『消費期限』を気にするということ
妻は“消費期限“に対して、
とても厳格な人でした。
1日でも過ぎれば、
それを口にすることはなく──
なので、
買い物で一番重要視するのは、
その消費期限の長さでした。
週に2、3回は仕事帰りの途中に、
私はスーパーに立ち寄り、
食材を買っていましたが。
何を食べたいかよりも、
できるだけ長く食べられるものを
優先していました。
家では毎日のように妻による、
消費期限チェック──
『このパン明日までだよ』
『これは今日まで』
以前はここまで、
気にしていたか覚えていませんが、
脳出血の後遺症も関係しているのか、
いまの妻は──
その消費期限が1日でも過ぎると、
“それ”を口にすることはありませんでした。
『昨日まで食べられて、
今日食べられなくなるなんて、
おかしくない?』
私がそう言っても、
『私は食べないから、いらない』
頑として、
譲ることはありませんでした。
なので、
私がスーパーで食材を買うときは、
日付をよく見ながら。
仮に、どんなに美味しそうなもので、
どんなに流行っていても…
“それ“が短いものには、
私が手を出すことはありませんでした。
そんな、ある朝──
そのヨーグルトは前の日に、
消費期限が切れていたことを、
私は知っていました。
別に食べられない訳じゃないし──
また妻はきっと、
そんなことは分からないだろうと、
私はタカをくくっていました。
リビングのテーブルにあるものなら、
まだしも、
冷蔵庫の中にある物まで
──“それ“を知るはずもなく。
素知らぬ顔をして、
しれっと、
それをテーブルに出してみました。
すると、妻から、
『このヨーグルトの期限はいつ?』
──ドキリとしました。
けれど、
もはや引くに引けない状況。
『さあ、明日じゃないかな』 と。
できる限り、顔色も変えずに、
そう答えれば、
『じゃあ、見せて』
妻は間髪入れずに。
──ゲームオーバーでした。
それからというもの──
その“消費期限“を過ぎたものは、
私の担当になりました。
たとえヨーグルトであろうと、
牛乳やチーズであろうとも…。
そのおかげもあり、
無駄な買い物も減って。
我が家のフードロスは、
ほぼなくなりました。
妻にとっての消費期限とは、
以前よりも自分の体が、
弱くなったからこその、
“安心“なんだろうと──
長くなった、
介護生活の中で、
そんなふうに、思えています。

『消費期限』を気にするということ 【完】
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