1on1が増えて、対話が減った
たくさん話した。でも、聞いていなかった
若かりし日の失敗談を、一つ打ち明けさせてください。
外資系の小売業で、研修を担当していた頃のことです。お客様対応の部門のスタッフに向けた商品研修の企画・実施での出来事です。ちょうど会社が、アップセルやクロスセルを戦略に掲げたタイミング。お客様に商品の魅力を伝えるには、まずスタッフ自身に「この商品、素敵だな」と感じてもらいたい——そう考えた私は、チームメンバーと一緒にプロモーション映像のような資料を作り、意気揚々と本番に臨みました。転職して最初の大仕事です。張り切っていました。
結果は、さんざんでした。
理由は、あとから知れば、あまりに単純でした。スタッフの毎日は、お客様からの細かい問い合わせに、正確に答えること。現場が本当に必要としていたのは、私が「魅力」の後ろに回してしまった、商品の細かい仕様情報のほうだったのです。
私は、たくさん話しました。でも、聞いていませんでした。結果、バランスの悪いプログラム内容になっていたのです。
制度は動いている。でも、届かない
この記憶を思い出すのは、最近、1on1のご相談を伺うことが増えたからです。
ある経営者の方は、こんなふうにおっしゃいました。「自由に何でも話してほしいから、オープントークにしているんです。でも、会話が広がらない」「かといって質問の型を決めると、答えは通り一遍になる。本人が何を思っているのか、伝わってこない」。
一方で、部下の側の方からよく聞くのは、こんな声です。「毎回『最近、調子どう?』から始まるんです。で、なんとなく近況を話して、なんとなく終わる」。悪い時間ではない。けれど、毎回どこか同じような、ぼんやりした会話が繰り返されていく——。
制度としては動いている。時間も取っている。会話もしている。それなのに、何かが届いていない。
1on1は、何のための時間なのか
そうしたお話を伺ううちに、ひとつの共通点があるように思えてきました。オープンに聞くか、型を決めるか——手法の問題に見えて、実はその一歩手前。この時間は何のためにあるのか、という目的が、ふたりのあいだで分かち合われていないことです。目的が曖昧なまま器だけが定例化すると、自由に聞けばぼんやりし、型にはめれば通り一遍になる。あの日の研修の私も、同じでした。届けたい魅力で頭がいっぱいで、この時間が現場にとって何のためにあるのかを、確かめていなかったのです。
答えは、会社によって違っていいのだと思います。業務の進捗を確かめる場。仕事を進めるうえで困っていることを相談する場。そう設計している会社もあり、それはそれで、ひとつの立派な形です。ただ、進捗の確認や困りごとの相談は、実は日々の報告・連絡・相談のなかでもできること。せっかく一対一の時間を確保するなら、その場にしかできない役割があるのではないか——と、私は考えています。
前回の記事で、「わかりました」は聞けても、「そうしたい」は聞こえない、という話を書きました。
1on1が一番力を発揮するのは、その「聞こえないもの」に耳を澄ますとき——業務の報告には乗ってこない、本人の思いや違和感、まだ言葉になりきっていない何かが、ようやく口にできる場所になるとき。それが、現場に居合わせてきた私の実感です。目的がそこに置かれると、オープンか型か、という迷いは少し小さくなります。どちらも道具にすぎないからです。
話す準備ではなく、聴く準備を
話す準備ではなく、聴く準備をして座る。相手が話しているあいだ、次に自分が言うことを考えない。沈黙が来ても、慌てて埋めない。そして会話の持ち主を、相手に渡す。「今日、話したいことはありますか」——言葉だけなら、「最近どう?」とほとんど変わりません。分かれ目は、この時間が何のためにあるかをふたりが分かっていることと、そのあとの沈黙を待てるかどうか。相手が自分の言葉を探している時間を、こちらが奪わずにいられるかどうかです。それだけで、同じ30分の性質が、少し変わります。
あの日の私は、届けたいものを一生懸命届けようとして、届きませんでした。
いまも気を抜くと、確認したいことから話し始めてしまいます。だから面談の前に、一度だけ自分に聞くようにしています。
今日の会話の持ち主は、どちらだろう。そもそもこの時間は、何のためにあるのだろう、と。
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