アリョーシャ、いつの間にか復活の巻「カラマーゾフを読む」(27)
アリョーシャ、いつの間にか復活の巻「カラマーゾフを読む」(27)
第三編 好色な男たち 九 好色な男たち
前章のラストではアリョーシャの突然の発作とドミートリイの乱入という、カオスにカオスをぶつけた急展開となりました。
一つの部屋を舞台に展開されるこうしたドタバタ劇はまさにシェイクスピア的。まるで演劇を見ているかのような大立ち回りです。
ドミートリイはもはや錯乱状態で飛び込んできました。ここにグルーシェニカがやって来たと勘違いした彼は完全に冷静さを失っています。
そしてそんなドミートリイを止めようとしたグリゴーリイは呆気なく殴り倒されノックアウト。かつて自分を世話してくれた老人を躊躇なく殴るほどドミートリイは激高しています。
「グルーシェニカがこの家にいる!」とドミートリイは家じゅうを探し回り、走り抜けます。これもまさに演劇的。ドミートリイは私たち観客の前から姿を消し、音だけが響いてきます。
そしてふいに一同の集う広間に再び現れました。
ここでよせばいいのにフョードルが「そいつを捕まえろ!」とドミートリイを挑発しとびかかってしまいます。ドミートリイだけでなくフョードルもグルーシェニカの件で正気を失ってしまっていたのです。
退役軍人たるドミートリイに老人のフョードルがかなうわけもありません。思いっきり返り討ちに遭ってしまいます。
ここでイワンとアリョーシャがドミートリイにしがみついて止めていなかったら本当に死んでしまいかねないほどの暴力を実の父に振るってしまうのでした。
ただ、ドミートリイは自ら暴力を振るったわけではありません。フョードルがとびかかっていかなければこの暴力もなかった可能性があります。私も久しぶりにこの『カラマーゾフ』を読んでそのことに思い当たりました。ドミートリイの目的はあくまでグルーシェニカであって、父親を殴ることではないのです。
しかも彼の錯乱も、そもそもといえばグルーシェニカが原因です。金をくれない父への憎しみもたしかにドミートリイの中にはありましたが、それだけでは錯乱するほどにならないのです。
そして面白いことに、あれだけ狡猾なフョードルもグルーシェニカが絡むとすっかり正気を失ってしまうということです。
やはりカラマーゾフの血です。フョードルもドミートリイもカラマーゾフ的な情欲の嵐に巻き込まれています。そしてこれはイワンも同じであることが後に明らかにされますが、まずはこの二人に注目しておきましょう。
さて、この章ではカラマーゾフ家で起こった大乱闘の模様を我々読者は観劇したわけでありますが、皆さんもこの章を読んで気づかれましたでしょうか。
そうです。
発作で倒れていたはずのアリョーシャがいつの間にか復活していたのです。
しかも意識もはっきりしていて、必死でドミートリイを引き留めています。
発作そのものも突然で謎めいたものではありましたが、その回復も謎のままです。読者の皆さんの中にはこの復活に気づかなかった方も多いのではないかと思います。あまりに自然に戻って来たので発作のことなどすっかり頭から抜けてしまった方も多かったのではないでしょうか。
結局アリョーシャの復活についてはこの後も触れられずじまいです。
まあ、物語の大きな流れからするとさほど重要なポイントではないのでそこまで気にする必要もないでしょう。
ですが、何度も『カラマーゾフ』を読んできた私からすると、こうしてじっくり読んだからこそ味わえる不思議な箇所だったなと改めて感じたのでありました。
続く
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