『頑張る歩行訓練』──息切らすリハビリ
脳出血の術後から2週間。妻は意識を落とされていました。
麻酔から目覚め、意識が戻り。
ICUから急性期病棟に移っていたところでした。
それは、あの救急搬送から、約3週間が経った頃のこと。
本格的なリハビリが、いよいよ始まりました──
「右半身が完全に麻痺した」妻の歩行訓練には、
太ももから、つま先まで覆う長下肢装具が使われていました。
背後から理学療法士の先生に、
しっかり抱えられ、まだ自分の足に体重を乗せることもできないまま──
片脚ずつ、前に出していく。
それは、歩くというよりも、
後ろから持ち上げられ、ズリズリと押し出されるような感覚に近いものでした。
それでも私は、そんな妻の姿を見て嬉しくなって、
「頑張れー!すごい、すごい!」と、
思わず大きな声を上げていました。
妻は嬉しいのか恥ずかしいのか、
顔をぐしゃぐしゃにしながら、泣いていました。
吊りあげられながら、
それでも一歩、また一歩と前へ。
理学療法士の先生も、
「すごいですよ、奥さん!頑張れ、頑張れ!」と声をかけながら、
抱きかかえる腕に、
さらに力を込めて──
私も一緒に、
「頑張れー、頑張れー!」と、繰り返していました。
でも、ふと妻の足元を見ると、
地面には、ほとんど足がついておらず、
ただ、持ち上げられているだけのようにも見えて──
──
その歩行訓練を終えた理学療法士の先生は、ハアハアと息を切らしながら、
「いや〜、奥さん、今日すごく頑張りましたね!」と。
私も、泣きじゃくる妻に、
「本当に頑張ったねえ。すごかったよ」と声をかけました。
──
けれど──
そのリハビリで、一番汗をかき、
一番息を切らしていたのは、
……間違いなく、理学療法士の先生でした。

『頑張る歩行訓練』
──息切らすリハビリ【完】
▼この話のシリーズのマガジンはこちら
▼この話は、『若若介護』シリーズの一編です。その他の話、全体構成【目次】はこちらをご覧ください
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援とフォローをお願いします。
チップはクリエイターとしての活動費にいたします!