97日目:Nintendo Directはなぜ生まれた?―任天堂が「直接」伝える場を作った理由
新しい商品について、何を、なぜ、誰のために作ったのか、一時間かけて丁
寧に説明したとします。
ところが、ニュースで使われるのは数十秒。記事には短い見出しが付き、SNSではさらに短い言葉へ置き換えられます。
「そんな意味で言ったわけではないんだけどな……」
発信した人なら、一度は感じたことがあるのではないでしょうか。
任天堂が2011年に始めた「Nintendo Direct」は、新作ゲームを紹介する人気番組として知られています。
しかし、その始まりには、単なる宣伝番組では終わらない情報発信の悩みがありました。
今回は、その誕生とお祭りへ育った過程を辿り、「自分の言葉を届ける場所」について考えてみます。
〖原点〗花札から世界的な娯楽企業へ―任天堂が作り続けてきたもの

任天堂は1889年、京都で花札の製造を始めた会社です。
その後、トランプ、玩具、電子ゲームへと扱うものを広げ、1983年にはファミリーコンピュータを発売しました。
それでも、遊ぶ人へ驚きや楽しさを届ける点は変わっていません。
特定の機械ではなく、時代に合わせて「遊びの形」を作り替えてきた会社ともいえるでしょう。
〖問題〗発表した言葉が別の意味になる―マスメディアとSNSの「編集」

Nintendo Directが始まる以前、任天堂は決算説明会でも新しい製品情報を発表していました。
ところが、投資家が知りたいのは、売上や今後の経営方針です。一方、ゲームを遊ぶ人が知りたいのは、新作の内容や発売時期、前作から何が変わったのかでしょう。
同じ「任天堂に関する情報」でも、聞きたい内容が違います。
さらに、当時はSNSの普及によって、情報が広がる速度も急速に上がっていました。当時の社長だった岩田聡さんは、決算説明会での発言が、思いもよらない歪んだ形で広まった経験が何度かあったと説明しています。
これは、マスメディアが悪意を持って言葉を変えた、というだけの話ではありません。
新聞には紙面、テレビには放送時間の限りがあり、ウェブ記事には短い見出しも必要です。一時間の説明をそのまま載せられない以上、誰かが残す部分を選びます。そこには編集した人の視点が入ります。
「ある条件では可能性がある」という説明が、「実施を検討」に縮み、SNSでは「実施決定」と広がっていく。
最初の人が嘘をついていなくても、伝言ゲームの最後には別の話になることがあるんですね。
〖食い違い〗多彩なゲームが一つの見出しに縮むとき

任天堂は種類の異なる多くの遊びを生み出してきました。しかし外からは、「子ども向け」「昔からある人気作品の会社」「新しい流行に遅れている会社」など、分かりやすい一言へまとめられがちです。
一言は伝わりやすい代わりに、そこから外れるものを見えにくくします。
実際、2012年6月には、日本経済新聞の「任天堂、スマホに対抗」という記事に対し、任天堂が公式に反論しています。任天堂は、その記事を自社が発表や事実確認をしたものではなく、多くの間違いを含む憶測記事だとしました。
ただし、これはNintendo Direct開始後の出来事で、番組誕生のきっかけではありません。
むしろ大切なのは、直接発信する場所を持った後にも、報道との食い違いが起こったことです。
訂正を出しても、最初の記事を読んだ全員へ届くとは限りません。それなら、「任天堂が実際に何を発表したのか」を確認できる一次情報の場所を、日頃から育てておく必要があります。
Nintendo Directは宣伝の場であると同時に、元の文脈へ戻るための場所にもなったのでしょう。
〖転換〗Nintendo Direct誕生―「直接」が一つのお祭りになるまで

2011年9月、任天堂はニンテンドー3DSのカンファレンスをインターネットで生中継しました。
平日の昼間にもかかわらず多くの人が視聴し、配信後には新作が発売されたわけでもないのに、国内で3DS本体の販売が伸びたと岩田さんは説明しています。
インターネットなら、映像も順番も前後の文脈も含めて届けられる。
その手応えを受け、2011年10月21日に最初のNintendo Directが配信されました。二日前に公式サイトとTwitterで告知し、視聴しやすい午後8時から録画映像を流すという、当時としては新しい試みでした。
投資家には経営の情報を。ゲームを遊ぶ人には、購入を判断するための詳しい情報を。
相手に合わせて、発信する場所と内容を分けたわけです。
開始から一年後、岩田さんは、情報が公開前に歪んだ形で拡散する問題を、Nintendo Directを始めた大きなきっかけに挙げました。一方で、報道関係者やアナリストと話す意義も認めています。
ここは大事なところです。
任天堂は、「すべて自分たちで発信すれば解決する」と考えたわけではありません。ゲーム内容のように利用者へ詳しく見せたいものは直接届け、広く社会へ知らせる時はマスメディアの力も借りる。情報の種類によって方法を選んだのです。
やがてNintendo Directは、新作が突然発表されたり、思いがけない続編が紹介されたりする場になりました。
視聴者は配信を待ち、同じ瞬間に驚き、感想を交わします。正しく届けるための仕組みが、情報そのものを一緒に楽しむお祭りへ育ったのです。
伝達経路を短くした結果、発信者と受け手の間に、新しい文化まで生まれました。面白いのは、ここからです。
〖結び〗他人に紹介してもらいながら、自分の言葉も持つ

これは、大企業だけの話ではありません。
個人の仕事や商品も、誰かに紹介してもらううちに、説明しやすい一言へ置き換えられます。
「パソコンに詳しい人」
「安い店」
「健康に良さそうな商品」
紹介してもらえること自体はありがたいものです。しかし、本当に伝えたい価値と同じとは限りません。
パソコンに詳しいのではなく、難しい仕組みを分かりやすく説明することが得意なのかもしれません。安さではなく、材料や作り方を大切にしている店なのかもしれません。
だからこそ、ホームページでも、SNSでも、ブログでも、自分で説明できる場所を持っておく。
何をしているのか。なぜしているのか。誰の役に立ちたいのか。何を大事にしているのか。
もちろん、自分からの発信には、自分に都合のよい説明になりやすい弱点があります。第三者が調べ、評価し、別の視点を示す役割も必要です。
誰かに紹介してもらうことと、自分で説明すること。
第三者に評価してもらうことと、自分の考えを示すこと。その両方があって、受け取る側も判断できます。
「直接」という名前を持つNintendo Directが教えてくれるのは、情報を独占する方法ではありません。
自分が何者なのかを、他人の言葉だけに任せないこと。
本当に伝えたいことは、まず自分の言葉でも、相手へ届けにいくことなのではないでしょうか。
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