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【短編】夏休みの恋 No.09


デート

 花火大会から二日後、菜々子は小さなレンタカーを借りていた。小回りがきくし運転しやすそうだと思ったからだ。ただ車はレンタルしたが、行き先は決めていない、というより土地勘がなく決められなかった。港に向かうと隆はすでに防波堤の付け根のところで待っていた。海を見つめている隆を見て純粋さを感じなんとなく胸がキュンとなるのを菜々子は感じながら、車をそっと隆のそばまで滑らせていった。そして軽くクラクションをならす。驚いたように隆が振り返った。夕日を浴びた隆の姿がなんとなく凛々しい男に見えて、また違った感情が菜々子の胸の中に湧き上がってくるのを感じながら、悟られないように平然と振る舞っている。

「もしかして、だいぶ待った。ごめんね」

「いや、全然待ってません。今来たところです」

「本当、汗かいてるよ、首筋のところ」

「あ、いえ、嘘つきました。ちょっと待ちました」

「やっぱり、じゃあ、早く乗って。あれ、なんでリュック背負ってるの」

「あー、実は、友達んとこで勉強するって親に言って出てきたから、参考書を持ってきました」

「あちゃー、そうだよね。夕方から出かけるんだもんね。なんか悪いことしちゃったなぁ」

「いえ、菜々子さんは全然悪くないです。全然」

 なんとなくどうでもいいような短い会話を交わし、隆は助手席に乗り込んだ。車の中ではラジオがかかっていてカーペンターズの曲が流れていた。ちょうどイエスタデイ・ワンス・モアがかかっていたところだった。隆は、曲を聞いて花火大会の夜のことを思い出していた。菜々子は隆が思い出しているなと反射的に感じ取ったが、短い夏のいい思い出のためだと思い直してそのままラジオを流したままにした。二人は何となく会話もなくカーペンターズの曲を聴きながら、菜々子の運転する車でのドライブを楽しんでいた。ただ、何となく車内は緊張感漂う空気が漂っていた。しばらく走った時に緊張した空気を破裂させるかのように菜々子の口が開いた。

「隆くん、今日は期待してきたんでしよう。何となく分かってはいたわ。今日はあなたの望みを叶えてあげようかなぁ。でもね、今日限りよ。私はあなたと付き合うことはできないから」

「え、どうして。僕がまだ高校生だから」

「ううん、違うわ。あなたはとってもいい人だと思う。純粋で真っ直ぐで。私は好きだよ。あっ、あそこに入ろうか」

「えっ」

 郊外にあるホテルのネオンが隆の目に飛び込んできた。胸が高鳴るのを感じて返事もできなかった。二人が乗ったレンタカーは吸い込まれるようにホテルの入り口に下がっているカーテンをくぐり抜けてゆっくりと滑るように入っていった。誰にも見られることもなく。二人は車を降りて、専用の部屋のドアを開け中に入った。空調がよく効いていて涼しいくらいになっている。菜々子は慣れた様子でバスルームに行き、お湯を出した。そして部屋の照明を少し落とし、紅茶を入れる準備をした。始めてモーテルに入った隆は何をしていいのか分からず、緊張し丸いベッドのふちに腰掛けて手持ち無沙汰な状態で時間を持て余していた。

「隆くん、そんなに緊張しなくていいわよ。そろそろお湯も溜まるから服を脱いで、入ってきて」

 実は、菜々子の心臓もバクバクと脈打っていた。お姉さんぶってはいるものの、自分がリードした経験はなかった。頭の中では貴史が菜々子に対してやってきたようなことをトレースし自分自身を試しているかのような気分になっていたのだ。

 隆の心臓は今にも飛び出しそうだった。言われた通りに動くこともままならなかった。やっとのことで服を脱ぎバスルームに入った。何が起きているのか自分でも分からないくらい興奮していた。バスルームも大きかった。深呼吸をして浴槽に浸かっていると、バスタオル一枚になった菜々子がバスルームに入ってきた。これは貴史と奈々子が始めてホテルに入った時に貴史がとった行動で、菜々子はそれを自分に置き換えて実行していたのだ。隆は緊張で動けなくなっている。そこに菜々子が優しく近づき、バスタオルをとって隆にくっつき寄り添ってくれた。流石に二人で入ると狭く感じられるくらいの浴槽で二人の体は密着していた。

 菜々子の心は複雑だった。貴史との最初のあの時、貴史は何を考えていたのだろうか、今自分は何を考えているのだろうか。目の前にいるのは貴史じゃなく隆だ。本当にこのままでいいのだろうか、いや、今この時しか経験できないのではないかという悪魔と天使が会話しているような感覚に陥っていた。結果、何でも経験をしておきたいという菜々子の本質的な欲求の方が勝ってしまった。隆は菜々子がそんなふうに思っているなんてことを考える余裕などなく、ただ菜々子の言葉を従順に待っているしもべと化していた。菜々子は隆を後ろからそっと抱きしめていた。

つづく



第一弾のお話はこちらです。


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