第5話:「マスコットは見た亅
——気づかないふり、してるだけ。
🛣️ 連載シリーズ|髪が生えたら、サービスエリアが騒ぎ出した。
第0話:これは、高速道路と芸能事務所と、ちょっぴり不思議な話。
第2話:バズる男とハイウェイの女
第3話:クマリン動く
第4話:システナリオ中部、出動!
📖前回までのあらすじ
青葉社長がバズり、みらいちゃんが炎上寸前!?
そんな中、若返りドリンクの裏に不穏な気配が……。
そしてついに、“あのキャラ”が動き出す——
ボクは見てる。——全部。
名前は、みちるまる。
システナリオ中部の公式マスコットキャラクター。
でも、社内では「みちぺた」って呼ばれてる。
……というか、呼ばれること自体がほとんどない。
だってボクは、「しゃべらない設定」のぬいぐるみ。
会議室にポツンと座ってても、誰も気にしない。
人間たちは、ぬいぐるみが何を見てるかなんて想像もしない。
だけど——ボクは、ぜんぶ見てる。
その日も、冷房が効きすぎた会議室で、蛍光灯の光が白く机を照らす中、モニターがひとりでに立ち上がった。
画面には、あの動画。「ついてる!ラッキー!ハッピー!」全力で踊る青葉さん、そして——横で元気に笑うみらいちゃん。
(かわいい……けど、今はそれどころじゃない)
動画の下に、小さく開かれていたファイル名に、目が止まった。
《若返りドリンク商品化_営業案ver4_マル秘》
(……!)
心の中で警報が鳴る。
みらいちゃんが無邪気に参加していたあの動画が、
知らないところで社内の“販促素材”に使われようとしている。
そのとき——
ガチャ。
颯爽とした足音が近づき、ドアがゆっくり開いた。
姿を見せたのは——木元(きもと)さん。商品開発部。
スラッと背が高く、スーツもビシッとキマっている。
モデル風の顔立ち。だけど、口を開けば——
「うぇ〜い、おつかれっす〜。……あれ?この動画、使うの決まったんすか〜?」
チャラい。
今日も例外なくチャラい。
そして、こういう時に注意する人間は、この部屋にはいない。
木元さんはモニターを覗き込むと、スマホを取り出し、カシャ。
「んふふ〜ん、記録記録。……ってか、これ俺の案ってことで通しちゃったけど、ま、いっすよね?笑亅
(まじか……)
ボクの中で何かが凍った。
彼はさらっと言ってのけた。「俺の案」として通した。……って。
そして、彼はふと視線を上げた。
ボクと、目が合った。
「おっと……ぺた?……いや、動いた?お前、今ちょっと動いたよね?笑亅
(動いてない。絶対動いてない……はず)
「……ま、いいや。俺、見てなかったってことで。ね?」
ウインクまで残して、軽やかに出ていく木元さん。

忘れてるかもしれないけど——ぬいぐるみは、“見てる”。ずっと。
忘れない。見ていたことも、今の言葉も。
その夜。事務所のロッカー裏。
ひんやりとした空気と、かすかな冷房音だけが響く暗がりで、ボクは小さく丸くなっていた。
スマホの光が、胸元で静かに灯っている。
待ち受けには、みらいちゃんの笑顔。
ボクに向けてくれたわけじゃないけど、それでも、
ボクだけが大事にしている、特別な一枚。
(守りたい。ボクはただ、それだけ)
着ぐるみの手じゃ、何もできないかもしれない。
でも、見てる。ずっと見てる。
それだけは、誓える。
翌朝。
「みちぺた〜っ!!💕」
軽やかな足音とともに、みらいちゃんの声が響く。
「元気だった? 今日のロケ、一緒に行こうねっ!」
ボクに飛びついて、ギュッと抱きしめてくれる。
(……ああ、きっと今日も頑張れる)
今日はテレビ番組のロケ。「みちぺたも出してほしい」と言ってくれたのは、みらいちゃん。
そして、青葉さんがシステナリオ中部に掛け合ってくれて、ボクの出演が正式に決まった。
(このふたりがいなかったら、今も社内の片隅で、存在を忘れられてたかも)
ロケ現場では、もうひとりの軽快な足音が聞こえてくる。
「おはようございま〜す!今日もよろしくお願いしま〜すっ!」
現れたのは、梅林(うめばやし)さん。
システナリオ中部・広報。小柄で人懐っこく、にこにこしながらみらいちゃんにグッズを差し出す。
「みらいさん、こちら新作でございます。本日もよろしくお願いいたします」
「わぁ〜っ、ありがとうございます〜♡」
社内でも“感じがいい” “気が利く”と評判の人。……だけど、ボクは知ってる。
この人、褒められるとすぐに調子に乗る。そしてそのテンションのまま、危ないことも言う。
「そういえば最近、NEXT西部の現場にもいらしてますよね? あれ……みらいさん、西に引っ越されたんでしたっけ?」
みらいちゃんの笑顔が、一瞬だけ固まった。
——悪気はない。でも、それが一番、心を削る。
ボクはその場で何も言えず、ただ、ぎゅっと手を握りしめた。
今日もみらいちゃんは笑ってる。ボクがなにかを言うこともない。でも——
(ボクが見てる。だから、何かあったら……)
胸の奥で、ドクンと小さく脈が打った。
必ず、守る。
🧸「見てるよ。……ずっとね。」
しゃべらないぬいぐるみ・みちぺたが動くとき、社内の“真実”が明らかになる……!?
📖前回のあらすじを読む
第4話:「システナリオ中部、出動!」
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第0話「これは、高速道路と芸能事務所と、ちょっぴり不思議な話。」
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