食べてるときは、全集中でお願いします。
脳出血の後遺症が残る妻は、
同時に二つのことをすることができません。
とくにトラブルになりやすいのは、
食事をしながらの会話です。
何かを食べながら話すことは、
昔から良くないと言われていますが──
在宅介護の日常では、
その言葉の意味に触れる機会も少なくはありません。
ある日──
妻はリビングテーブルで、
ドラマを見ながらピーナッツを食べていました。
私はその後方のソファで同じドラマを見ていましたが、
気になる場面があり、妻が振り向きながら、
「あれ、ほら、なんだっけ?」
と言った瞬間に、
ピーナッツがポロリ。
もちろん自分で拾えないので、
私が拾いに行きました。
「いまはドラマに集中しよう。
ピーナッツ落ちるから」
そう声を掛けました。
⸻
ところが、CMの間にもまた、
「あの俳優なんだっけ。
うーんと、なんだっけ、ほら…」
考えながら、ピーナッツをひとつまみ。
「〇〇でしょ」と私が答えると、
「ああ、それそれ」と──またポロリ。
・・。
別の日──
テレビでドラマを見ながらの食事中。
気になる場面があり、妻がまた、
「ほら、なんだっけ、あれあれ」
私は、「とりあえず、食べてからにして」
と答えましたが、
妻は横にあったスマホを手に取り、
私の言葉には耳を貸さず、
検索をしはじめました。
(※後遺症の一つの"こだわり")
なかなか食事は進まず──
ようやく見つけて、
再び食べ始めるかと思えば、
「ほらね、やっぱり、こうみたい」
と画面を見せながら、
ニコニコしながら説明をはじめる。
私は、それを遮りながら、
「とりあえず今は食べる。集中!」
そう言っても、妻のおぼつかない手が箸に触れて、床にポロリ。
黙って私が拾い上げると、
すっかり時間が
経ってしまったせいか──
「もうお腹いっぱい」
そう言って、半分も食べないまま、
食事は終わってしまいました。
せっかく作って捨てるのも、
もったいないので残りはいつも私に。
「お腹いっぱいだから、食べて良いよ」
…はいはい。
妻のおかげで私のお腹は、
いつも満たされていました。
妻と食事をするたびに、
親からよく言われたことを思い出します。
「食事中はテレビを見ない、
お話しはしない」
そして今──
その意味を、妻と向き合いながら、
改めて知る機会を得ています。
「ほら、今はいいから、
食べることに集中して」
妻との、こんなやり取りは、
今日も繰り返されています。

食べてるときは、
全集中でお願いします。【完】
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