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Jリーグ「百年構想」に学ぶ長期戦略——なぜ目先のKPIばかり追う組織は衰退するのか?

「今季勝つ」より「百年先」を見据える。──Jリーグ「百年構想」に学ぶ、短期成果と長期投資の分け方

こんな人へ。

四半期や単年度の数字ばかりを追いかけさせられ、「これ、本当に長い目で見て意味があるのかな」と疑問を感じながらも、目先の結果を優先せざるを得ない立場にいる人へ。


正直に言う。

若手PMだった頃、私は「今すぐ結果が出ないもの」を、ことごとく後回しにしてきた。

育成、ドキュメント整備、地道な関係構築。どれも大事だと分かっていた。でも、四半期の評価には反映されない。だから、目の前の納期と数字を優先し続けた。

数年後、あるチームが慢性的に消耗し続けていることに気づいた。短期の数字は達成していた。でも、その裏で、何かが確実にすり減っていた。

Jリーグには「百年構想」という理念がある。1996年、当時のJリーグ初代チェアマン・川淵三郎氏の考えのもとに生まれたこの言葉を知ったとき、あの頃の自分の判断が、少しだけ違って見えた。

理由は、まだうまく言葉にできていなかった。


第一章

Jリーグは、名前の由来からして異例だった。

サッカーの頭文字を取れば「Sリーグ」でもよかったはずだ。でも、あえて「Jリーグ」を選んだ。その根底には、「ホームタウンづくり」という理念があった。クラブは、地元の誰もが自由にスポーツを楽しめる場を作らなければならない、という考え方だ。

第二章

この理念は、すぐに結果が出るものではなかった。

1993年、10クラブでスタートしたJリーグは、当初、地域密着という言葉が本当に成立するのか、疑問視されていた。子どもたちが参加できるチームを地域に作り、そこから協調性やボランティア精神を身につけ、いずれスター選手が生まれる。この構想は、短期の勝敗とは、まったく別の時間軸で動いていた。

三章

2026年、Jリーグは開幕から30年が経ち、この理念を掲げた特別シーズンとして「明治安田J1百年構想リーグ」を開催している。

30年経った今、ある地域では、クラブの施設に高齢者が集い、若者たちが仕事帰りに汗を流し、地域社会そのものが育っている。百年という長いスパンの構想は、当初「現実味のない大風呂敷」とさえ言われていたが、30年という時間をかけて、少しずつ形になってきている。


第四章

パズルは揃った。

Jリーグの百年構想も、私が後回しにし続けていた「今すぐ結果の出ないもの」も、同じ構造をしていた。

すぐに結果が出ないものは、無駄なものではなかった。ただ、結果が出るまでの時間軸が、目の前の評価サイクルよりずっと長いだけだった。

第五章

これは、今は誰も涼めない、100年後のための植林の構造だ。

木を植える人の中には、自分が生きている間には、その木の下で誰も涼めないと分かっていながら、植える人がいる。今日植えた苗木は、10年経っても、まだ小さな木のままかもしれない。でも、100年後には、大きく育った森が、地域の気候や生態系そのものを支えている。

植林をする人は、自分の代の成果としてこれを見ていない。次の世代、そのまた次の世代のために、時間軸をずらして投資している。

Jリーグの百年構想も、同じ発想でできていた。今季の順位や、目先の観客動員数だけを追いかけていたら、「地域に根ざしたホームタウンづくり」という、結果が出るまで数十年かかる取り組みには、決して手が回らない。

目先の成果を出せないものを後回しにし続けていたのは、判断が間違っていたからではなかった。ただ、その投資の"収穫期"が、自分の評価サイクルよりずっと先にある、というだけのことだった。

Jリーグが30年間、この理念を掲げ続けられたのは、目先の勝敗と、百年先の土台づくりを、最初から別の時間軸のものとして、意識的に分けていたからだった。

第六章

この構造は、サッカーリーグの外にも広がっている。

人を責めるより構造を見るというのも、ここに繋がる。「あの人は目先の数字しか見ていない」と個人を責める前に、その人の評価サイクルが、そもそも長期投資を評価できる時間軸になっているかを見た方がいい。

長期残存価値という考え方は、まさにこの植林の発想そのものだ。今すぐ芽が出ないものを、無駄だと切り捨てず、時間軸を分けて育て続ける。巡航速度を保っている組織ほど、短期のKPIと、長期の土台づくりを、意識的に別の予算・別の評価軸として扱っている。

キャリアの選択でも同じだ。足し算より引き算という原則で言えば、今すぐ成果の出る仕事ばかりを足していくより、時には、成果が出るまで何年もかかる「植林」を、あえて一本、選んで植えておく。それが、10年後、20年後の自分を支える森になる。

第七章

もしあなたが今、「今すぐ結果の出ないもの」を、評価されないからと後回しにしているなら。

それは、判断が間違っているわけではないかもしれない。

ただ、その木が育つ時間軸を、まだ誰も正式に認めていないだけなのかもしれない。


エピローグ

Jリーグの百年構想は、まだ道半ばだと言われている。

それでも、30年前には誰も想像できなかった風景が、今、いくつかの街には確かに広がっている。

あなたが今日植えている木は、いつ、誰のために育つのだろうか。

問題は、人ではない。構造が、人をそう動かしている。

人を責めるより構造を見る。今日も、少し優しくなれる。


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各シリーズは以下のマガジンにまとめています。
・現場PMの実践ノート:https://note.com/quiet_emu2080/m/mb3eda5b30688
・キャリアマガジン:https://note.com/quiet_emu2080/m/mf96a1ab04ea6
・人物で読む、長期残存価値シリーズ:https://note.com/quiet_emu2080/m/me8d794a161df

©shiraco|PMPおじさんの実践ノート @NoteCcm42090

構造学。──人を責めず、構造を見る。
問題は、人ではない。構造が、人をそう動かしている。


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