病院服の罪悪感
妻が脳出血で倒れてから、
数ヶ月が経過していました。
その後遺症により、
まだ、
言葉も十分ではなく、
体の自由も失われていたものの──
妻は"自分の身なり"に、
気づき始めていました。
妻は病院の服が、
好きではありません。
それは、私も同じで。
あくまでも、
主観ですが、
病院着には選択肢がなく。
正直、
──それで、出掛けられますか?
と言いたくなるような
ものばかりでした。
その病院服──
日中はリハビリ用に作られた、
脱ぎ着がしやすいストレッチ素材。
上着とパンツのセットで、
機能性重視の、
ややタブついたデザインでした。
色も二種類ありましたが、
それも名ばかりで、
肩や袖口に色違いのラインが、
入っているかどうか程度。
また就寝時の寝間着は、
防水性のある素材で作られた、
ビジネスホテルのような
ガサガサの質感。
そのフォルムは浴衣風でしたが、
風情は一ミリもありませんでした。
服装に頓着しない私でさえ、
お世辞にもオシャレとは思えず、
──これ、どこで売ってるんです?
と聞きたくなるようなものでした。
けれど、そんな病院着を、
なぜ選ぶのかといえば、
それは、
──洗濯をしなくて済むから。
病院に持ち込んだ
すべての衣類は、
患者もしくは、その家族が、
洗う必要がありました。
とくに妻のように
重い後遺症を負った患者は、
服を汚す機会も多いため、
病院着であれば、
それをしないで済むからでした。
何より、
入院生活における洗濯は、
看病をする側にとっても、
大きな負担の一つでした。
ある日──
リハビリが進み、
身なりを気にするようになってきた妻。
共有スペースで、
雑誌を見ていた妻から、
『病院の服がイヤだから、変えたい』
……洗濯の負担が増えるな
しばらく考えて、私は、
『ダメダメ』
『病院着はリハビリを考えて、
作られてるんだよ』
『今はイヤでも、
それで我慢しないと』
──と。
それを聞いた妻は、
何も言わず俯いてしまいした。
自分の負担を
増やしたくないという理由で、
"妻が一番納得しそうな言葉"を、
私は選んでいました。
その、"もっともらしい言葉”で、
妻の希望を拒否した私は、
後味の悪い、
罪悪感を覚えていました。

病院服の罪悪感 【完】
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