【通貨の価値・前編】通貨の価値を「3つのレイヤー」で見る──国家の信用・物価・為替を切り分ける基礎ノート
0|東湖昌益さんのコメントをきっかけに
コメント(要旨)と関連記事
現代のお金は国定信用貨幣で
あり、中央銀行のバランスシート上では
「負債」として記録されていること。通貨の価値は「国家の現在・
将来能力への信用評価」で決まること。国境を越えた外為市場では、通貨が
「美人投票」的なアセットとして
売買されていること。そのため、自国通貨建て国債と言えども、
外からの評価リスクがゼロとは言えないこと。
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東湖さんの記事とコメントを読んでいるうちに、
「同じ“お金の話”をしているつもりでも、
人によって話している層が全然ちがうな」と
あらためて感じました。
たとえば、
家計や生活実感の話
通貨制度や金融政策の話
為替レートや国際資本移動の話
どのレイヤーも大事なのですが、
そこが混ざってしまうと、
「それって家計の話? それとも制度の話?」
というところから食い違って、
議論そのものがかみ合わなく
なってしまう恐れがあります。
そこで今回は、
前提をそろえるための“共通の土台”として、
「通貨の価値」を 3つのレイヤー に分けて
私なりに整理してみることにしました。
考えるきっかけを下さった東湖さん、
ありがとうございます。
1|「通貨の価値」はざっくり「3つのレイヤー」
私がいま考えている「3階建て」は、こんな感じです。
1階:通貨制度・供給力レイヤー(基礎条件)
自国通貨建て国債を発行できるか
為替制度が変動相場制かどうか
モノやサービスを生み出す
供給力があるかどうか
通貨システムの「土台」そのものの層です。
2階:国内購買力レイヤー(対内価値)
物価水準(インフレ率・デフレ傾向)
名目賃金・実質賃金
税・社会保険料などの負担
つまり、
「1万円で、生活の中でどれだけ買えるか?」
という対内価値の層です。
3階:為替レートレイヤー(対外価値)
円高/円安といった名目為替レート
外為市場での売買
「美人投票」的な評価
(誰が買いそうか/売りそうか)
海外から見た「円の値段」、
つまり対外価値の層です。

ニュースやSNSでお金の話をするとき、
この3つがごちゃごちゃになりがちです。
1階の「通貨制度・供給力」の話を
しているつもりが、いつの間にか、2階の「暮らしの実感」の話になり、
そこへ3階の「為替レート」の話が混ざる。
そうすると、
「その心配は1階の話?」
「それとも2階? 3階?」
が分からなくなり、
話が噛み合わなくなってしまいます。
なのでいったん、
それぞれの階を、順番に見てみます。
2|1階:通貨制度・供給力レイヤー(基礎条件)
1階は、この通貨システムがそもそも
「成り立つかどうか」の層です。
ここで見ているのは、たとえばこんな条件です。
通貨:自国通貨建、外貨建て国債など
為替:固定相場制、変動相場制など
供給力:モノやサービスを生み出す力
供給力というと、ちょっと抽象的ですが、
働く人の数・健康状態
インフラ(電力・交通・通信)
教育・研究開発
医療・福祉・治安
企業や地域の技術・ノウハウ
など、「その国がどれくらいモノや
サービスを生み出せるか」の総合力です。

よく、
「自国通貨建てで国債を発行できる国は、
デフォルトしない」
と言われるのは、この1階の話です。
自分のところで通貨を発行できる
変動相場制なので、対外的な調整は
為替レートで起きるかつ、国内に一定の供給力がある
この3つが揃っているあいだは、
名目上の「返せません」状態にはなりにくい、
という発想ですね。
さきほどの長文コメントの、
「通貨の価値は、国家の現在・将来能力に
対する信用評価で決まる」
という指摘は、
この1階=通貨制度・供給力レイヤーの話
として読むと、とてもよく分かります。
3|2階:国内購買力レイヤー(対内価値)
2階は、
私たちの日々の暮らしの
目線から見た「通貨の価値」です。
キーワードは、たとえばこんなものです。
物価水準(インフレ率・デフレ傾向)
名目賃金・実質賃金
税・社会保険料の負担
家計としての「生活のしんどさ/余裕」
つまり、
「同じ1万円で、どこまで暮らせるか?」
という対内購買力の話です。

エッセイの中でも、
「私が生まれてからずっとデフレで、
今はインフレって騒いでいる」
といったニュアンスのくだりがありましたが、
これはまさに2階の話です。
このあたりの話は、
1階の「通貨制度」ともつながりつつ、
主に2階=国内購買力レイヤーで起きている現象です。
4|3階:為替レートレイヤー(対外価値)
3階は、海外から見た「通貨の価値」、
つまり為替レートの層です。
ここで扱うのは、たとえばこんなテーマです。
円高/円安といった名目為替レート
外為市場での売買
「美人投票」としての通貨評価
長文コメントの中でも、
「外為市場では通貨が“美人投票”的な
アセットとして扱われる」
という話が出てきました。
これは典型的に、
3階=為替レートレイヤーの話です。
通貨は、
国内では「交換手段」としての顔を持ちつつ、国境を越えた市場では、
「国家の将来価値を織り込んだ金融商品」として
売買される。
このとき、評価のされかたは
株式の「美人投票」とよく似ています。
誰もが「みんなが買いそうな通貨」を買い、
「みんなが売りそうな通貨」を売る。遠い国の選挙や政変、
他国の金融不安といったニュースで、
あっさり雰囲気が変わる。

たしかに、3階だけ切り取ると、
これはとても不安定な世界です。
5|円高・円安は「3階の話」。でも、1階と2階も見たい。
ここで一度、「為替レートレイヤーだけ」
にズームすると見落としやすい点も、
整理しておきます。
5-1|円高・円安には、それぞれメリット・デメリットがある
よく、「円安だから日本終わりだ」
「いや、輸出企業が儲かるからむしろいい」
といった極端な言い方を見かけますが、
実際にはもう少し立体的です。
💰円安のとき
【プラス面】
・輸出企業にとっては追い風
・観光立国としてはプラス
【マイナス面】
・輸入エネルギー・食料のコストは上がりやすい
・ガソリン代や電気代・食品など、家計は苦しい
💰円高のとき
【プラス面】
・エネルギー・原材料価格が下がる
・製品コストが下がり、物が安くなる
・海外からの輸入品が安くなる
【マイナス面】
・輸出企業には逆風となり得る
つまり、
円高=絶対善、円安=絶対悪とは言えません。
3階の動きを、
2階(国内購買力)を通して
どう受け止めるかが大事になります。
5-2|急激な変動には「為替介入」というブレーキがある
もう1つ、3階だけを見ていると忘れがちなのが、
為替介入の存在です。
あまりにも急激な円高・円安が起きた場合、
政府・日銀が市場に介入して
変動をある程度なだらかにする、
という仕組みがあります。
もちろん万能ではありませんし、
タイミングや規模によっては
うまくいかないこともありますが、
「レートがちょっと動いたら即アウト」
というほど、無防備な状態に
放り出されているわけでもありません。
5-3|そもそも、介入できる/信用される「体力」はどこから来る?
ここで、また1階に戻ります。
為替介入を行うとき、市場が
「この国はまだ大丈夫だろう」と
思ってくれるかどうかは、結局のところ、
通貨制度・供給力・政治・社会の安定
など、通貨制度・供給力レイヤー(1階)
への信頼とつながっています。
1階がしっかりしているあいだは、
為替が多少ギザギザしても、
「まあ、この程度なら調整可能」
と見てもらえる。

逆に、
1階が痩せてくると、
3階の美人投票が一気に「本気モード」に入り、
為替レートの変動が、実体経済にも
大きなダメージになる可能性がある。
ここが、今回いちばん
書いておきたかったポイントです。
6|どのレイヤーの話をしているのか?という視点
ここまでをまとめると、
長文コメントとエッセイには、
たとえばこんな3つの話が同居していました。
「国家の現在・将来能力に対する信用評価」
→ 1階:通貨制度・供給力レイヤー(基礎条件)「ずっとデフレで、今はインフレが話題になっている」
→ 2階:国内購買力レイヤー(対内価値)「外為市場では通貨が美人投票的なアセットとして扱われる」
→ 3階:為替レートレイヤー(対外価値)
どれも大事な論点ですし、
それぞれの視点には学ぶところが
たくさんあります。
ただ、これらが一つの文章の中で混ざると、
いま自分が心配しているのは、
「1階の問題」なのか
「2階の問題」なのか
「3階の問題」なのか
が、少し分かりにくくなってしまう。
そこで、
「この話は、3階=為替レートの話をしている」
「この部分は、1階=通貨制度・供給力の話だ」
と、頭の中でレイヤー分けして読むと、
少しだけスッキリ整理できるのではないか、
と思っています。
7|ここまでが基礎編。次回は「スラムダンク編」へ。
最後に、少しだけ次回の予告を。
今回の話を、マンガ『スラムダンク』
でいうとこんな対応になります。
1階:通貨制度・供給力レイヤー
→ チームの「地力」そのもの仙道のようなエースがいるか
他メンバーの層の厚さ
体力・練習環境・監督の戦術など
2階:国内購買力レイヤー
→ 1試合1試合の「内容」得点の取り方
ディフェンスの出来
ファウルトラブル など
3階:為替レートレイヤー
→ 外野の評価・観客席のざわめき「あのチームは強い/弱い」
解説者のコメント
マスコミの評判
次回の「スラムダンク編」では、
「仙道がいるチーム」は、
どこまで通貨制度・供給力レイヤーが
強い状態なのか?
「それでも負けるとしたら、
それはどんなときなのか?」
というイメージで、1階の話(供給力)が
本格的に揺らいできたケースを、
陵南メンバーになぞらえて
考えてみようと思っています。
次回水曜日更新
【後編】外野がざわついても、「仙道がいるチーム」はそう簡単に負けない──外為の“美人投票”が本気で効く前の、供給力の話
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