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それは『長下肢装具』という高級な靴



 脳出血で重い後遺症を負った妻のために、25万円のオーダーメイド装具を購入した私。



 これは、介護生活の中で直面した
「回復と経済的なジレンマ」を描いた、

介護のリアルな記録です。





ICUから急性期病棟に移り、
2週間もすると、妻の『歩行訓練』が始まりました。


リハビリでは、病院の貸出用の
『長下肢装具』を使っていました。



それは、大腿から爪先までをがっちり固定する"補助器具"で、

麻痺側の右脚を支えながら、ようやく数歩ずつ歩けるようなものでした。


とはいえ──


装具をつけていても、後ろから抱えられて、「歩く」というよりは、

むしろ

「持ち上げられながら、進まされている」といった感じでした。




ある日、担当の理学療法士から声をかけられました。


「そろそろ奥さん専用の装具を作っていきましょうか。身体に合ったものの方が、リハビリも進みますから」


たしかに──

貸出のものはサイズが微妙に大きく、
大腿あたりに少し空間がありました。

でも、正直それほど気になるほどでもない気もしていました。

ーーー


その費用の説明を受けて、思わず耳を疑いました。

「オーダーメイドで25万円です」

えっ、25万!? と目の前でつい──

新車の原付バイク? かと…


実際、その頃の家計は、かなり厳しくなっていました。

私は仕事を休んでおり収入は減少。

加えて、医療費や入院関連の支出がかさんで家計は、まさに『火の車』でした。



ーーー


理学療法士は続けて、

「このまま貸出用のままでも良いですが、奥様の身体に合ったものの方が、回復も期待できます」


そう言われ、少し躊躇しながらも──


やはり、ここは妻の回復を第一に、
オーダーメイドの『長下肢装具』をお願いすることにしました。



「きっと妻も欲しいはず」
と自分に言い聞かせながら。






その後、業者と理学療法士が、何度も微調整を重ねて、

ついにその“高級な装具”は完成しました。


(高次脳機能障害と失語症のため)
ほとんどそのことを、理解できないだろう妻に、一応報告してみると──

妻はニコニコしながら、喜んだようす。


試しに、
「いま我が家の家計やばいんだよね。
その装具、実は新車の原チャリ並みでさ」
とボヤいた振りをしてみれば、

やっぱりニコニコ

間違いなく、分かってないな、
これは──


…なんとなく、
妻が"ずるい"気がしました。





けれど──

覚悟を決めて作った、
その“高級な靴”に、早くも転機が訪れました。



装具を使い始めてから、
わずか2週間ほど経った、ある日のリハビリ。


理学療法士がふと、
最近、脚の反応も良くなってきたので、『短下肢装具』に変えてみましょうか」と。


え? なんで?…ですか?
と、思わず聞き返す私に、


「今までのは、膝まで固定していましたが、もう短くしても、十分に支えられそうですから」


──そうか、もう、いらないんだ。


つまりは、

それだけ妻の回復が進んでいるということで。
もちろん、それは素直に嬉しいことでしたが・・


でも一方で、家計が『火の車』の中、
腹をくくって作ってもらった、

かなり『高価な買い物』でも、あったわけで……


「これ…貸出しでよかったんじゃないか?」

「いや、オーダーしたからこそ回復が早まったのかも…」



そんな器の小さい思いが、
頭の中をグルグルと駆け巡っていました。



ちなみに長下肢装具は、
膝下と太もものパーツに分かれて使える仕様で、しばらくは膝下のパーツだけ使っていました。


とはいえ、その膝下のパーツも、やがて出番がなくなり。


結局、その“高価な靴”は、わずか2ヶ月でお役目も御免になりました──





その後、改めてプラスチック製の
『短下肢装具』を新たにオーダー。


そのお値段、6万円──也



「ほんと、何から何まで高すぎじゃない…?」

そう妻に、こぼしてみれば、
妻は、ニコニコと。


……うん。ま、まあ。


妻が良ければ、まあ、いっか。
そう自分に言い聞かせていました。


その後、妻は順調に回復。

でも、我が家の財布は──『リハビリ中』でした。


それは『長下肢装具』という高級な靴
──【完】



※ 装具費は保険給付金として、3ヶ月後に一定額が還付されます。


※この話は、筆者の実体験に基づき作成されています。



▼このお話のシリーズはこちら。


▼この話は、『若若介護』シリーズの一編です。全体構成【目次】はこちら

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