【連載】C-POPの歴史 第28回 '10年代の中国-2 バンドとインディーズの10年代
中国、香港、台湾などで主に制作される中国語(広東語等含む)のポップスをC-POPと呼んでいて(要するにJ-POP、K-POPに対するC-POPです)、その歴史を、1920年代から最新の音楽まで100年を時代別に紹介する当連載。
前回は、中国本土の2010年代(2010年〜2019年)のポップスのうち、メジャーシーンの10年を振り返りました。中国本土は2000年代から高度経済成長期に入り、続く10年代ではエンタメ業界でもありあまる経済力を活かして海外から優秀な作曲者を召喚させ、他地域(香港、台湾)に比べて少し遅れているイメージのあった中国本土の音楽が一気に発展した時代です。また音楽配信が本格的になり、多くの人が音楽を楽しむ機会が増え、それに合わせてアーティストや楽曲の数も圧倒的に増えました。もし気になる方がいましたらこちらもよろしくお願いします。
さて今回は、同じく2010年代の中国本土で、どちらかと言えばインディーズ、ライブシーンに属するロックバンドやシンガーソングライターの曲を紹介します。14億人の人口を抱える中国本土の特徴として、インディーズ、バンドの厚みがあり、それはメジャーなポップスシーンを超える盛り上がりを見せていました。そのあたりを紹介しますね。今回もなかなかいいはず。
ところで、日本を含む現代音楽シーンにおいて、メジャーとインディーズの差は、そう簡単に二分できるものでもありません。当連載ではあくまでテレビやマスコミなどを中心に伝播するポップスをメジャー、ライブ中心に支持を集めている人たちをインディーズと区分けしました。
また、インディーズシーンの解説ということで、いくつかの細分化された音楽ジャンルに関する言葉が登場しますが、どんな人にも理解できるよう、音楽ジャンル名にはWikipediaへのリンクを入れています。専門誌の、分かる人だけに分かればいいって態度は嫌いなんで。それにポップって大衆的なものだし、大衆に理解されないとね!
中国本土のライブハウス・フェス事情
楽曲を紹介する前に、2010年代に本格的に根付いた中国本土のフェスについて紹介したいと思います。中国本土で最も有名で大規模なフェスは、2009年に始まった草莓音乐节(Strawberry Music Festival)が挙げられます(Wikipedia)。このフェスは北京を代表するロックレーベル、Modern Sky(摩登天空)の運営。2013年には10万人を越える動員を記録し、これは日本のフジロックなどと同規模です。ストロベリーフェスは最初は北京で開催されましたが、現在は中国様々な地域での開催となっています。日本のロックフェスと異なるのは、年に複数回行われることで、例えば2023年はWikipediaによると15ヶ所(!)で行われています。さすが14億人の人口を抱える中国。開催回数多すぎ。
もう一つ重要なフェスに、迷笛音乐节(Midi Music Festival)が挙げられます。これはストロベリーより古く、2000年にスタートして、やはり北京近郊に10万人規模の動員を誇るフェスティバル。北京迷笛音乐学校という音楽学校が主催しています。どちらもロック中心のフェスですが、どちらかと言えばストロベリーが大衆ロック寄り、ミディがハードロック寄りと言われてはいます。とは言え出演者は二つのフェス双方に出演するバンドが多いので、まあ、そんな違わないと考えてください。
二つのフェスが揃ったのは2009年。つまり、2010年代に中国本土ではフェスカルチャーが本格的に根付いたと言えるでしょう。
一方、現在のライブハウスカルチャーが本格的に地方都市も含めて根付いたのもこの時代です。特に有名なのは、MAOでしょう。MAOは2007年に北京に1号店が登場し、その後じわじわと店舗数を増やしていきます。
MAOはひょっとすると毛沢東(Mao)とダブルミーニングかもしれませんが、一応、Musician、Audience、Organaizerの略で、北京、上海、広州など中国の17ヵ所(オフィシャルサイトより)に展開しています。これも数が多い。私はかなり昔ですが上海のMAOに行ったことがあります。キャパは800人。恵比寿のリキッドルームと同じかやや少ないぐらいで、ロックをやるにはすごくいい規模感だと思います。数々の売れっ子たちがこの舞台に立ってきました。

こうしてバンドやアーティストを支える「ハコ」も2010年代に整いました。ところで、どのフェスも、ライブハウスも、北京を中心に登場しているという点も注目です。中国はとても広い国ですが、バンドやアーティストは北京に集中する傾向があります。一方で、この記事を全部読むとわかりますが、とある意外な都市が北京のライバル、カウンターとして登場するのです。お楽しみに。
中国本土のバンド
まずはこの時代を代表するバンドを4つほど紹介します。
以眼杀人(EYES KILL)/新裤子乐队(New Pants)(2011年)
新裤子(New Pants)は90年代から活躍している老舗バンド。当連載でもすでに1曲紹介しています(第15回参考)が、この時代もしっかり活躍中。彼らはストロベリー音楽祭の主催であるモダンスカイ(摩登天空)に所属するアーティストで、ライブシーンの代表格と言えるでしょう。
デビュー当時はポップパンクバンドと呼ばれていましたが、この時期はこの曲のようにエレクトロへ接近しており、男女ヴォーカルということも相まって日本のバンドで言えばスーパーカー(懐かしいですね)のような存在になっていると思います。
你要跳舞吗/新裤子乐队(New Pants)(2016年)
せっかくなのでNew Pantsでもう一曲。さらに5年後は再びポップパンクの要素を取り戻し、ファンからすると原点回帰と呼べると思いますが、よく聴くと初期よりもアレンジが複雑になっていて、エレクトロへの寄り道は必要だったんだと思わせてくれます。
私は彼らが持っているニューウェイヴ感が好きで、現在どちらかと言えばニューウェイヴは下火ですが、ファンが多く意外と聴き馴染みやすいジャンルなので、このジャンルが日本やアジアでも再燃する可能性はあると思います。
どちらにしても、New Pantsはとても聴きやすいバンドで、すべての音源がちゃんとSpoitfyやApple musicで聴けるので、中国バンドをこれから聴いてみたいという方への導入としてはいいんじゃないかと。
心要野/后海大鲨鱼(Queen Sea Big Shark)(2016年)
2組目、2010年代中国本土ライブシーンの目玉と言えば后海大鲨鱼(Queen Sea Big Shark)でしょう。これも高揚感あっていい曲〜。自然と踊りたくなるよね。
冒頭で説明した通り、中国本土の音楽シーンはありあまる経済力を武器に海外から才能を召喚できるようになったという話をしましたが、この曲でもMVをフランスの映画監督レオス・カラックスが撮っています。巨匠が撮るだけあって素晴らしい出来。ぜひ最後までみてほしい。
彼らもフェスではトリを取るような格で、ロックファンに愛されているバンド。彼らは従来のロックサウンドにクラブカルチャーの魅力を取り入れたところが新しく、踊れるロックバンドとして有名です。それが彼らを大きなステージに向かわせたし、中国語を理解しない海外のリスナーにも支持された大きな理由だと思います。
彼らもNew Pantsと同様、北京のモダンスカイ所属。
Strawberries/海朋森(Hiperson)(2019年)
続いて2010年代にギリギリ間に合った新生、海朋森(Hiperson)。こちらはポストパンクの影響を感じさせるバンド。退廃的な中にも力強さがあります。大陸バンドが持っている、広い大地を彷彿とさせるスケールの大きさもいいですね。
彼らは中国国内ではヒップホップの街として知られる内陸の都、成都発。成都は四川音楽学院という音大があって、彼らはそこのスクール出身。北京や上海は今や家賃が高く、若い音楽家が住むのが難しい街になりつつあり、成都はそれに変わる音楽の都として注目が高まっています。彼らの音楽はパンクだけでなく、スポークンワードとかジャズ、アートとかの影響も感じさせます。なんというか、音楽院(スクール)出身だけあってストリート出身より音楽偏差値が高い感じ。そのことが影響しているかは分かりませんが、彼らは米国や日本でも評価され、日本ではCDも発売しています。所属レーベルは、インディーズの名門、Maybe Mars(メイビーマーズ/レーベル所在地は北京)。Maybe Marsには他にPK14、Carsic Carsなども所属しています。モダンスカイとメイビーマーズは、中国本土ロックシーンを代表するレーベルです。
地上的种子/冷酷仙境(Cold Fairyland)(2007年)
さて、中国と言えば、首都が北京で、もう一つの大都市は上海というイメージですよね。この連載で記しましたが、そもそもC-POPというのは1920年代の上海租界で生まれたんです(第1回)。ところがロックシーンに関しては上海は北京と比べあまり盛り上がっていません。そんななか、上海で一つバンドを挙げろと言われたら、二胡を楽器に取り入れたユニークなバンド、冷酷仙境(Cold Fairyland)があげられます。彼女たちはもう解散してしまったんですが、ロックとワールドミュージックの間にあるなかなか見応え、聞き応えのあるバンドだったと思います。再結成を望みます。
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さて、ここまでタイプの違う4つのバンドを聴いていただきましたが、中国本土はバンドがとても多い。全部紹介しきれない。それもこれも、まだポップスすらままならない時代に、崔健が89年に中国本土のロックを開放した(第8回参考)功績だと思います。一方で、ライブシーンの盛り上がりには地域差がかなりあって、特にバンドは北京に固まっています。北京のライバルとも言える上海は、都市の規模のわりにはメジャーなバンドが多くありません。他方、ダークホースとして、成都が音楽の都として影響力を高めているように思います。
映画主題歌としてのバンドの活躍
ロックバンド=インディーズ志向と言えばそれだけではありません。メジャー志向のアーティストもいまして、その代表選手は10年代で言えば南征北战(NZBZ)だと思います。彼らは映画の主題歌という媒体をうまく使って知名度を得ているバンド。どんな曲があるのでしょうか?
萨瓦迪卡 (Sawasdeeka)/南征北战(NZBZ)(2015年)
残念ながら正規音源がライブ版しかなく、これを紹介しますが、この曲はぜひMVを検索してもらいたいと思います。この楽しいMVは、中国本土の映画「唐人街探案」のテーマソングとして、映画のエンドロールで流れるものです。「唐人街探案」はシリーズもので、東京やニューヨークを舞台にしたヴァージョンもありますが、私がお勧めしているのはタイ・バンコクを舞台にしたシリーズ1作目で、その1作目の主題歌がこの曲(タイ語で「こんにちは」の意味を持つ「サワディカ」をタイトルにしている)。残念ながらこのバンコク編だけはNetflixやプライムなど大手サービスでは見ることができません(Youku(优酷)のみ)。
このMVは出演者がバンドメンバーと多くのエキストラと踊るだけの単純なビデオなんですが、その明るさ、楽しさにインド映画のそれを感じました。インドと言えば、アジアでも屈指のエンタメ映画大国で、経済力を武器に予算と人材が集まってきている中国映画が、エンタメ映画大国としてインドと肩を並べる未来の可能性を感じます。もともとカンフーとかアクションは香港映画のお家芸ですが、香港はアートフィルムに舵を切って、これからはこういうエンタメフィルムは本土が作るようになるのかな、と感じた瞬間です。どう考えても、中国企業のほうが企業規模が大きい(高額な制作費がつく)ですからね。
この時代、香港の映画監督もみな中国本土に出張していて、『少林サッカー』なんかでお馴染みのチャウ・シンチーや、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』でお馴染みのツイ・ハークらもこの2010年代には中国本土に進出し映画を作っています。ジャッキー・チェンも今や北京で仕事をしています。そうした、中国本土のエンタメ映画の日の出に合わせた映画が「唐人街探偵」シリーズで、そこで毎回主題歌としてフィーチャーされたバンドが、冒頭に紹介した南征北战(NZBZ)。以降、「Happy扭腰(ニューヨーク編)」、「酷你吉娃(東京編)」と、映画のシリーズに合わせて新曲を提供しています。
哈尼宝贝/南征北战(NZBZ)、米線(2016年)
映画の話題ではなく音楽の記事でしたね。南征北战(NZBZ)からもう一曲。この耳に残る楽曲は、少数民族のハニ族の民謡を配合したいわばエスノロック(エスニック+ロック)です。
彼らの強みはこの曲に代表される民族の多様性で、自分たちのことをV-Pop(Various Pop Music/和訳すると「多彩なポップス」でいいのかな)と呼んでいます。いったい何をもって多彩なのかというと、メンバーは遼寧省(東北地方)出身の回族、広西チワン自治区(華南地方)出身のヤオ族、そして雲南省(西南地方)出身の少数民族、ワ族と、3人とも違う出自を持ち、メインの漢民族や中心部の北京や上海出身の人物は1人もいないという、非常に多彩な(Variousな)バンドだということです。映画という産業を武器にしつつ、地平では自分たちの民族性を駆使した音楽を提示する縦横無尽(まさに南征北战)のバンドでした。デカいステージが似合う彼らは中国のスタジアムロックシーンを代表するバンドだと思います。
中国本土版ソフトロック、シティポップ、ファンク
独舞(Solo Dance)/潘高峰(GAOFUNK)(2012年)
ここからは、アジア中でブームとなっているシティポップ、そしてそのブームの前触れとなったフューチャーファンクや、さらに広く捉えたソフトロックに関するアーティストを紹介します。
まずはGAOFUNK(潘高峰)。彼は北京連合大学の旧友とともに、前身となるG-Eleven=北京事変というバンドを結成します。バンドは2005年に結成されますが、黒人音楽が好きでファンクに興味を持ち、徐々に音楽性をシフトさせて2012年にはこのようなスタイルになっていました。
2012年と、まだまだシティポップムーブメントがやってくる前ですから、おそらく彼はこの時点では自分でシティポップをやってるという感覚はなく、ソフトロックやブルーアイドソウルのイメージだと思いますが、ハードロックが強い中国本土において、明らかにソフトなロックを打ち出した好例だと思います。
Sturday Night (星期六晩)/Project Ace(2014年)
続いて、Project Ace。こちらは広東省・広州出身で、中国ではすっかり少数派となった広東(カントン)語でファンクミュージックを奏でる「広東ファンク」を標榜する楽しいバンド。
すごくよくできた曲ですが、どこかで聴いたことある曲だなとずっと思っておりました。これはKurtis Blow(カーティス・ブロウ)のThe Breaksという曲にそっくりというか、カバー扱いでもいいぐらい。権利関係の問題が解決していないのか配信には登場していません。ただ、原曲にはない女性コーラスや広東語ラップの独特の魅力はあって、これはこれでリメイクとしては十分に成功してるんじゃないかと。これも広い意味でのフューチャーファンクに位置すると思います。
恋曲2016/马赛克乐队(MOSAIC)(2016年)
そこから4年経って2016年。彼らはやはり北京に次ぐ音楽の都となりつつある成都出身の四人組で、アルバムジャケットを見ると(百度百科のリンク)、YMO(日本)、マイケル・ジャクソン(アメリカ)、Beyond(香港)のレコードを手にしており、音楽的な雑食性を感じます。
後ほど紹介しますが、台湾のSunset Rollercoaster(落日飛車)の名盤、Jinji Kikkoが登場するのもこの曲と同じ2016年。この頃にはすでにシティポップは一般的な知名度を得て音楽好きの間では盛り上がっていたように思い、中国本土、台湾、そしてアジア各地にこの波は到達していたということがわかります。
この後も中華圏に限らずアジア全般でソフトロック=シティポップ路線は活況で、なんならJ-POPよりもC-POP圏のほうがこのジャンルはより盛り上がっているように感じます。
シンガーソングライター/ベッドルームポップ
ここからは、バンドではなくソロに絞ります。主にインディーズシーンで活動するソロのアーティストのなかで、ベッドルームポップというジャンルに絞って紹介したいと思います。ベッドルームポップとはちゃんと説明すると長いのですが(こんな記事もあります)、ベッドルーム(寝室)で聴くのに適したポップと考えていただく方がより簡単にジャンルをイメージできると思います。
Seaside Motel/阿克江Akin, Visudy(2016年)
私が大好きな中国本土の音楽家、Akin(阿克江)の初期の作品。こちらもファンクやR&B、シティポップの影響は感じますが、より内省的でベッドルームポップと呼ぶにふさわしい、1人時間のための音楽だと思います。
以前説明した通り、2010年代は音楽配信プラットフォームが揃った時代で、これから音楽はより身近な存在になり、視聴スタイルの変化に合わせて音楽形態も変わっていきます。この曲は配信時代の音楽という雰囲気ですよね。
Like this(心碎disco)/阿克江Akin ft.Shawee(2016年)
Akin(阿克江)からもう一曲。中国本土の動画プラットフォームのビリビリより。これは名曲ですよ。世界的な配信がないのが残念です。ノリもよくて。家に帰ったマイケル・ジャクソンみたいな。のちに紹介するDizkar(地磁卡) と合わせて、中国版の新しいソウルミュージックがここに立ち上がってきているように思います。かつてジャマイカ人は、隣国アメリカから勝手に流れてきたラジオで聴いたソウルミュージックに魅了され、演奏のしかたも分からず真似しようとしてレゲエという新しい音楽を生み出しました(これは事実)。そしてかつて大瀧詠一や山下達郎などの日本人が、アメリカのソウルミュージックに憧れ、真似してできたのがシティポップの源流だと私は考えています(これは意見だけど、まあ異論は少なそう)。
であるならば、アメリカのソウルミュージックに憧れた現代中国人は何を作るのでしょうか。こういった類の音楽が、20年後、30年後ぐらいに、まったく新しいジャンルの音楽として紹介している未来を妄想せずにはいられません。
阿克江Akinは成都に本拠地を置く明堂唱片(MINTONE RECORDS)というレーベルに所属していますが、このレーベル、このようなシティポップ、ベッドルームポップ、ローファイヒップホップなど、今時の音楽を量産する注目のおしゃれレーベルです。
静夜思(Tranquil Night of Tranquil Moon)/ 王璁(2017年)
こちらも明堂唱片(MINTONE RECORDS)に所属する、深圳在住のGavintoo(白天不亮)が、ジャズヴォーカリストの王璁をプロデュースした一曲。中国の詩人、李白の詩のタイトルと一緒なので、おそらく詩の一節を曲にしたのだと思います。一方、歌手の王璁は、広州出身で古典音楽とジャズの融合を試みているアーティスト。嶺南地方の特色をこめた音楽を作りたいとのこと。確かに伝統音楽とジャズの融合というスタイルですが静けさに溢れていて、家で1人で内省するときに使えそうな音楽ですよね。インディーズならではの音楽の魅力をたっぷり感じていただけますでしょうか。
祝福你/Howie Lee, Meuko Meuko(2017年)
こちらは、北京のアンビエント系DJのHowie Leeが、台湾の女性DJ、Meuko! Meuko!を招いて、2人でデュエットした曲。Howie Leeはポップスを紹介する当連載ではあまり出番がありませんでしたが、アンビエントミュージック界では中国で最もメジャーな存在かもしれません。で、この曲の元ネタはおそらく香港のJenny Tsen(甄妮)の祝福你と言いたいところですが、あまりに歌詞も違うので(そもそも原曲は広東語)、何か他の元ネタがあるのかもしれません。作詞曲者は不明。何かの民謡なのでしょうか。
どちらにせよ、中華圏では正月によく流れる古い歌謡曲を現代風にアレンジした楽曲で、この既視感があるようでない曲、アンビエント出身の音楽家ならではの面白い試みだと思います。この感覚はもっと評価されてもいいような。
さらに微妙に気持ち悪いMV、見出すと最後までなぜか見てしまう中毒性がありますよ。ぜひ最後までご視聴ください。
Crowded Zone/Dizkar(地磁卡) , 王以太(Yitai Wang)
さて、こちらも明堂唱片(MINTONE RECORDS)所属のDizkar(地磁卡)が、このあと中国本土で人気となるラッパー、王以太(Yitai Wang)とコラボした楽曲。どうでしょう、C-POPなんて興味ないと言ってるそこのやつに聴かせてやってよ、このおしゃれなトラックを! (ちなみに当連載の冒頭に置いた画像は、AIが作ったDizkarのイラストでした。)
Dizkar(地磁卡)は中国・雲南省の昆明出身。昆明と言えば中国内でも最も最南西に位置し、北京に出るよりハノイやバンコクに出た方が近い、というユニークな立地で、少数民族がたくさん暮らしています。そしてDizkarも地元昆明を離れたあとは、上海に出ますが、その後成都に移動して、現在は成都を拠点としているようです。この曲は英語詞ですが、彼は2020年代、中国語詞を使って曲を作り、さらに活躍の場を広げます。そのことは、また2020年代に紹介するのでお楽しみに。
まとめ
ということで、フェスで人気のイキのいいバンドから、ベッドで落ち着いて聴くのに適した内向的な音楽まで、中国本土のインディーズシーンを中心に聴いていただきました。いかがでしたでしょうか。思ったより面白い音楽に溢れていたのではないでしょうか。
前回は中国本土の音楽はなぜ2010年代に一気にレベルが上がっておしゃれになったのか、みたいな話をメジャーシーンを舞台に展開しまして、海外在住の音楽家を召喚させることによって達成した面が大きいと話しましたが、インディーズシーンでは録音機材が安価になった兼ね合いで、自宅でしこしこ録音・ミックスするアーティストが増え、このブロックで紹介したように、上質なベッドルームポップ(ベッドルームポップはダブルミーニングで、寝室で作られているという意味も持ちます)が大量に増えているという側面も見逃せないと思います。
また、このブロックを通して感じるのは、北京という中心、そしてそれより遠く離れた場所、という二つの軸があるように思います。今回登場したバンド、ミュージシャンで言えば、新裤子、后海大鲨鱼、NZBZ、GAOFUNK、そしてHowie Leeは北京出身・あるいは北京在住です。彼らは様々なジャンルで中国本土を代表するトップミュージシャンとして君臨しています。
一方、海朋森(成都)、Project Ace(広州)、MOSAIC(成都)、阿克江Akin(活動地は不明だが出身はウイグル、レーベル本拠地は成都)、王璁(広州)、Dizkar(昆明出身で現在は成都を本拠地とする)は、北京から遠く離れた場所で音楽活動を行っています。北京からの実質的な距離を持ったアーティストがインディーズシーンではかなり台頭していて、そしてその多様なバックボーンを持つ人たちが成都という地方都市に集まってきています。大きな都市が多い中国において、成都は5番目の都市と呼ばれています(参考)。そんな場所が中国音楽史上北京の次に重要な都市となってきていることが面白いと思います。次週はヒップホップ、そして少数民族の音楽を紹介しますが、その成都から世界を揺るがす大物が登場します。乞うご期待。
