妻の美容法
脳出血により、
妻の介護で困ったことは数知れず──
その中には、
“女性を介護する上で困った話”
がいくつかあります。
これは、そのひとつ──
私がそれまでに、
まったく興味のなかった
“妻の美容”に関する話です。
回復期病棟に移り、
数ヶ月が経過していました──
妻はもともと、
"化粧をまったくしない人"でした。
それは脳出血で障害者になったから、
という訳ではなく、
学生時代から、
口紅すらほとんど付けたことがありませんでした。
──逆に、
化粧をしないせいなのか、
生まれつきなのか。
妻の肌ツヤは、
年齢を感じさせないほど見事で、
ちょっと引くぐらいのレベルでした。
やや困ったのは──
そのツヤを
どうやって維持していたのか、
私がまったく知らなかったことです。
──もしかしたら何か特別な、
"妻なりの美容の秘訣"
があったのかもしれない。
このまま放置するのは、
妻にも肌にも良くないはず。
やや危機感すら、
私は感じ始めていました。
残念ながら大学生だった娘も、
妻と同じようにノーメイク派で、
なんの参考にもなりませんでした。
会社の女性にも聞いてみました。
『お肌の美容には、
化粧水と乳液が大事なのか』
たしかに家にも、
それはありました。
ただ、家にある化粧品を
いろいろネットで調べてみると──
どう見てもそれは、
40代が使うものではないぐらい、
"ひどく安いもの"でした。
ネットには、
コスメ関連の情報が溢れていて、
40代のベストコスメやオススメ化粧品など。
私なりに、妻に何が良いのかを
探していました。
──化粧品は高いものが良い
という勝手な固定観念のもと、
なるべく高い物を妻に用意しました。
妻が使っているのを
見たことはありませんでしたが、
これを機に、
パックも習慣化させようと、
美容のラインナップに加えました。
それは、
──妻の肌ツヤを維持するために!
そんな思いでした。
さぞや喜ぶだろうと、
それらを妻に持っていけば──
妻は、明らかに不機嫌。
……え、
どうやら、妻いわく──
高い物は保湿力がすごくて、
ベタベタするから嫌らしく。
あえて"保湿が少ない安いもの"
を選んでいたとのこと。
何より"無駄な買い物"をした私に、
妻はイラついていました。
──じゃあ、パックは?
"面倒くさい"
だそうです…。
その日に買ってきたものが、
"妻の美容"に活かされることは、
ありませんでした。
私は安い化粧水と乳液を、
もう一度買い直すことに──
ただ、パックだけは、
妻とふたりで顔に貼って、
『覆面レスラーみたい!』
と大笑いして遊びました。
結局、妻の肌ツヤは、
"私が心配しないのが、
いちばんの秘訣"
──だったようです。

妻の美容法 【完】
▼この作品は、創作大賞2026 エッセイ部門にエントリーしています。
その他の作品はこちらからご覧になれます。
▼この話のシリーズのマガジンはこちら
▼この話は、『若若介護』シリーズの一編です。全体構成【目次】はこちら
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援とフォローをお願いします。
チップはクリエイターとしての活動費にいたします!