世論を読むAIが「選ぶ理由」まで担う日が来たら、人間に残るものは何か

前回、AIに仕事を渡していく中で最後まで手放せなかったのは「選ぶ理由」だった、という話を書いた。字幕の直しも、概要欄の作成も、データを見ながらの分析も渡せた。でも、今日のニュースの中でどこに対立構図があるか、どの言葉が視聴者の肌感覚に触れるか。それを読み取って「今回はこれを取り上げる」と決める部分だけは、最後まで自分の手元に残った。
ただ、あの記事では一つだけ書きっぱなしにした話がある。「この選ぶ理由すら、いずれAIに追いつかれるかもしれない」という危機感だ。今回はそこを、もう少し掘ってみたい。

「選ぶ理由」は、突き詰めれば何をしている作業なのか


渡せなかった仕事の正体を、もう一段分解してみる。政治ニュースの文脈を読む。今この瞬間、どこで対立が起きているかを肌で掴む。6万人を超える登録者が、今どんな空気の中でこのチャンネルを見ているかを感じ取る。そのうえで「今回はこれを取り上げる」「この一言で伝える」と決める。
これを機能として見れば、「世論やニュース、視聴者の反応というインプットから、テーマと切り口というアウトプットを導く変換作業」だと言える。感情や勘に頼っているように見えて、実は「何を材料にして、何を導き出すか」というかなり構造化された作業でもある。構造化できるということは、原理的には模倣できる余地があるということでもある。

もしAIが「選ぶ理由」を担うようになったら


技術的な話として、視聴者の反応データを学習し、話題選定から台本生成、音声合成までを自動でこなす配信の仕組みは、すでに視野に入りつつある領域だと思う。特定の事例を指して「もうできている」と断定するつもりはないが、方向性としては不自然な未来ではない。
もしそういう仕組みが政治・経済のオピニオンメディアに実装されたら、何が起きるか。おそらく最初に強くなるのは「今、何が一番反応を取れるか」を見つける精度だ。世論の反応データがある分、人間の勘より速く、広く、それを拾えるようになるかもしれない。
ここで気づいたのは、自分が「選ぶ理由」と呼んでいたものの中に、実は二つの違う動機が混ざっていたということだ。一つは「反応を取れるものを選ぶ」という最適化の動機。もう一つは「これは伝えるべきだと思うから選ぶ」という動機。前者は、原理的にはAIの方が得意になり得る。後者は、そう簡単には渡せない気がしている。

人間の「選ぶ理由」とAIの「選ぶ理由」は、同じものか


ここが今回、一番考えたかったところだ。仮にAIが世論の風を正確に読み、反応の取れるテーマを的確に選べるようになったとする。それは自分がやっている「選ぶ」と同じことなのか。
一つ違うと思うのは、責任の置き場所だ。自分が選んだテーマや切り口が間違っていた、あるいは誰かを傷つけた、事実誤認があった——そうなったとき、自分の名前でそれを引き受ける。訂正もするし、次の判断にも影響する。AIが選んだ場合、その「選んだ理由」に対して誰が責任を負うのかは、まだ社会的にも技術的にも決着していない問題だと思う。これは断定できることではないし、今後の制度設計やサービス設計次第で変わっていく部分だろう。
もう一つ違うと思うのは、選ぶという行為の前提にある経験の蓄積だ。肌感覚と呼んでいるものは、実際には5年以上この分野のニュースを追い、視聴者の反応を見てきた経験の総体だと思う。AIも大量のデータを学習することはできるが、それが「経験」と同じものなのかは、正直まだよく分からない。似ているようで違う気もするし、違うと言い切れるほどの根拠を自分は持っていない。

それでも、今のところ残ると思うもの


危機感は消えない。ただ、この危機感を「AIに追いつかれるかどうか」という競争の話として捉えるより、「自分が選ぶ理由に何を込めているか」を明確にし続けることの方が、今できることなんじゃないかと思うようになった。
反応が取れるかどうかだけで選んでいるなら、その部分はいずれAIに置き換わっていくだろう。でも「これは伝えるべきだと思うから選ぶ」という動機と、それに対して自分の名前で責任を負うという姿勢は、仕組みが何であっても、自分の側に置いておける部分だと思っている。
前回の記事で「これからの時代、人間には何が残るのだろうか」と問いかけた。今回、自分なりに出した仮の答えは、「選ぶ理由の中身」だ。反応を取るための選択なのか、伝えるべきだと思うからの選択なのか。その違いを自分で分かっていることが、今のところ唯一、AIに渡せていない部分だと思う。
これも断定はできない。数年後には違う答えになっているかもしれない。それでも今の時点での自分の考えとして、ここに書いておきたかった。
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