【駐在員の本音】AIを巡る温度差—アメリカ現地と本社のあいだで
第59話
正直、板挟みなんです。
現地のチームは「まず使ってみよう」と言う。
本社は「リスクを明確にしてから」と言う。
どちらの言葉も、正しい。
でも、その正しさのあいだにいると、
息が詰まる瞬間があります。
“Try first”と“承認待ち”のあいだで
アメリカ側のSlackには、次々とAIツールの提案が流れてくる。
「これで作業が半分になる」「まずは試してみよう」。
そのスピードに、本社の承認フローは追いつかない。
光の速さで進むツールと、
印鑑のスピードで進む組織。
スピードの差が、文化の差になっていく。
そして、その間に立つ僕は、
どちらにも完全には属せない。
「慎重さ」と「前進」のどちらも理解できるから
本社の慎重さも、現地の焦りもわかる。
だからこそ、翻訳と調整を繰り返す。
でも、次第にわかってくる。
“どちらも正しい”という言葉が、
いちばん現場を止めてしまうことを。
「AIを使えばいいのに」と言われても、
ボタンひとつ押すことにも、承認がいる。
カーソルの先にある「Start free trial」さえ、
触れないまま一日が過ぎていく。
それでも、動けないことにも意味がある
アメリカ側は「やってみればいい」と言う。
でも、本社の“リスクを恐れる感覚”も、
この組織を守ってきたDNAの一部だ。
もどかしさの中で気づく。
僕はただの翻訳者ではなく、
その“温度差”をつなぐ役割を与えられているのだと。
夕暮れのモニターの光の中で
外は静かに暮れていく。
承認のメールはまだ届かない。
モニターには青い光が揺れている。
動けない時間の中にも、
確かに、前に進む力はある。
焦らずに、
今日もひとつの提案を下書きに残す。
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