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経営戦略は、やることではなく、やらないことを決めること

戦略を立てるというと、多くの会社は何をやるかを考えます。

新しい荷主を増やす。
売上を伸ばす。
採用を強化する。
配車を効率化する。
幹部を育てる。
会議を改善する。
新しい仕組みを入れる。

もちろん、どれも大事です。

ただ、ここで見落とされやすいことがあります。

やることを増やす前に、やらないことを決めているか。

ここです。

会社が大きくなるほど、やるべきことは増えます。
荷主も増える。
車両も増える。
人も増える。
現場の問題も増える。
社長が見るべきことも増える。

その中で、あれも大事、これも大事と全部を追いかけると、現場は忙しくなります。
でも会社は強くなりません。

なぜなら、経営資源が分散するからです。

戦略とは、何か新しいことを足すことではありません。
限られた経営資源をどこに集中させるかを決めることです。

そして、集中するためには、やらないことを決める必要があります。


1.戦略があるのに、なぜ現場は忙しいままなのか

会社には方針があります。

売上を伸ばす。
利益率を改善する。
採用を強化する。
事故を減らす。
管理職を育てる。
荷主との関係を強化する。

どれも間違っていません。

ただ、現場から見ると、結局こうなっていることがあります。

売上も追う。
利益も追う。
稼働率も追う。
クレームも減らす。
事故も減らす。
採用も見る。
教育もする。
荷主対応もする。
既存案件も守る。
新規案件も取りに行く。

全部大事。
全部やる。

この状態では、現場は何を優先すればよいか分からなくなります。

配車係は、稼働を埋めるべきなのか、利益を残すべきなのか、現場負荷を下げるべきなのか迷う。
営業は、売上を取りに行くべきなのか、条件の良い荷主を選ぶべきなのか迷う。
管理者は、事故対策を優先するのか、教育を優先するのか、日々のトラブル対応を優先するのか迷う。

戦略がないのではありません。

やらないことが決まっていないのです。

やらないことが決まっていない会社では、現場は全部を頑張ろうとします。
そして、全部を頑張るほど、優先順位がなくなります。

2.経営戦略とは、やることを増やすことではない

経営戦略という言葉は、少し大きく聞こえます。

でも、本質はシンプルです。

限られた経営資源を、どこに使うかを決めることです。

運送会社の経営資源は限られています。

車両。
ドライバー。
配車係。
管理者。
社長の時間。
資金。
荷主との関係。
拠点。
信用。

これらは無限ではありません。

だから、どこに使うかを決める必要があります。

どの荷主に車両を使うのか。
どの仕事にドライバーの時間を使うのか。
どの案件に配車係の集中力を使うのか。
どの問題に管理者の時間を使うのか。
社長の時間を、火消しに使うのか、未来の判断に使うのか。

ここを決めるのが戦略です。

逆に言えば、どこに使わないかを決めない限り、経営資源は分散します。

利益の薄い仕事にも車両を使う。
拘束時間の長い仕事にもドライバーを使う。
条件の悪い荷主対応にも配車係の時間を使う。
毎月同じトラブルに管理者の時間を使う。
社長が細かい現場判断まで抱え続ける。

これでは、会社は忙しいまま強くなりません。

3.やらないことを決めない会社は、経営資源が分散する

やらないことを決めない会社では、仕事が増えるほど会社が苦しくなることがあります。

一見すると、仕事があるのは良いことです。

配車表が埋まる。
車両が動く。
売上が立つ。
荷主との関係も続く。

でも、その仕事が会社を強くしているかどうかは別です。

帰り便が弱い。
荷待ちが長い。
拘束時間が長い。
急な変更が多い。
配車が組みにくい。
現場負荷が高い。
単価交渉もしにくい。

こうした仕事に経営資源を使い続けると、会社は削られます。

そして怖いのは、利益が薄くなることだけではありません。

良い仕事を取りに行く余力がなくなることです。

伸ばすべき荷主に提案する時間がない。
条件交渉する時間がない。
新しい荷主を探す時間がない。
幹部を育てる時間がない。
採用の仕組みを整える時間がない。
会議で優先順位を決める時間がない。

薄い仕事は、利益だけでなく未来を作る時間も奪います。

だから、やらないことを決める必要があります。

4.運送会社が決めるべき、やらないこと

やらないことを決めると言っても、いきなり荷主を切るという話ではありません。

まずは、増やさない仕事を決めることです。

今は関係維持のために受けている。
ただ、これ以上増やしてはいけない仕事。
受けるなら条件交渉が必要な仕事。
配車負荷が高く、現場を苦しめている仕事。
売上はあるが、利益が残りにくい仕事。

こうした仕事を、何となく受け続けないことです。

次に、追わない売上を決めることです。

売上になるなら何でも取りに行く。
車両が空くならとりあえず埋める。
荷主との関係があるから断れない。

この判断を続けると、会社は忙しくなります。
でも、強くなるとは限りません。

さらに、社長が抱えない判断を決めることも必要です。

すべて社長が見ない。
すべて社長が決めない。
すべて社長が火消ししない。

どの判断は管理者に任せるのか。
どの判断は配車係に任せるのか。
どの判断は会議で決めるのか。

ここを決めなければ、会社が大きくなるほど社長だけが苦しくなります。

やらないこととは、撤退だけではありません。

増やさない。
追わない。
抱えない。
後回しにする。
任せる。

これも立派な経営判断です。

5.やらないことを決めるには、数字を分解して見る必要がある

ただし、やらないことは感覚だけでは決められません。

あの荷主は大変そうだ。
あの仕事は薄そうだ。
あのコースはきつそうだ。

この肌感覚は大事です。

ただ、経営判断にするには、数字で見えるようにする必要があります。

会社全体の売上や利益だけでは分かりません。

荷主別に見る。
コース別に見る。
車両別に見る。
拘束時間を見る。
荷待ちを見る。
配車負荷を見る。
現場トラブルを見る。

こうして初めて、何を増やし、何を増やさないかが見えてきます。

売上は大きいが、利益が薄く、現場負荷も高い荷主。
売上は中くらいでも、安定していて、利益が残る荷主。
今は小さいが、条件改善の余地がある荷主。
車両は動いているが、実は会社にあまり残していないコース。

こうした違いが見えれば、判断は変わります。

数字を細かく見ることが目的ではありません。
やることと、やらないことを決めるために数字を見るのです。

管理会計が必要なのも、ここにあります。

数字をきれいに管理するためではありません。
限られた車両、人、時間、資金を、どこに使うべきかを決めるためです。

6.やらないことが決まると、現場の判断が変わる

やらないことが決まると、現場の判断は変わります。

たとえば、会社として増やさない仕事が明確になる。
すると営業は、取りやすい仕事ばかりを追わなくなります。

伸ばす荷主が明確になる。
すると営業は、どの荷主に時間を使うべきか分かります。

見直すべきコースが明確になる。
すると配車係は、ただ埋めるのではなく、どこを改善すべきか考えられます。

社長が抱えない判断が明確になる。
すると管理者は、自分がどこまで決めるべきか分かります。

現場が動けないのは、やる気がないからではありません。

何を優先し、何を優先しないかが分からないから動けないことがあります。

経営がやらないことを決めると、現場は迷いにくくなります。

現場の頑張りが、目の前の火消しではなく、会社の方向性に向かいやすくなります。

7.ただし、戦略はKPIに落ちなければ現場には伝わらない

ここまで、経営戦略とはやらないことを決めることだと書いてきました。

ただし、やらないことを決めるだけでは不十分です。

それが現場の行動に落ちていなければ、会社は変わりません。

社長の頭の中では、伸ばしたい荷主がある。
見直したい仕事もある。
増やしたくない案件もある。
管理者に任せたい判断もある。

でも、それが営業、配車、管理者の日々の行動に落ちていなければ、現場は今まで通り動きます。

ここで必要になるのがKPIです。

KPIとは、現場を数字で縛るためのものではありません。
経営の優先順位を、現場行動に翻訳するためのものです。

どの荷主への接触を増やすのか。
どの条件交渉を進めるのか。
どのコースの見直しを進めるのか。
どの案件を増やさないのか。
どの判断を社長から管理者へ移すのか。

ここまで落とさなければ、戦略は現場に伝わりません。

やらないことを決めるのが戦略。
それを現場行動に変えるのがKPI。

このつながりがない会社では、方針はあるのに現場の優先順位が変わらないという状態になります。

8.まとめ 戦略とは、現場を迷わせないために選択すること

経営戦略とは、やることを増やすことではありません。

むしろ、やらないことを決めることです。

増やさない仕事を決める。
追わない売上を決める。
抱えない判断を決める。
後回しにする課題を決める。
集中する荷主を決める。
使わない時間を決める。

これができて初めて、経営資源は集中します。

車両。
ドライバー。
配車係。
管理者。
社長の時間。
資金。
荷主との関係。
信用。

これらは無限ではありません。

だから、どこに使うかを決める必要があります。
そして、どこに使わないかも決める必要があります。

全部大事。
全部やる。
全部追う。

この状態では、現場は迷います。

現場が迷うと、目の前の仕事を埋めることが優先されます。
その結果、会社は忙しいのに強くならない状態になります。

戦略とは、現場を迷わせないために選択することです。

そして、その選択を現場行動に落とすにはKPIが必要です。

ただし、ここにも落とし穴があります。

その落とし穴については次の記事で整理いたします。

このnoteでは、運送会社の営業、配車、採用、組織づくり、会議、法対応まで、現場と経営の間にあるズレを整理して発信しています。
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