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【はじめに】看護の専門性に軸足を置いたAI活用を考えたい

この記事は、冊子「AIがひらく看護管理の未来〜人間にしかできない仕事をするために〜」(2025年2月発行)の内容を投稿記事の形にしたものです。

私は教育学部の学生だった時、「他者をケアする人」のストレスに関心を持ち、主に小学校の先生や子育て中の親を対象に研究を進めていました。意のままにならない存在に振り回され、孤独を感じながらも、なんとか心のバランスを保ち、慌ただしい日々を乗り越えている…そんな人たちのストレスを少しでも軽減したいと考えていました。
ちょうどその頃、インターネットのチャットで、看護師さんの語りに触れる機会がたびたびありました。チャットに現れる看護師さんたちは、心も体もすり減らし、負の感情や後悔を抱え、「やめたい」と繰り返しながらも、どうにか日々を乗り越えている人たちばかりでした。この人たちをなんとかケアできないか、少しでも楽しく前向きに仕事に取り組めるようになってほしい…そんな思いから、次第に「看護師」という存在に興味を抱くようになりました。
当時、私がいつも立ち返る本は『感情と看護 人とのかかわりを職業とすることの意味』(武井麻子著、医学書院、2001年)でした。この本は、看護の仕事の「感情労働」としての側面を克明に描き出しています。看護師は、感情に振り回されたり、患者の感情に踏み込みすぎたりしてはいけませんが、やはり「感情」に近い領域を扱うことは、看護の独壇場です。感情を持った生身の人間にアプローチすることこそが看護の仕事の重要な専門性であるということを、この本を通じて学びました。

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ここ数年、対話型生成AIが急速に発展しています。多くの人が「AIに自分の仕事が奪われるのではないか」と心配し、「これからの世の中はどうなっていくんだろう」と、漠然とした不安を感じているようです。
しかし、少なくとも看護業界に関しては、AIは看護の核となる専門性を脅かすようなものではありません。知識や情報を伝えること自体は、AIやメディアにもできますが、そうした知識や情報に触れても、なかなか心を開くことができなかったり、認められなかったり、行動を変えられなかったり…人間には誰しも、そういった「愚か」な、しかし愛すべき側面があります。心の扉をうまく開き、感情に手を差し伸べられなければ、相手の本当の声を聴くことはできません。人間の感情にアプローチしていくことは、今後も看護の仕事の重要な要素であり続けるでしょう。
また、看護の仕事のそうした性質は、患者さんと接するときだけでなく、医療機関のスタッフと接するときにも発揮されます。ルールや手順を決めたり、知識や情報を共有したりすることは、ゆくゆくはAIに完全に任せられるようになるかもしれません。しかし、その決定事項や知識・情報にもとづいて組織の中で動くのは生身の人間です。看護管理者も、感情を扱うという専門性を発揮しながら管理の仕事に取り組んでいくことが、今後ますます求められるようになるのではないでしょうか。
人と感情のやりとりをする仕事は大変な仕事です。しかし同時に、人間にしかできない仕事です。これからのAI時代には、「人間にしかできない仕事」に人が十分にエネルギーを注げるように、「人間ではなくてもできる仕事」をうまくAIに委ねていかなければなりません。
また、AIは看護の仕事の「重たさ」を軽くする役割をも果たしうると私は考えています。自分の心の中にある「重たさ」を他者と共有し対話することで、少し気分が軽くなる――そんな経験をしたことがある方は多いでしょう。近年急速に発展してきた「対話型生成AI」は、「対話型」という言葉どおり、人間の対話の相手にもなりえます。多忙な看護師や管理者同士で「重たさ」を分かち合うことが難しくとも、AIを相手にすることで、感情労働を少しでも楽にできる…そんな可能性をAIは秘めています。

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現在、医療DXといった文脈で、看護分野においてもAI活用に関して様々な議論がなされています。この議論を率いているのは、主にIT業界出身者など、AI/DX側の論理で物事を考えている方々です。しかし、複雑で奥深い専門性を持つ看護分野に、AI/DX分野における「効率化」の発想をそのまま当てはめてしまっては、必ずどこかに歪みが生じるでしょう。

看護分野へのAI活用の議論は、看護という仕事への深い理解のうえに、看護側の論理に軸足を置いて模索されていくべきです。私は看護の資格を持たない部外者の立場ではありますが、「看護側の立場からのAI活用のあり方」を発信していく必要性を痛感し、このマガジンを公開することといたしました。医療機関や看護組織においてAI活用/DX化を推進していく立場の方々に広くお読みいただければ幸いに存じます。

持続可能な看護組織を考える研究会
(有限会社ノトコード 代表取締役)
平林 慶史 (ひらばやし よしふみ)



「対話型生成AI」とは


本マガジンは、AI技術の中でも、特に「対話型生成AI」の看護領域への活用について論じるものです。本マガジンでは、「対話型生成AI」を、「生成AIのうち、人間と自然な言葉で会話ができ、文章生成を得意とする性質を持つAI」と定義します。

  • 生成AI … 文章や画像、音声、動画など、新たなコンテンツを生み出すことのできるAI。ChatGPTやGoogle Gemini、Microsoft Copilotなどは主に文章生成に特化したもの。その他にも、画像生成AIのDALL-EやAdobe Firefly、音楽生成AIのSuno AI、udio、動画生成AIのSora、Veoなど、様々な生成AIサービスが提供されている。

  • 対話型AI … 人間が話しかける(文章を入力する)と、それに反応して適切な応答をするAI。Apple社のiPhoneなどに搭載されているSiriや、Google社のAlexaをはじめ、企業のWEBサイト上などでユーザーの問い合わせに答えるチャットボットなども対話型AIに含まれる。

対話型生成AIの特徴や用いられている技術については、「対話型生成AIは何が画期的なのか」でも詳しく解説しています。


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