娘の一人遊び|上条デイズ#9【連作ショートショート1】
娘が通う公立幼稚園は、
送迎バス内おしゃべり禁止だった。
あれは今でも続いているのだろうか。
幼稚園児たちが、一言もしゃべらずに、
バスに黙って座る。
上条靖之は、送迎バスのお迎えに、
一度だけ行ったことがある。
窓の外を見つめる、娘の目。
娘がかわいそうに思えた。
仲の良い友達と、ちょこんと
並んで座っているのに。
笑うことが禁止されているみたいで、
とても嫌だった。
バスを降りてくる娘を、
すかさず抱きしめてやりたかった。
けど、その気持ちをぐっとこらえて、
娘の手を取り、すばやく
上条の車に乗り換える。
娘のお気に入りの公園に、
車を走らせる。
途中、後部座席の娘が、
今日一日の出来事を話してくれる。
先生のこと、友達のこと、弁当のこと。
何気ない一日だったことが、上条には嬉しい。
公園では、娘は一人で遊ぶ。
たまに一緒になる子供もいるが、
娘は一人遊びが好きだ。
ブランコに、滑り台に、雲梯。
体力が続く限り、走り続けている。
上条は、その姿を見ているだけで、
世界が全部うまくいっている気がする。
帰りには、いつものケーキ屋に立ち寄る。
生パイを買う。
生パイを、口いっぱいに頬張る娘の姿が、
今でも目に焼き付いている。
→ #10味のしない煮込みうどん|風邪気味の娘 に続く

