【第2章】 第51話

【第2章】第51話 整いきらない世界


——王都、外縁。



静かだった。

ついさっきまで、あれだけの圧があったとは思えないほどに。



人の声が戻る。
足音が戻る。
呼吸が——バラバラに戻る。

「……はぁ」

真琴が、大きく息を吐いた。

「助かった、のよねこれ」

「“見逃された”だけだ」

リオが、短く言う。

「消えてはいない」

その言葉に——
誰も、否定しなかった。



遠く。

王都の街並みは、元の姿を取り戻しつつある。

だが——完全ではない。

「……残ってる」

真琴が、目を細める。

「ズレが」

ほんの僅か。
だが確実に。

「当然だ」

リオが、視線を巡らせる。

「“途中までしか戻していない”んだからな」

その言葉に——
セラフィナは、何も言わなかった。



ただ——一度だけ、目を閉じる。

「……これで十分よ」

小さく、呟く。

「それ以上は——やらない」

真琴が、ちらりと横を見る。

「やらない、ね」

確認するように。

「やらないわ」

迷いはなかった。

その言葉に——
真琴は、軽く肩をすくめる。

「ならいい」

一拍。

「今は、それで」

風が、吹いた。

張り詰めていた空気が、ようやくほどける。



その時——

「……見事でした」

静かな声が、割り込んだ。

全員の視線が、揃う。

そこに立っていたのは——セルディン。

変わらぬ笑み。
整いすぎた姿。

だが——その奥に、わずかな“引き”があった。

「今回は——」

一歩、踏み出す。

「私の力不足、ということでしょうね」

「……あんたが言う?」

真琴が、思わず返す。

セルディンは、肩をすくめた。

「ええ。事実は、受け入れる主義ですので」

一拍。

「とはいえ」

その視線が、セラフィナへ向く。

「興味深い変化も見られました」

セラフィナは、何も答えない。
ただ、静かに見返す。

「……今回は、ここまでにしておきましょう」

セルディンが、わずかに微笑む。

「無理に続けても——」

一瞬だけ、空気が張る。

「効率が悪い」

その言葉で——全てが繋がる。

「……ああ、なるほどね」

真琴が、小さく笑った。

「そっち側も、“整える”系か」

セルディンは、否定しない。

「近いですが——同じではありません」

その違いを、語る気はないらしい。

「では」

軽く一礼する。

「また、お会いしましょう」

そのまま——音もなく、消えた。

沈黙。



セラフィナが、独り言のように口を開く。

「私達の母は人間の魔導師でした。どこかつながっているのかもしれません」

ルナミナも、彼の去った後ろ姿を見ていた。

「お父様は、肝心な事をいつも話さないものね」



「……増えたわね」

真琴が、ぼそりと呟く。

「面倒なのが」

「減ることはないだろうな」

リオが、即答する。

「むしろ——これからが本番だ」



遠く。

王都の灯りが、ゆっくりと揺れる。

整いきらない世界。

だが——それでも、回り続ける。

「……帰る?」

真琴が、ぽつりと呟いた。

誰にともなく。

その言葉に——再び、小さく風が吹いた。



国王私室。

国王と第一王子が向かい合っていた。

「——というわけで、今回のあらましです」

「ふむ……お前はどう見る?」

王子を試すような眼差し。

「どうでしょう。引きすぎる綱は切れるのみです。この辺りが頃合いと読むべきでしょうか」

第一王子は、国王派か皇后派か——まだ見極めがつかない。

今回の件も、魔人を逃したと言っても過言ではない。

だが——皇后を失脚させるには、まだ材料が足りない。

「わかった。お前を信じよう。頃合いの見極めは今後も頼む」

礼をして、第一王子は私室を後にした。



「口でいくら言っても、猜疑心は消えないからなぁ」

第一王子は、大きく溜息をつきながら廊下を歩いていった。



「さあて、とりあえずだ」

ヴィクトルが両手を組む。

「フィオナ、やれ!」

最近ヴィクトルお気に入りの『怪獣聖女』らしい。

お説教タイムに、真琴とリオはフィオナの前に正座をさせられている。

「クラリスは?」

「妹は、巻き込まれただけだ」

「ズルい〜」

「何で僕まで……」

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前の話
【幕間】セルディンの受難
【幕間】第一王子の恩寵
【第2章】まとめページ
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