【短編】夏休みの恋 No.07
言い訳
「隆、どこ行ってたの。友達が来たんだよ。花火大会本当に行かないのかって」
「あー、行かなかったよ。音だけ聞いてたけどね。人混みを避けて神社で仮眠してたんだ。だから蚊取り線香も持っていったんだよ」
「それならそうと、いく前にちゃんと言ってから出かけなさい。まったく。それになんでわざわざ神社で仮眠なんか。悪いことしてたんじゃないだろうね」
「違うよ。神社からだと花火の音も聞こえるし、見ようと思えば見れるし、何より海からの風を受けて気持ちいいんだよ、あそこは。それに誰も来ない場所だし」
「バカだねこの子は、誰も来ない場所だから心配してるんだよ。寝るなら自分の部屋で寝ればいいだけなのに、まったく」
「あ〜、それもそうなんだけど、気分転換もしたかっただけだから、そんなに怒らないでよ」
「別に怒ってるわけじゃないの。心配してるだけなのよ。本当にお前一人だったのかい、誰かと一緒にいたんじゃないだろうね」
「ひとりだよ。誰とも一緒にいなかったよ。一人で風にあたりたかっただけなんだよ」
「これまで一度だってそんなことはなかったのにねぇ」
母親を騙しているようで、何となく心の居心地が悪かったが、今日の出来事は誰にも知られたくない自分だけの幸せな記憶として取っておきたかった。母親からの問いかけにちょっと焦ったような感じで早口になってしまったけど、気づかれた様子はなかった。そして菜々子と約束した次のデートのために外出することも伝えておいた方がいいと考え話を切り出した。
「はーい。あっ、そうだ。明後日は受験対策で夕方友達のところに行くからね」
「え、何時ごろ出かけるんだい」
「五時半くらいから。昼間は暑くてはかどらないから。だから適当に夕飯は食べるから用意しなくていいよ」
隆は菜々子と会うことを隠すため、母親に嘘をついていた。正面からは見透かされそうだったので、ついでに話をしているような振る舞いで横を向きながら母親に告げた。ちょっとした背徳感を感じながらも今は菜々子と会うことを最優先にしたいと隆の心が囁いていた。隆の母親は何となく変だなと感じてはいたものの、大事な受験の前で不安定になってしまっては元も子もなくなることを心配して、あまり突っ込んで問い詰めることは控えたようだ。一方、菜々子の方もおばさんの家に戻り、今日の花火大会の話をしていた。
「菜々子、花火は見てきたのかい。どうだった」
「あー、うん。すごい人と音だったわ。こんなに小さな街でも出店とかも出て大々的にするのね、花火大会」
「あぁ、そうだね。この辺では夏の唯一の楽しみだからね。そうなるのかもね〜。でもね、菜々子、ここは私が嫁に来た街だから、あんまり噂になるようなことはしないでね。羽目を外したい年頃だろうけど」
菜々子はドキッとした。もしかしたら、どこかで見られたのかなとも思ったが、とりあえずは知らん顔を決め込んだ。もともと、天真爛漫なところがあるので、おばさんも特に疑っているわけではなく、何気なく指摘しただけだった。
「大丈夫よ。そんなに心配しなくても。心配するようなことはないから」
「なーに、その持って回ったような言い方。あなたは時々びっくりするような行動をとるから心配しているのよ」
「はーい、わ・か・り・ま・し・た」
「全く菜々子ったら」
どこで見られているか分からないと思い、明後日の隆との約束にはレンタカーを借りていくことにした。本当はおばさんが使っているカローラを借りようと思っていたのだが、急遽思い直してしてレンタカーを選択した。幸いこの街にもレンタカーのお店はあった。早速おばさんに見つからないように電話をして明後日に借りる予約をした。
つづく
第一弾のお話はこちらです。
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