NPOや財団、生活者、市民などを巻き込み、一緒につくっていく必要があります。
3つ目は「全体思考」です。部分最適の思考では、未来は語れません。全体を視野に入れ、どう動かしていくかを考えていく必要があります。
4つ目は「投資思考」です。ソートリーダーシップ活動を成功させるには、人、資金、時間を投資して必ずリターンを得るという思いが必要です。経済的なリターンを得るまでには、少し時間がかかるでしょう。しかし、非財務資本のリターンは活動を始めたその日から得られると考えています。
例えば、さまざまな知見を集めてくるナレッジ資本は、すぐにでも獲得できます。マルチステークホルダーで他者と活動するリレーション資本も、あっという間に大きくなるでしょう。企業が積極的に未来を提示することは、ブランド資本の拡大につながります。ソートに基づいて社会を動かしていく過程では、信頼というトラスト資本が培われていきます。

ソートリーダーシップ活動を続けることで、さまざまな非財務資本が蓄積されていきます。投資効果を上げていく先に、新たな市場という大きな経済価値を獲得できると考えています。
そして、IISEが取り組むソートリーダーシップ活動は、3つのステップで進めています。
1つ目のステップは「未来の構想をつくる」です。私たちは未来の構想をソートと呼んでいます。どんな社会課題を解決するのか、それは企業が持っているパーパスと整合しているか、企業が持っている技術や商材、強みを生かして本当に社会課題を解決できるのか。自分の会社の強み、自分たちの商材を明確に認識している人がいなければソートリーダーシップ活動はできません。
また、未来の構想をつくる際には、あらゆる生活者にとって安心、安全、公平、効率的なものであるかという視点で検証する必要があります。
2つ目のステップが「共感を生み出す」です。社会の共感を得て仲間をつくり、枠組みをつくり、エコシステムを形成していきます。
そして3つ目のステップが「社会実装を拡大していく」です。未来を実現するために新しい価値を社会に実装していこうとすると、ルールや法律がないとか、いまの法律が未来づくりの妨げになるケースがあります。そういう場合に、私たちは政策提言にも果敢にチャレンジしていきます。
「未来をつくるパーパス都市経営」を自治体と共に推進
私たちは「未来をつくるパーパス都市経営」という新たなコンセプトをソートとして発信し、2023年1月に書籍化しました。自治体の運営を経営と捉え直し、パーパスをしっかりと持つべきだというコンセプトを打ち出しました。
不動産協会賞をいただいたことで、社会的な評価と認知が高まりました。スマートシティ社会実装コンソーシアムを設立し、具体的な枠組みづくりにも取り組んでいます。さまざまな自治体の首長から「パーパス都市経営に共感した。一緒に取り組みたい」「当地域にパーパス都市経営を導入したい」といった声をいただきました。全国各地のソートリーダーの発掘にもつながり、地域ごとにパーパス都市経営を実装しようとする動きが生まれています。
私たちのソートリーダーシップ活動には、これ以外にもたくさんのテーマがあります。この後のブレイクアウトセッションでも、各テーマで議論します。ぜひご参加いただき、ソートや枠組みをさらに充実させ、戦略を磨いていく仲間となっていただければ幸いです。
【パネルディスカッション】 TL Hub presents ~ソートリーダーシップを考える~
基調講演と特別講演に続き、有識者によるパネルディスカッションが行われました。インターブランドジャパンSenior Executive Directorの佐藤紀子 氏、早稲田大学大学院経営管理研究科准教授の樋原 伸彦 氏、機械経営CEOの安野 貴博 氏の3人が登壇し、国際社会経済研究所(IISE)理事長の藤沢 久美がモデレーターを務めました。それぞれの立場からユニークなアイデアが披露され、企業におけるソートリーダーシップの可能性と成功に導くポイントについて議論されました。

アスピレーションの強さが成功のカギを握る時代
藤沢 みなさんは、ソートリーダーシップをどう捉えていますか。
佐藤 私の専門であるブランディングとは、世の中に絶対的な存在感をつくりだす仕事です。すなわち、世の中から信頼され、認知され、共感されるということです。「絶対的な」の部分は、その存在が尖っているかどうかで判断されます。そしてその尖りとは、市場に対するリーダーシップや変革をやめない姿勢、イニシアチブなどで生まれます。企業がそれらをしっかりと体現できるようにする過程が、ソートリーダーシップと重なると思いました。

Senior Executive Director / Head of Client Services & Solutions Group
佐藤 紀子 氏
この数年、企業の行動に対する消費者の目が厳しくなっています。コロナ禍以前はパーパス経営が勃興し、パーパスを立てたいというニーズがすごく多かったです。しかしコロナ禍を経て、未来の予測が難しくなりました。旗を立てる必要はありますが、それだけでは共感を得づらくなりました。消費者は企業の旗だけでなく、具体的な行動を見て判断するようになっています。
樋原 エフェクチュエーションに近い概念だと感じています。多くの企業は、競争相手と市場の動向を把握し、過去の知識をベースに将来を予測しようとします。しかし、VUCAの時代になり、未来が予測しづらくなりました。なのに、未だに新規事業を始める際はプランニングをする。いったんプランニングすると、それに縛られてしまい、予想外の環境変化に対応できず、身動きが取れなくなってしまいます。

ソートリーダーシップとの共通点は、「動機に志があるかどうか」が重要になる点です。エフェクチュエーションでは、アスピレーション(実現したい思い)がいかに内的衝動として出ているかが、成功と失敗を分けるポイントになります。ソートリーダーシップのソートも同じだと考えます。
安野 人工知能(AI)の業界を見ると、うまくいっている会社はソートリーダーシップがあると感じます。今日のAI業界ほど、不確実性の高い分野はありません。明日何が起きるかわからない状況です。
そこで勝っている人たち、例えば米OpenAIのサム・アルトマン氏や米アンソロピックのダリオ・アモデイ氏などは、みな強いアスピレーションを持つ人たちです。不確実性の高いAI市場でこうしたプレーヤーが勝っている。その事実は、大きな示唆を与えていると思います。
ソートは立場の上下を超え、忖度のない状態で徹底的に議論せよ
藤沢 大企業がソートリーダーシップをしていく場合、どのようにソートをつくっていけばよいのでしょうか。組織がアスピレーションを持つことは可能でしょうか。
樋原 組織自体がアスピレーションを持つことは難しいです。人の内面から出てくる強い志が入っていないと、アスピレーションもソートも成功しないからです。経営の視点で見れば、現場の社員から上がってくるアスピレーションを組織がどこまで受け止められるかが、企業の未来を左右するでしょう。
佐藤 大企業がソートを発信する場合、やはり経営トップの役割が大きいと思います。長い歴史を持つ大企業には顔がないと、よく言われます。ソートがあったとしても、それを表現するのは誰か。経営トップが先頭に立ち、自分流の振り付けによって発信していく必要があるでしょう。
もう1つは、ソートリーダーとして世の中にソートを発信したら、それに応じて組織の思想と行動も変えていかないと説得力がありません。その際には「わくわく」「ならでは」「できる」の3つキーワードが必要です。「わくわく」はアスピレーションに近いと感じます。
さまざまな企業のトップが集うコミュニティとしてソートを発信し、その中でリーダーシップを取っていくような方法もあります。また、事業のリーダーと経営トップがタッグを組むことも重要です。企業がその事業をコミットしているサインとして、トップが出ていく必要があります。
樋原 経営トップが前に出ているのに、そこに事業レベルのマネージャーが出て行っても良いか。そんな議論があるかもしれませんが、問題ありません。ソートをつくる際には、立場の上下を超え、忖度のない状態で徹底的に議論すべきです。これは「知的コンバット」と呼ばれますが、近ごろの日本企業には知的コンバットが無さすぎると、一橋大学名誉教授だった故野中郁次郎氏がよく言っておられました。
藤沢 企業のソートに生活者の視点を入れていくために、効果的な方法はありますか。
安野 ユーチューバーをやってみるのはどうでしょうか(笑)。多くの生活者とダイレクトにやり取りできることを知ってまずは驚くでしょう。そして、いかに多彩な人とコミュニケーションし続けられるか、そうした環境やコミュニティに投資できるかが重要になってくると思います。コミュニティがないと、生活者の発想からどんどん遠ざかってしまいます。逆に、コミュニティがあれば、いろいろなものを発見していけます。
ターゲットを決めず、多くの可能性を同時に見ていく
藤沢 ソートを磨きながら、社会の共感を得ていく必要があります。共感を得たり仲間をつくっていくという部分で、何かヒントはあるでしょうか。

樋原 1つの論点として、「私たちは意外にアスク(お願い)していない」という問題があります。米カリフォルニア大学バークレー校で人気のある授業に「今からキャンパスに出て行き、会った人に何でもよいから頼んでみなさい。断られたら帰って来なさい」というものがあります。実際にやってみると、なかなか帰って来れないのです。見ず知らずの人でも、お願いすると意外に応じてくれるからです。
みなさん、アスクの量が少なすぎます。大企業であればなおさら、他部署や外部の人にもっとアスクしていくべきです。組織や社会の潜在能力を活かせていません。
佐藤 ソートリーダーシップはマーケティング手法として発達したため「ターゲット」という考え方があり、結果的にすごく邪魔をしていると感じています。答えを当てにいってしまうからです。ターゲットではなく、オーディエンスという言い方をした方がよいでしょう。ターゲット層の周辺に、多くの潜在的な共感層がいるはずだからです。
樋原 同感です。ターゲットという言葉で市場を見つけにいくのではなく、逆につくっていかないといけません。ターゲットを絞らず、たくさんの可能性を同時に見ていく姿勢が重要です。
藤沢 安野さんの著書『1%の革命』に「公共調達にアジェンダセッティングすると、課題解決と同時に新市場が形成できる」と書いてありました。
安野 ゼロから市場を形成していく最初の段階が、すごく大変です。そこで、公共サービスが最初に投資して市場のベースをつくってくれれば、企業も活動しやすくなります。企業のリスクテイクをいかに容易にするかが重要です。
藤沢 成功確率を上げるには、何をするべきでしょうか。
安野 失敗したときのダウンサイドを、うまくコントロールすることです。金融の世界でいうコールオプションがそれですよね。ダウンサイドはきちんとキャップされていて、小さな損しかしない半面、アップサイドは大きく取れます。宝くじも同じです。買った代金しか損しないけれど、当たれば10億円になる。こういうリスク分布にできれば、さまざまな投資が可能になります。
藤沢 今日はたくさんのヒントをいただきました。ソートリーダーシップは企業から始まり、やがて国民的な活動になっていくかもしれません。大きな勇気をいただいたように感じます。ありがとうございました。

【アーカイブ動画・抄録を公開中】
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抄録
https://www.i-ise.com/jp/information/symposium/2025/sym_iise-forum2025_ab.html
