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【第2章】 第37話


【第2章】第37話 離さない理由


まだ、ボルボロの街にいた。

「……だからね、女の子は——いくつだろうと“女は女”なの!」

真琴が、びしっと指を突きつける。

「僕にそれ、関係ある?」

リオは真顔で言ったあと——

「真琴は理解してくれてると思ったのに!」

わーん、と泣き真似してフィオナに抱きついた。

「あらあら……」

フィオナはくすりと笑いながら、リオの頭を撫でる。

「エイルシア様も、今回たくさん頑張られましたし。あまり邪険にしてはいけませんよ?」

「ほらぁ……」

リオは、ちらりと真琴を見る。

完全に“味方を得た顔”だ。

真琴は、じとりとした視線を向けたまま、腰に手を当てる。

「……リオってば、すぐフィオナに泣きつくわよね?」

「泣きつく、ねえ」

レオンハルトが、にやりと笑った。

「真琴、それちょっと違うぜ」

「何がよ?」

「こいつが泣きついてんじゃない」

一拍。

「フィオナが拾ってるんだ」

「は?」

真琴が眉をひそめる。

レオンハルトは肩をすくめた。

「気づいてないのか?それ」

「なによそれ」

「フィオナに捕まったら最後だ」

くつくつと笑う。

「気づいた時には、もう“味方”になってる」

「懐柔聖女、ですからね」

さらっと、ヴィクトルが言った。

「……怪獣?」

真琴が聞き返す。

一拍。

「違いますわ」

クラリスがぴしっと訂正する。

「“懐柔”です。“怪獣”ではありません」

「えーでも怪獣の方がしっくり来ない?」

真琴がぼそっと呟く。

「やめなさい」

即答だった。

だが——

フィオナは、にこりと微笑んだまま。

「失礼ですね」

声は柔らかい。

——なのに。

「そんなに暴れたりはしませんよ?」

「ほらな」

レオンハルトが肩をすくめる。

「もう遅いだろ?」

リオは、フィオナに抱きついたまま小さく呟いた。

「……ここ、落ち着くんだよね」

「でしょう?」

優しく撫でられて、完全にくつろぎモードだ。

真琴は、それを見て——小さくため息をつく。

「……あー、なるほどね」

ぽつりと呟く。

「エイルシアが離さない理由、これか」

——その時だった。

「離しませんわ!」

ばたん、と勢いよく扉が開く。

全員の視線が一斉に向く。

そこに立っていたのは——

「エイルシア……」

クラリスが目を瞬かせる。

息を切らしながら、しかししっかりとした足取りで。

エイルシアはまっすぐこちらを見ていた。

「リオ様は——こちらに必要な方です!」

びしっと指を差す。

「はい?」

リオが間の抜けた声を出した。

「勝手に連れて行こうとするなんて、認められません!」

「いやいやいや」

真琴が手を振る。

「連れて行くも何も、元々こっちのメンバーだからね?」

「知っていますわ!」

食い気味だった。

「それでもです!」

一歩、踏み込む。

「リオ様は……」

言葉が、少しだけ詰まる。

だが——

「必要なんです」

その声は、震えていなかった。

真琴は、少しだけ表情を変えた。

(……ああ、これ)

軽い話じゃない。

ちゃんと、“理由があるやつ”。

リオは、ちらりとエイルシアを見る。

その視線に気づいて——

エイルシアは、ぎゅっと拳を握る。

「……あの時」

小さく、呟く。

「怖かったんです」

場の空気が、わずかに変わる。

「でも……リオ様がいてくれたから」

顔を上げる。

「だから——」

一拍。

「簡単に、いなくならないでください」

静かに。

けれど、はっきりと。

その言葉は、場に落ちた。

リオは、ほんの少しだけ目を細めた。

「……僕、そんなに頼りになった?」

「なりました!」

即答だった。

「すごく!」

迷いのない言葉。

それに——

リオは、困ったように笑う。

「いやあ……参ったな」

ぽり、と頬をかく。

「ねえ真琴、どうする?」

完全に投げてきた。

「なんで私に振るのよ」

真琴は即ツッコむ。

「だってこういうの、真琴の担当でしょ?」

「いつからよ⁉」

レオンハルトが横でくつくつ笑う。

「まあいいじゃねえか」

軽く肩を叩く。

「モテ期だろ?」

「違う!」

即答だった。

「これはそういうのじゃない!」

「じゃあ何だよ」

「……重いやつ!」

真琴は頭を抱えた。

フィオナは、その様子を穏やかに見つめながら——

そっと口を開く。

「エイルシア様」

その声に、エイルシアが顔を向ける。

「リオ様を必要とされるお気持ち、とてもよく分かります」

優しく、言葉を選ぶように。

「ですが——」

一拍。

「この方にも、行かなければならない場所があります」

エイルシアの瞳が、揺れる。

「……わかっています」

小さく、答える。

「でも……」

言葉が、続かない。

その様子を見て——

リオは、ゆっくりとフィオナから離れた。

「じゃあさ」

軽く手をひらひらさせる。

「こうしよっか」

全員の視線が集まる。

「完全に離れるんじゃなくて——」

にやり、と笑う。

「“繋いどく”ってのはどう?」

「……繋ぐ?」

真琴が眉をひそめる。

「そう」

リオは、こつんと自分の耳を叩いた。

「これ、あるでしょ?」

通信機。

「ああ……」

真琴が思い出したように頷く。

「ドワーフ製(仮)のやつね」

「(仮)いらないから」

リオが即ツッコむ。

「これ使えばさ、距離関係ないし」

エイルシアの方を見る。

「必要な時に呼べば、出るよ」

あっさりとした口調で。

だが——それは、大きな譲歩だった。

エイルシアは、目を見開く。

「……いいんですの?」

「うん」

軽く頷く。

「その代わり——」

一拍。

「ちゃんと一人でも立てるようになってね」

その言葉に。

エイルシアは、ぐっと唇を引き結び——

「……はい」

小さく、しかし確かに頷いた。

真琴は、それを見て息を吐く。

「……まあ、それならいいか」

「でしょ?」

リオがにやりと笑う。

レオンハルトが、ぼそっと呟いた。

「やっぱり、こいつが一番うまいことまとめるな」

「否定できませんわね」

クラリスも頷く。

フィオナは、静かに微笑んでいた。

——こうして。

ボルボロの街での小さな騒動は、ひとまずの決着を迎えたのだった。

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