最初の出会い
そのわずか2週間前に、
脳出血により搬送された妻は、
まだほとんどの時間を
ベッドで過ごしていました。
右半身は完全に麻痺し、
全身から力が抜けたように、
首も座らず。
後頭部まで支えるような
背もたれのある車椅子にさえ、
座っていられる時間も
限られていました。
目は開き、意識もあるように、
見えるものの──
血液により破壊された左脳は、
言語の機能が働かず、
言葉は全く出ませんでした。
──何より、
生きていることさえも、
妻は理解できていないようでした。
その時の私は──
医師からの勧めもあり、
妻の脳に刺激を与えるため。
ひたすら話しかけ続けたり、
本を読み聞かせたり、
好きだった音楽を
イヤホンで流し続けていました。
けれど──
そのどれにも妻が、
わずかな反応すら示すことはありませんでした。
私が何をしても、
どこか、
遠くを見るような表情のまま──
その静かな病室には、
私の声とバイタル音が響いていて。
ただただ空虚な時間だけが
過ぎていきました。
そんな、ある日──
消灯まで、1時間。
他の患者たちも自室に戻り、
すっかり病棟は静まり返っていました。
私は、
ベッドの妻にイヤホンをつけて、
音楽を聴かせながら、
金属製の手すりにもたれたまま、
ウトウトと眠っていたようでした。
──ふと気づけば、
妻の左手が私の頭を
優しく触っていました。
🎵〜🎵
また小さな鼻歌のようなものが、
聞こえた気がしました。
妻が歌えるはずはないのに──
私は目も開けず、
そのまま息を潜めていました。
その手が、
離れてしまうような気がして──
それは、
ほんの数秒のことでしたが、
胸の奥からは、
熱いものが込み上げてきました。
振り返れば──
その優しく触れた手と、
たしかに聞こえたような鼻歌。
あの時が、
壊れたあと、もう一度、
巡り会えた妻との
"最初の出会い"
だった気がしています。

最初の出会い 【完】
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