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【短編】夏休みの恋 No.04


ひまわり畑

 懸命に隆が漕いでいる自転車がやっと止まった。二十分くらい海沿いの細い道を走ってきたようだった。自転車を降りて見る景色の美しさに二人は圧倒された。一面にひまわりが植えられていて太陽に向かってひまわりの花が微笑んでいる光景は圧巻だった。しばらくその美しさに夏の暑さを忘れて二人で見惚れていた。菜々子の目が光り輝いているのを隆は感じていた。

「どう、綺麗でしょう。この辺りじゃ、有名なひまわり畑なんです。今はほぼ全部咲いているから一番綺麗な時だと思います。これを見せたくて連れてきました」

「すごいわ。とっても綺麗。わたし、ひまわりが大好きだからすごく感動してる。連れて来てくれてありがとう」

 そういうと、菜々子は特に深く考えることもなく、ひまわりを見ていた身体をくるりと横を向き、両手を大きく開いて額から汗を流している隆に思いっきり抱きついた。隆はびっくりしたが、菜々子の柔らかい感触と柑橘系の香りに包まれ、まるで天国にでもいる様な気分になっていた。完全に菜々子のことが好きになってしまっていたようだ。一方菜々子は、まだ高校生だし男女というより可愛い弟という見方をしていたので、遠慮なく抱きしめていたのだった。すっかりひまわり畑に満足した菜々子は、今年の夏休みはこの街を満喫したいと思い、隆に花火大会の話を切り出した。

「ねぇ、もう少ししたら花火大会だよね。隆くんは一緒に行く相手いるの。わたしは、一人なんだけどなぁ」

「え、いえ。誰もいません。菜々子さんと行きたいです」

「よし、決まり。一緒に行こう、花火大会」

 隆は、不思議とトントン拍子に夏の恋が始まる予感がして心は踊っていた。一人で菜々子のことを思い出しながらニヤついていると、隆の男友達が家に遊びにやってきた。

「おい、隆、今度の花火大会、どこで見る。いつものように一緒に行こうぜ」

「あ、花火大会は、えっと、僕はいかない。ちょっと勉強したいから。今年はパスするよ。お前たちだけで行ってくれ」

「はっ、何それ。なんか変だな。お前なんか隠してるだろ」

「な、何にも隠してないよ。ちょっと数学が心配で毎日勉強してるんだよ。だから今年は一緒に花火大会には行けない」

「ふーん、じゃあ、俺も隆ん家に来て勉強しようかなぁ」

「だめだめ、それはダメ。一人で勉強しないと気が散るから」

「うーん、やっぱりなんか変だよなぁ。まぁ、いいや。じゃあ俺たちはいつものメンバーで行くから、気が変わったら隆も来いよ」

 かなり無理な言い訳で疑われたのは間違いないなと隆は思ったが、咄嗟のことでこれ以上の対応ができなかった。何しろ今は菜々子との約束が最優先だった。当日は早めに家を出ていた方が無難だなと思い、逸る心で花火大会当日の計画を考えた。花火大会の日にはいろんな出店などもあり、かなりの人出で賑わうことになるが、当然ながら隆の同級生達も出店回りをするだろうと考えた。出店を菜々子と一緒に手を繋いで回れたら最高だろうなと考えても見たが、それよりも二人っきりになれる方がいいと考え、少し離れた場所から静かに花火を見ることができる場所にしようと思い直した。隆は考えるだけで幸せな気持ちになってしまうほど菜々子に一目惚れしていた。もっとも高校三年と言う多感な時代はちょっとしたことで、のめり込んでしまう時期なのかもしれない。

 来年からは大学生になる隆だったが、この夏休みはそんなことを忘れさせてしまうくらい、大切な時間だと感じていた。隆は完全に菜々子の魅力に屈していた。隆自身の経験の少なさがそうさせていたのかもしれないが、あまりにも純粋すぎたのかもしれない。そんな隆は花火大会を首を長くして待っていた。二人っきりになれる場所で菜々子と一緒にいることを想像するだけで幸せに浸れていた。

つづく



第一弾のお話はこちらです。


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