【短編】再出発 No.09
一つ前の話
昔話
「いいわよ。この人は今探し始めてるんだよ。あの時のあんたみたいにさ」
「そうか。じゃあ、話してみようか、久しぶりに。実はな、若い頃俺は日雇いで体張って日銭を稼いでたんだよ。ちょうどあんたぐらいの時かもしれないな。その時にこの婆さんと出会って、一緒になりたいと思ったんだよ。今ではこんな感じだけど若い時はべっぴんさんでなぁ。一目惚れってやつよ。それで、一世一代の勝負と思って田舎の賭場に行ったんだよ。まぁ、今では違法かもしれんが俺らの時代は警官も一緒になってサイコロ振っていた頃だったのさ。そうしたら、その時勝っちまってな。大金を手にできたのさ。それを持って婆さんに結婚を申し込んだんだ。幸せな時だったよ。でもな、めでたく一緒になってから、婆さんは病気になっちまったのさ。お腹には子供がいたんだけどな。それで、両方ともは助けられないって医者に言われて、駆けずり回ったんだよ。このあたりの病院全部。そうしたらアメリカに行けばなんとかなるかもしれないって言われてな。サイコロ持ってまた賭場に行ったのさ。当然、最初に勝ったのはまぐれだったし、その後は全く行ってなかったから勝てるはずもなく、家まで担保に入れるくらい負けちまってな。婆さんに合わせる顔がなくなり、姿をくらましたってわけよ。十年くらい」
「えっ、十年も。入院していた奥さんを置いて。で、赤ちゃんは」
「あぁ、助かるはずもなく死産だったのさ。婆さんはかろうじて命を繋ぎ止めたが足に後遺症が出て、普通に歩くことはできなくなり、その上子供も作れない体になっちまったんだと。俺の至らない性格のせいだな。そう反省したよ。時既に遅しってやつよ。それにその時には既に博打打ちになっちまってたもんだから、この婆さんとは正式に離縁したのさ。負け越した時に迷惑かけると思ってね。それが婆さんがこの店を出した時だな。まぁ、俺の周りの人間も訳ありの連中が多くて博打で身を崩しちまった奴がたくさんいたよ。既に死んじまったやつもたくさんいるけどな。人生なんてちっぽけなものさ。死んで仕舞えばそれまでだからな」
「なんだかすごい人生を聞いてしまったような気がします。女将さんも大変だったんですね」
「なーに、あたし達のことよりあんたの方が大変だったんだろう。あの時の顔には精気がなかったよ。話さなくてもわかるよ。数え切れないくらいの不幸な顔を見てきたからね。これからどうするんだい。何かに踏ん切りをつけるためにここにきたんじゃないのかい」
「女将さんには敵わないなぁ。実はここ苫小牧に来て七年が経ってしまったんですけど、住み続けることが辛いので東京に戻ろうと思ってるんですよ。その前にもう一度この店に寄りたいなと思って来てみました」
「そうかい、そうかい。そんな時にこんな汚い店のことを思い出してくれるなんて。ありがたいねぇ。よし、じゃあ今日はあたしから送別の気持ちとして、熱燗をサービスしてあげるよ。ついでに、こっちの爺さんにも出してやろうかな」
「おっ、兄さんのお陰で追加の熱燗にありつけちまったよ。ありがたいことだ。遠慮なく貰うよ、婆さん。で、なんだ、兄さんは東京出身だったのかい。俺も若い時は江戸川っていうところに住んでたけどな。千葉県と川一本隔てたところだったな。今となっては遠い昔のことだ。ここで兄さんと知り合ったのも何かの縁だ。これをやるよ。お守りがわりに持っていきな。婆さんの次に大好きなサイコロだ」
つづく
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