ドラクエⅢを求めて、昭和の街を全力ダッシュした日
ドラゴンクエストⅠが登場し“RPGの面白さ”に触れ、Ⅱでは世界が一気に広がり、「Ⅲはもっとすごい」という情報が少年誌などにより広まり期待が最高潮まで高まっていました。そんな中、迎えた1988年(昭和63年)2月10日にドラゴンクエストⅢが発売されました。朝早くから店の前に長い列ができ、開店と同時に子どもたちが一斉に駆け込み、あっという間に売り切れ。まさに、日本中が熱気に包まれた“社会現象”でした。
当時は中学生でしたが、発売日を過ぎてもなかなかドラゴンクエストⅢを手に入れることができませんでした。そんなある日、駅前の小さなおもちゃ屋さんで「今度の日曜日にドラクエⅢが入荷するらしい」という噂が流れてきたのです。まだまだ買えていない人が多かった時期だったため、友達4~5人で相談し、「朝から並んでみようぜ」という話になりました。
「何時に集まる?」という話になり、朝5時に駅前のおもちゃ屋さんへ向かうことに決まりました(もしかしたら4時集合だったかもしれません)。 中学生だけでこんなに早朝から集まって買い物に行くのは初めてで、楽しみと不安が入り混じっていました。
みんなで自転車に乗って集合し、駅前のおもちゃ屋さんへ向かいました。
まだ空は真っ暗でしたが、店の前にはすでに数十人が列を作り、歩道に座り込んで待っている人たちがいました。思っていた以上の人の多さに、私たちは少し驚いたのを覚えています。
あとは座って、ひたすら寒さに耐えて待つだけでした。2月だったと思いますが、とにかく冷え込んでいて、私たちは肩を寄せ合うようにして座り続けていました。
待っているあいだ、友達の誰かが持ってきた「ジョジョの奇妙な冒険」の単行本を回し読みし、ジョジョの第一部を読んだ記憶があります。(読んだシーンも覚えているものの、この歳になるといろいろな記憶が交錯することが多いため、もしかしたら勘違いの記憶かもしれません。)
私たちよりも早く来ていて、ちょうど隣に並んでいた見ず知らずのおばさんとは、長時間一緒に待っていたこともあって、自然といろいろな話をするようになりました。おばさんはドラゴンクエストがどんなゲームなのか全く知らないものの、子どものために買いに来たのだと言っていました。そして、私たちが“子どもだけで早朝から来ている”ことに驚いていたことを覚えています。
そして朝8時ごろ、おもちゃ屋の店員さんがついに姿を見せました。その頃には空もすっかり明るくなり、気づけば行列は夜明け前の数倍にふくらんでいました。「これから整理券を配りまーす!」という声が響いた瞬間、ようやくドラクエⅢが手に入るかもしれないという期待で、胸が一気に高鳴りました。
列の先頭から順番に整理券を配っていた店員さんがこちらへ近づいてきて、私たちの前にいたおばさんへ整理券を渡したその瞬間、「はい、ここまででーす!」と声が響きました。その日の入荷は40本だけ。一緒に来ていた友達の奥寺くんが41番目、そして私は42番目。「えっ……?」寒さで凍えていた体から、さらに一気に血の気が引くのがわかりました。一緒に来ていた友達全員があと一歩のところで手が届かなかったのです。
おばさんは40番目だったため、最後の整理券をしっかり手にしていました。
そして私たちに向かって「40本しかなかったんだねぇ、残念だったねぇ」と気の毒そうに声をかけてくれましたが、その口元にはうっすらと笑みが浮かんでいました。今思えば、おばさんは自分の子どもに買えた喜びが勝っていたのだと理解できます。しかし、当時の私はその笑みにどうしようもなく腹が立ったことを覚えています。(おばさんは全く悪くありません。)
整理券がなくなったとわかった瞬間、私たちの後ろに並んでいた整理券をもらえなかった大勢の人たちから怒鳴り声が上がりました。「横入りしたやつがいるぞ!」「あいつ、さっき来たばかりだろ!」確かに、長時間並んでいるあいだに、途中から前のほうへ紛れ込んでいく人を何人か見かけました。「横入りしたやつ、抜けろよ!」あちこちから怒号が飛び交い、行列全体がざわついていく空気を、今でも覚えています。
しかし、整理券を配っていた店員さんも騒ぎに対応できず、いったん店の中へ引っ込んでしまいました。ほどなくして再び店から出てくると、「整理券を受け取った方にソフトを販売しますので、店内へお入りくださーい」と案内がありました。おそらく、少しでも早く販売を始めて、この場の混乱を落ち着かせたかったのだと思います。
列が動き出し、整理券を持った人たちが次々と店内へ入り、商品と引き換えていきました。商品引き換えが終わり、本来ならそこで販売は終わるはずでした。ところが、整理券を持たない“買えなかった側”の人たちまでが勢いそのままに店内へ流れ込み、整理券を持たない組の先頭だった私たちはその流れに逆らえず、気づけば店の中へ足を踏み入れていました。
ドラクエⅢの引き換えはすでに終わっていたのですが、店の中では“買えなかった側”の人たちが店長と思われる人物に向かって、
「列に横入りしたやつがいっぱいいるんだよ!」
「なんでそいつらに売るんだよ!」
「ふざけんなよ!」
と次々に叫び始めました。
狭い店内には怒号が響き、場は完全に混乱していました。しかも私たちは“買えなかった側”の先頭にいたため、カウンター越しの真正面には店長が立っていました。どうにもならない状況に店長は投げつけられる言葉に対し何度も頷いていたのを覚えています。
まるで収拾がつかない状態が続いていましたが、その空気を一瞬で変える出来事が起きたのです。
誰の声かはわかりませんが、「おい!ヨーカドーにドラクエ入荷してるらしいぞ!」という叫びが店内に響き渡りました。
その声が響いた瞬“買えなかった側”の人たちが一斉に反応し、慌てて店を飛び出して数十メートル離れたイトーヨーカドーへ向かって走り出しました。私たちもその情報を信じて、急いでイトーヨーカドーへ走り出しました。
休日の早朝に駅前通りを、数十人が一斉にヨーカドーへ向かって全力疾走するという、今思えばかなり異様な光景でした。
しかし、それはデマでした。
イトーヨーカドーに着くと、店員さんがいつも通りカートを並べて開店準備をしているだけで、ドラクエの販売など影も形もありませんでした。
もしかすると、あの混乱を収めるために、おもちゃ屋の誰かが「ヨーカドーで入荷した」という噂を流したのかもしれません。
真偽はわかりませんが、あの言葉を聞いた瞬間、群衆の熱気は横入りされた怒りから、もしかしたら買えるかもしれないという期待へと一気に向かっていったのです。
思えば、ドラクエⅢを買いに行ったあの頃は“昭和”な感じが残っていました。
情報は噂で広まり、子どもたちは走り回り、欲しいものが手に入らないことも当たり前。
不便で、雑で、でもどこか温かい……そんな時代の空気の中で、私たちは必死にドラクエⅢを追いかけていたのです。
結局、私はドラクエⅢは単品では買えず、しばらくしてからウィザードリィとのセット販売でようやく手に入れました。
あの日の悔しさも、寒さも、走った距離も、抱き合わせ商法も全部ひっくるめて“昭和の思い出”として胸の奥に残っています。
最近ではあまり体験できない、不確かな情報を頼りにして淡い期待を胸に走る楽しさ。
手に入れるまでの道のりも含めて、あの時代のゲームは、まるで宝物のように輝いていました。
少し前に、私の子どもが「Switch2のゲームを買ったけど、ダウンロードが遅くて数時間も待たされて大変だ」とぼやいていました。
……大変のレベルが違う。
そう思いましたが、何も言わずに私は黙ってこの記事を書き始めました。

スキが多い記事TOP3です
お時間あるときに是非読んでみてください🎁
1,給食の時間を凍らせた、恐怖ののど自慢
2,ドラクエⅢを求めて、昭和の街を全力ダッシュ
3,30歳の後輩に『キン肉マン』を語る話
個人的におすすめです。👌
1,AIのデモでなぜか奥歯がすり減ったという話
2,『Hello, How are you?』から逃げ続けた結果
3,授業参観をホラー映画に変えた日
