第4話:「システナリオ中部、出動!」
🛣️ 連載シリーズ|髪が生えたら、サービスエリアが騒ぎ出した。
📘 第0話:これは、高速道路と芸能事務所と、ちょっぴり不思議な話。
🚗 第1話:若返った社長は、健康ドリンクの夢を見るか?
🌹 第2話:バズる男とハイウェイの女
🐻第3話:クマリン動く
⏪前回までのあらすじ
謎のドリンクで、芸能事務所の社長・青葉美咲にまさかの変化——
額の景色が、ある日突然“大草原”になった。
その衝撃ビジュアルはSNSで瞬く間に拡散され、
所属タレント・山形みらいも巻き込まれていく——。
だがその裏で、 「……あれは、もしかして」 と目を細める男がいた。
クマの被り物をかぶった化学者・クマリン。
彼が試作していたはずのドリンクが、なぜか街中に出回っている!?
#ついてるポーズ #自称王子爆誕 #逆に好きかもしれん
SNSは熱を帯び、そして——動き出すのは“あの会社”だった。
第4話:「システナリオ中部、出動!」
--甘い笑顔と、苦い企み
「——それでは、定時になりましたので、会議を始めさせていただきます」
どこか無機質な声が、会議室に響いた。
システナリオ中部・本社、18階の会議室。
今日の議題は「広報案件」——そう表記されてはいたが、雰囲気は明らかに異常だった。
長机には、書類と一緒に土産菓子の箱が山のように積まれている。
そのすべてに描かれていたのは、やたらと人懐っこいネコのキャラクター。
金色の文字で「ぷれみゃあ」と書かれたパッケージが、ぎっしりと並んでいた。
——まるで、この会議の主役は“お菓子”なのかと錯覚するほどに。
「え〜、それでは資料2ページをご覧ください。“青葉美咲”氏および“山形みらい”氏のSNS投稿ログ、まとめております」
会議室が、ざわ……と揺れた。
壁際のモニターに表示されたのは、あるSNSの投稿画面。
あらゆるハッシュタグが、画面を埋め尽くしていた。
「つい先日の“D-1グランプリ”出場写真ですね。おふたりとも、例のドリンクを手にしています」
社員のひとりがページをめくる音と同時に、次のスライドが映し出された。
そこには、社長が謎のポーズを決めている画像と、みらいのグルメレポ風投稿が並んでいた。
「可愛いねぇ〜、みらいちゃん。サービスエリア紹介の投稿とか、いつも癒されますわ〜」
「いや〜ホント、ウチもいつか広報案件でご一緒したいくらいですな〜(笑)」
営業トークは、相変わらず滑らか。
だが、その裏ではタブレットを操り、ハッシュタグ分析ツールを起動している。
「“ついてる”系の投稿、今朝の時点でリポスト1.2万超え……ふむ。自然拡散の域を超えつつあるな」
そう呟いた人物の背後で、何も言わずに会議室の隅に座っている者がいた。
それは、白い丸いシルエット。
たぬき耳。双葉。たまごのような形。
胸元には、「サービスエリア」の標識プレート。
会議に出席している、にもかかわらず、誰も声をかけない。
まるで“空気”のような存在。けれど——
(……また、ぷれみゃあだけか。どうせ、ボクのお菓子は棚の隅なんでしょ)
みちるまる。
社内では“みちぺた”と呼ばれている、シスナリの公式マスコットキャラクター。
誰もその本当の目的を知らない。
けれど、ボクは見ている。
社内の動きも、彼らが“どこを見ているのか”も、全部。
会議はまだ始まったばかり。
彼らは知らない——“見られている側”であることを。

「ぷれみゃあの山は、積まれても昇給はない。」
「……では、対策案の草案に入ります」
幹部のひとりが立ち上がり、ホワイトボードへ向かう。
ペンを手にしながら、にこやかにこう口にした。
「まずは“青葉美咲”氏への聞き取り調査。
表向きは、番組出演に関するアンケート依頼という形で——」
「えっ、直接行くんですか?」と社員が問う。
「まさか。サービスエリアでの“すれ違い”を装って、軽くご挨拶をするだけです。
ね? 青葉さんとみらいちゃんが、よく立ち寄る、あの場所で」
会議室に、うっすらと笑みが広がる。
——サービスエリアで。
商品棚を整理するふりをして、背後から目を光らせる。
偶然を装い、「あれ?こんにちは〜☺️」と声をかける。
相手に“ただの好意的な接客”と思わせながら、情報を抜く。
「おふたりの動線、SNSの投稿からかなり予測できますし……
次の週末は“あのSA”の可能性が高いですね」
誰かが、タブレットに表示されたハッシュタグ分析を指さす。
「……やっぱ観察されてるなぁ」と、満足そうな声が漏れた。
その瞬間、会議室の隅で、ぷしゅっと小さな息が漏れる音がした。
白くて、丸い。
たぬき耳。双葉。名札のないマスコット。
みちるまる——“ボク”は、ただ静かに座っていた。
(また、やってる……)
声には出さない。
でも、心の中では小さくため息をついていた。
(みらいちゃんの投稿は、ただのファン向けじゃない。
道を伝えようとしてる。あの人は、真剣なんだ)
誰もが無視するこの“着ぐるみ”は、
社内で唯一、真実を見つめている存在だった。
ボクは、見ている。
この人たちが、何を考えて、何をごまかしているかを。
——次に動くのは、ボクかもしれない。
「——あ、すみません。こちら、本日の参考資料です」
女性社員が配った封筒には、なぜかぷれみゃあのシールが貼られていた。
封を開けると、そこには──
“ぷれみゃあ以外はお土産じゃにゃあ”
という文言が、力強くプリントされた一枚の紙。
しかも、フォントがやたらと太い。
「……あの、これ、掲示用ですか?」
若手社員が恐る恐る尋ねる。
「はい。“おみやげコーナー”の棚に貼ってくださいとの指示です。
経営層の判断で、“ブランドイメージ統一”を徹底することになりまして」
「えっ、でも他の取引先のお菓子とか……ディスってないですか?」
ざわつく会議室。
だが、幹部のひとりがさらりと答えた。
「それが、狙いです」
——静まりかえる室内。
一瞬、ぷれみゃあの笑顔が、妙に不気味に見えた。
「“選ばれる商品”と“並べられるだけの商品”の差を、
消費者に“無意識で”感じてもらうんですよ。
どちらを買いたくなるか、考えてみてください」
社員の背筋が、ぞわっとした。
そのとき、会議室の端で、ぴくりと“ボク”の耳が動いた。
(やっぱり、この会社……)
みちるまるは、ぷくりとした体をかすかに揺らした。
(にゃあにゃあ言ってるけど、中身はドス黒い)
目の奥で光る、わずかな怒り。
でも、いまはまだ動かない。
“ボク”の出番は、もう少し先。
そんなボクの存在に気づかぬまま、社員たちは拍手を始めた。
「それでは、対策チームの結成を進めましょう。
コードネームは……『S.A.T.(Sapanalysis Attack Team)』で」
「さっすがぁ〜〜!」
「ネーミングセンス神!」
「ぷれみゃあ案件、爆速ですねぇ〜!」
空々しい賞賛の声が響く中、
誰にも気づかれず、みちるまるはそっと“標識”を抱きしめた。
(守るよ、みらいちゃん……絶対)

会議は終わった。でも、ボクの仕事はこれから。
🔜 次回予告
サービスエリアの片隅に、誰も気づかないぬいぐるみがいた——
だが、ボクはずっと見ていた。
ついに明かされる、“マスコットの視点”。
次回、第5話「マスコットは見た」
——すべてを見てきた、ボクが話す番だ。
第5話:「マスコットは見た」
前回のあらすじを読む →第3話「クマリン動く」
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