運送会社の強みは、何でも運べることではない。これならここだと思い出されることにある
見積もりを出す。
すると、また価格の話になる。
他社さんはもっと安いですよ。
そう言われて、今回も少しだけ運賃を下げて受ける。
仕事がなくなるよりはいい。
荷主との関係もある。
車両を空かせるわけにもいかない。
そう考えて受け続けているうちに、気づけば利益の薄い仕事ばかりが増えている。
真面目に応えてきたはずなのに、どこかで自分の首を絞めている気がする。
多くの社長は、ここでこう考えます。
うちは何でも運べる。
間口を狭めたら仕事が減ってしまう。
来た仕事を断る余裕なんてない。
ただ、その前提こそが、価格で比べられやすい会社を作っているかもしれません。
必要なのは、もっと安くすることでも、何でも受けられる会社になることでもありません。
この荷物、この条件、この配送ならあそこ。
荷主にそう思い出してもらえる一点を持つことです。
見積もりを出すたびに、なぜ価格の話になるのか
価格の話にしかならないのは、営業が下手だからではありません。
荷主から見て、違いが分からないからです。
机の上に似たような見積書が並ぶ。
何でも運べます。
丁寧に対応します。
安全に届けます。
どの会社も同じようなことを書いている。
違いが見えなければ、最後に残る比較材料は価格です。
だから、安い会社が選ばれやすくなる。
荷主が冷たいわけではありません。
違いが見えない以上、価格で比べるしかないのです。
価格競争は、安さで負けているからだけで起きるわけではありません。
選ばれる理由が、価格以外に伝わっていない時にも起きます。
何でも運べることは、能力としての強みである
何でも運べることは、決して悪いことではありません。
急な依頼にも対応できる。
荷主ごとの細かな条件に合わせられる。
配車を柔軟に組める。
幅広い荷物を扱える。
これは現場の力です。
ただし、現場の力と、荷主に選ばれる理由は別です。
何でも運べる会社は、荷主から見ると便利です。
でも、便利であることと、替えがきかないことは違います。
便利屋として重宝される会社は、より安い便利屋が現れた時にも比較されます。
何でもできます、は能力の説明です。
これなら任せたい、は選ばれる理由です。
ここを分けて考える必要があります。
荷主が本当に買っているのは、輸送そのものではない
荷主が求めているのは、単に荷物を運んでくれる会社ではありません。
自分たちの面倒を減らしてくれる会社です。
早朝納品の時間精度が必要な定期便。
工場納入で細かなルール理解が必要な配送。
複数拠点をまたぐ地場ルート。
小ロット、多頻度で配車の組み方にノウハウが必要な配送。
温度管理や取り扱いに神経を使う荷物。
こうした仕事では、荷主は単純に安い会社を探しているわけではありません。
遅れないか。
現場で迷わないか。
急な変更に対応できるか。
こちらが毎回説明しなくても回るか。
問題が起きた時に、すぐ相談できるか。
この安心を買っています。
だから、本当に強い会社は、何でも運べる会社ではありません。
この仕事なら、あそこに聞こう。
そう思い出される会社です。
特化とは、仕事を捨てることではない
特化というと、他の仕事を切ることだと思われがちです。
冷蔵だけにする。
精密機器だけにする。
定期便だけにする。
そういう話ではありません。
まず必要なのは、営業の入口として、何屋なのかを決めることです。
すべての仕事をその領域だけに変える必要はありません。
ただ、荷主の記憶に残る一点は必要です。
地域の食品工場向け早朝定期便ならここ。
工場納入の時間指定対応ならここ。
複数拠点をまたぐ地場配送ならここ。
急な増便にも対応できる定期ルートならここ。
このように、荷主の困りごととセットで言える領域を持つ。
それが特化です。
何でもできる会社から、これならここだと思い出される会社へ変わる。
ここが価格以外の物差しを作る入口になります。
強みは、今の仕事の中に埋まっている
強みを作るために、新しい設備や新規事業が必要とは限りません。
むしろ、今の仕事の中に埋まっていることが多いです。
見るべきは、次の4つです。
繰り返し依頼が来ている仕事。
荷主から感謝や相談を受けやすい仕事。
現場が無理なく再現できている仕事。
利益や配車効率が比較的残っている仕事。
ここが重なる領域に、自社の強みの種があります。
ただし、他社が嫌がる仕事なら何でも強みになるわけではありません。
他社が嫌がる。
でも自社も苦しい。
単価も上がらない。
配車負荷も高い。
これは強みではなく、会社を削る仕事です。
強みになるのは、
他社がやりたがらない。
でも自社には現場の知識、車両、人、配車の工夫がある。
荷主の困りごとを解決できる。
そして利益も残る。
この条件がそろう領域です。
強みは、感覚だけでは決められない
社長の肌感覚は大事です。
ただ、特化する領域や伸ばす荷主を決める時は、数字も必要です。
荷主別に見る。
コース別に見る。
車両別に見る。
売上だけではなく、利益、荷待ち、拘束時間、帰り便、配車負荷、トラブル対応まで見る。
すると、見えてくることがあります。
売上は大きいが、現場をかなり苦しめている荷主。
売上は中くらいでも、安定して利益が残る荷主。
今は小さいが、条件改善や横展開の余地がある荷主。
車両、人、配車の強みを活かせるコース。
こうした数字を見て初めて、どこに経営資源を集中させるべきかが分かります。
強みとは、きれいな言葉を作ることではありません。
車両、ドライバー、配車係、社長の時間を、どこに使うかを決めることです。
一点が決まると、営業も配車も変わる
何屋かが決まると、営業の動き方が変わります。
何でも運べますと言って広く営業するのではなく、特定の悩みを持つ荷主へ提案できるようになります。
見積書も変わります。
単に運賃を出すのではなく、
時間指定の納品ルールに対応できること。
急な増便時の対応体制。
現場の負担を減らす配車設計。
過去に似た条件で回してきた経験。
こうした価値を伝えられるようになります。
配車も変わります。
どの荷主に車両を優先するのか。
どのコースを強くするのか。
どのドライバーを育てるのか。
どの仕事を増やさないのか。
判断基準がそろってきます。
強みを決めるとは、営業の看板を作ることだけではありません。
会社の資源配分を決めることです。
まとめ 強みは、何でも運べることではなく、これならここだと思い出されること
価格競争は、安さで負けているからだけで起きるわけではありません。
荷主から見て、価格以外の違いが見えていない時にも起きます。
何でも運べることは、現場の力です。
ただし、それだけでは荷主に選ばれる理由になりにくい。
必要なのは、何でもできる会社になることではありません。
この荷物なら。
この条件なら。
この困りごとなら。
あそこに聞こう。
そう思い出される一点を持つことです。
特化とは、仕事を全部捨てることではありません。
どの領域で第一想起を取るのかを決めることです。
そして、その一点は感覚だけで決めるのではなく、荷主別、コース別、車両別に数字と現場負荷を見ながら決める。
利益が残る。
現場で再現できる。
荷主の困りごとを解決できる。
自社の車両、人、配車の強みを活かせる。
この領域を見つけた会社から、価格以外の物差しで選ばれ始めます。
運送会社の強みは、何でも運べることではありません。
これならここだと思い出されることです。
このnoteでは、運送会社の営業、配車、採用、組織づくり、会議、法対応まで、現場と経営の間にあるズレを整理して発信しています。
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