晩秋と歩くこと
歩くことは生きること
母の顔は遺影でしか知りません
だからこの一番古い記憶は
2歳頃のはずです
母に手を繋いでもらい
村に一つあるお店で買い物をした
帰り道です
舗装されていない土の道は
凸凹しており
砂利でならしたりするため
石があり歩きにくいです
村の小学校のグラウンドは柵が無く
授業で使っていなければ
村の人が通り道に使っていました
この小学校のグラウンドが
当時の私に歩きやすかったことが
地面の感触と共に心に残っています
母は友人が多く
その友人宅の庭先で立ち話をし
私は母の足元をちょろちょろと
遊んでいました
歩けるようになるための試練
村の診療所に3年通ったのですが
骨結核と診断される頃には
切断が必要という状況でした
別の病院と医師を父が探してくれ
車のない時代ですから
小学4年の冬に父におぶってもらい
電車で病院へ行きました
手術を終えて小学5年の新学期には
学校に通えるようになりました
移動の自由を取り戻し嬉しかったはずですが
11歳の私はそれどころではありませんでした
骨盤の骨を足首に移植するため
手術後は太ももから足先まで
足の指だけ残し石膏のギブスで固定するため
手術をした足はとても重いのです
足を持ち上げるように移動しました
その後の通院で
膝から下のギブス
添え木と包帯
このように段階的に外れ
足だけになると
病院で歩行訓練をしました
ギブスは小さな電動ノコギリで外すので
子どもの私は足を傷つけられそうに感じ怖かったです
歩行訓練は病院の屋上で行います
遠くの山並みなど美しいのですが
歩くことに専念しており景色は覚えていません
コンクリに描かれた
直線の左右に足型のマークがあり
その足型に合わせて
背筋を伸ばして歩きます
体を揺らさないように
最初はうまく行きません
例えば、重いギブスに慣れているので
ギブスが外れた状態は足が軽くなるのに
重い状態の足を持ち上げるようにすると
バランスが崩れるからです
こうして定期通院と訓練を経て
医師から杖無しでいいよと
言っていただいたのが小学6年生のことです
切断と診断された状態から
1年と少しで松葉杖無しで歩けるように
して下さったことは
年を取るほど感謝を覚えます
トラガラが小学生の頃ですから
40年くらい前のことです
整形外科にトラガラを連れて行ったところ
主治医の先生と雑談する機会があり
勉強したいからレントゲンを撮らせて欲しいと
頼まれたことが一度ありました
おそらく先進的な医療だったのでしょう
松葉杖が無いけれど不自由な足
お掃除の時間、最初は簡単なことしか出来ません
みんなと同じように出来るまで
もどかしいです
足首は走れない構造なので
体育は見学です
歩くことを取り戻したけれど
嬉しいけれどすることが多くそれどころでは無かったです
そして思春期には
利き足と弱い足の発達が違うので
制服のスカートが膝丈だから
ふくらはぎが見えるため
一部の男子にからかわれ
自分でも足が違うことは自覚があるため
「クラスの友達はこうではないのに
自分だけなぜ」と悩みました
父に言えば叱って諭してくれたでしょう
でも中学生なりに
父を傷つけると思い言えませんでした
トラガラがこの原稿の打ち合わせで
「僕は一緒に暮らして気になったことは無い
プールや海水浴も行った
客観的にほぼ分からない
片足切断する状態だったことを知らないから言うのではないかな
あと、その年頃、僕の世代もいたけど
1960年代も、言ってはいけないことが分からない幼い子いますね」と
呆れ、慰めてくれました
声で止める子育て
子育てで走れないことは
不自由です
俊敏にとっさに動けません
だから二人の子達は
幼い頃は私の5m程度の距離に
いてもらうようにしました
幸いトラガラもヒカリも
「止まって」と私が真剣に言うと
声のトーンから真剣さが伝わるのか
止まって待ってくれました
若いので力の有る声も出せたのでしょう
言葉で止まってくれることに恵まれました
今日の衰えと雄大な夕焼け
帯状疱疹後神経痛の療養で部屋で過ごしました
夏だけでなく秋も終わろうとしています
数日前、歯科医に行きたくて
近所だから杖で歩いたのですが
なんでもない距離なのに
帰宅して腰痛を感じ
二ヶ月半の療養で
体を弱らせてしまったと実感しました
それで、久しぶりに今日の夕方
散歩に出てみました
サポーターと杖を用いて
歩きやすい靴で
軽いコートを羽織っており
風が時々そよいでも気になりません
寒くはなく心地よい涼しさです
部屋も換気はしますが屋外とは違います
久しぶりに深呼吸が出来ます
家庭菜園に小菊が植えてあり
菊の香りがほんのり漂います
目を上げるとプラタナスの
下側が紅葉し、黄色と茶色が生地のヘザーのようです
上半分はまだ緑です
その向こうは夕焼けです
太陽の上に厚みのある雲があり
綿雲ではなく、幅広く長く
太陽の上に広がるように見えます
下から当たる夕日で雲が焼けます
雲が太陽を遮らないためか
とてもダイナミックに感じました
いきなり毎日歩くと
足に負担をかけるかもしれないので
明日は様子を見て
また、ぼつぼつ歩いてみようと思うのです
道路に直線も足跡も無いですが
歩けるようにすることは
小学生のあの頃に叩き込まれておりますから
