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【短編】夏休みの恋 No.10


思い出作り

 二人は夏の汗を流してバスルームを出てベッドインした。初めての経験である隆は訳も分からず、菜々子にリードされるがままに、菜々子の白い肌に自分の身を任せた。隆は思っていた通りの柔らかく白い肌だということに溺れそうになっていた。男女の役割がいつしか逆転しているような時間だったが、隆にとっては天国にいるような時間を経験していたようだ。このまま菜々子の胸に顔を埋めて眠りたいと本気で思っていた。一方、菜々子は頭の中で貴史に最初に抱かれた時の自分を隆に重ねていた。

『私も何も分からず、ただされるがままだったような気がするなぁ。男も女も最初はそんなものなのかなぁ。でも貴史は丁寧にリードしてくれたけど私の前にどれだけ経験したんだろう』

 そんな回想をしていた時、隆がなかなか離れないので、隆の気持ちを察したかのように菜々子は、ベッドから起き上がりバスルームに行きシャワーを浴びながら『そういえば私も貴史に同じような行動をしていたわ』と思い出していた。そしてズルズルと引っ張ってはお互いに良くないと思い直し、バスタオルを体に巻いて戻ってきた。

「どう、隆が望んでいたものでしょう。これからはもっとたくさん経験しなさいね。わたしは、もう少ししたらこの街を離れるわ。だから今日が隆とは最初で最後の特別な日よ。何も言わないで。夏の思い出として大切にしまっておきましょう」

「そんな。僕は菜々子さんが好きだ。大好きになってしまいました。菜々子さんと一緒にいる時間が僕の全てのように思えます」

 菜々子はそっと人差し指を隆の唇に押し付け「それ以上言わないで」というような仕草をした。隆は気持ちよく余韻に浸っていたところを現実に引き戻され、どうしていいかわからくなった。ただ、どう足掻いても今の隆ではどうにもならないのだろうなということも感じていた。隆の気持ちは、菜々子について行きたいと思ったが、まだ半人前にもなっていない高校生じゃどうにもならないと自分に言い聞かせてしまった。二人は休憩時間を使い切る少し前に部屋をでて車に戻り、港へと戻っていった。隆は今日のことは夢だったんだろうかと思うほどの経験だった。一方、菜々子は隆を前にしながらも貴史のことを考えていた。裏切ったつもりもないし、貴史を愛していることに変わりはないと自分に言い聞かせてはいるものの、人から見たらそうじゃないということも自分ではわかっている。だから、この夏のことは忘れなければならないんだと思っていた。

 車が港に着いた時、隆は最後のチャンスだと思い、車から降りる前に、菜々子にキスをしようとした。しかし、菜々子はスルッと交わして、一言いった。

「今年の夏の思い出はホテルを出た時に終わったの。私にとってもいい思い出をあなたからもらったわ。だから隆、あなたもいい思い出として胸にしまっておいて。ねっ。これからもっとたくさんの素敵な女性にきっと会えるわよ」

「僕は、忘れることはできそうにもない。菜々子さんを好きだという気持ちは変わりようがないと思う、絶対に」

「ありがとう。今あなたはちょっと舞い上がっているだけ。もっとも舞い上がらせてしまったのは、私のせいよね。でもあなたの人生はこれから。きっと変化がくるわ。その前に大学に入らないとね。受験頑張ってね。私は二日後の午後の電車で帰るわ」

 そう言い残して菜々子は隆を車から下ろして帰っていった。隆は、複雑な思いを抱えたまま自分の家へと足を運んで行った。心のどこかで「ごめんね。また会ってくれる」と菜々子が言ってくるんじゃないかと思ったりしていた。そんな奇跡みたいなことを少しだけ期待して二日後の午後に駅に行った。駅に着いたとき、このまま二人で電車に乗って知らないところに行けたら幸せになれるのかななどと妄想をしていたら電車がちょうどホームに入ってきた。しかし、菜々子の姿はどこにもない。慌てて駅員に確認すると、何と午前中の電車に乗っていったということだった。最後くらい会ってくれてもよかったのにと隆は思ったが、最初からこうするつもりだったんだなと思い直した。何とか自分の心から菜々子を追い出さないといけないのかという気持ちと葛藤することになった。当たり前だが、菜々子とはそれっきり会うことはなかった。


つづく



第一弾のお話はこちらです。


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