少し変わったうどん屋
私には10年近くも、
月に2、3回は通っている
──“うどん屋”があります。
そこは味も接客も不安定。
だけど、なぜか惹かれる。
その店で頼むのは一択。
おすすめの看板メニュー。
『つけ汁うどん』
──中盛り(500g)1080円と、
決まっていました。
これまで何十回も通った店ながら、
それ以外の注文をしたことがなく。
そこはオーナーの高齢女性と、
アルバイトの女性で切り盛りしている、
大きなカウンターがあるお店でした。
オーナーは無言で、
出来上がった大きな器をカウンターに置いて、
それをアルバイトが、
『はい。お待ちどうさま、
肉汁うどんです』と配膳する。
そんなどこか懐かしい風情がありながら、
他とは少し違う"うどん屋"でした。
10年近くも、なぜ飽きずに、
私がそこに通い続けられたのか。
間違いなく、それは、
──"つけ汁"。
もたれそうで毎日は食べれないけど、
とにかくシンプルで美味い。
出汁はカツオと昆布の合わせで、
醤油で味付けただけの、
飾り気のないものでした。
それを牛丼にも使われるぐらいの大きさの器に、
火傷も辞さないほど、
熱々の状態で波なみと注がれて──
その中には、全く気を使わない大きさに切られた青ネギが、
ゴロゴロ、プカプカと浮かび。
加えて、油を吸い取られ尽くされた油揚げが、絶妙な風味のアクセントを効かしていました。
何よりも、その中で、
圧倒的な存在感を放つのは、
やや厚みを持った豚バラ肉。
生肉からそのまま茹で上げられたそれは、
見た目は白濁して優しいものの、
──ひと噛みすれば、
乱暴なほどの肉汁がじゅわあと。
一時、香川県に住んだこともあり、
うどんには拘りがある私も、
麺以上に、その“つけ汁”には、
完全にやられました。
何より、
メニューを見ずに注文できるという、
安心感がそこにはありました。
──ちなみに肝心の麺と言えば、
時には腰がやたら強すぎて、
ぼってりとした喉越しの武蔵野うどん?
という日もあれば、
妙に細くてスルスルとした稲庭?
という日もあり。
うどん屋なのに、
まるで一貫していない。
──その理由を聞いてみれば、
汁はオーナーが作り、
麺は日によって職人が変わるとのこと。
うどん屋ながら店の強みは、
麺ではなく、その"つけ汁"でした。
決済はもちろん、
カードやQRコードが使えないので、
オーナーの手間にならないように、
行く時はいつも1080円を用意して。
次はいつ行こうかと、
いつも思案しながら──

少し変わったうどん屋 【完】
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