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矢男町役場の涼木デュラハン【第4話】

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第4ハン 出会いがしらの涼木デュラハン

矢男やおちょう役場 2階 企画課~

企画課の2年目職員・鳥羽津とばつ 智理としまさが、自席で唸っている。

鳥羽津「うーん……」

涼木「おはようございます! あれ、鳥羽津さんどうしたんですか」

鳥羽津「ん、あ、涼木おはよ。いやー、来月末にこども園の運動会があってさ。その取材に行くことになってるんだ」

涼木「こども園の運動会の取材!」

涼木の周囲にキラキラのエフェクト。

鳥羽津「なんか、すごく行きたそうだな」

涼木「はい! 私、子どもも、運動会のような行事も大好きなんです! 子どもたちが一生懸命がんばる姿なんて、親でなくとも目に焼きつけたいじゃないですか! まあ私、目ないんですけど」

鳥羽津「へえー、ちょっと意外だな。でもお前は連れていけないな」

涼木「ええっ! どうしてですか?!」

鳥羽津「考えてもみろよ。首から上がない鎧だけの奴が、子どもたちを追いかけてバッシャバシャ撮るんだぞ? 怖いに決まってるだろ」

涼木が嬉々としてカメラを構えながら子どもたちを追っている(子どもたちは恐れおののいて逃げ回っている)イメージが浮かびあがる。

涼木「ああ……とても残念です……」

勝田「そんなお前に朗報だ」

突然、二人の背後に勝田が現れた。

鳥羽津「うっわ! びっくりした!」

勝田「なんだよー、人を上司みたいに」

鳥羽津「いや上司ですよ。なんだと思ってたんですか」

涼木「勝田課長! おはようございます!」

勝田「おはよー。で、涼木よ。私の代わりに、ぜひ行ってもらいたいところがあるんだが、頼まれてくれるかー?」

涼木「私でよければどこへでも!」

勝田「おー、さすが私の部下だなー。じゃ頼んだぞー」

鳥羽津「課長の代わりに、ってどこに行かせるんですか?」

勝田が、ニコニコしながらサムズアップをして答える。

勝田「課長会議だ」

鳥羽津「ダメに決まってるでしょ。なにを満面の笑みで言ってるんだこの人は」

勝田「だってよー、頭のかたい連中が集まってもよー、時間の無駄じゃんかよー。私はもっと有意義な時間の使い方がしたいんだよー」

勝田が駄々をこねる。

勝田「わざわざ紙で開催の通知までしてよー。資源の無駄じゃんかよー。あんなのすぐにシュレッダー行きだろうがよー」

涼木「おっしゃることはわからないでもないですが……」

鳥羽津「この人の場合、ただ自分が楽したいだけだからな」

勝田「だいじょーぶだいじょーぶ。どーせ大した話なんてしないから、涼木でも問題ない……」

???「大アリだ」

背後から新たな声がした。三人が振り向くと、一人の女性が仁王立ちをしていた。腰まで届く艶やかな黒髪、知性を感じる細フレームの眼鏡、整った中性的な顔立ち。いわゆる美魔女と呼ばれる類の女性だった。
矢男町役場子育て支援課長、尾坪おつぼ 寧音ねねだ。

勝田「げ」

尾坪「なにが『げ』だ。もう課長会議が始まるぞ」

勝田「やだよー、行きたくないよー」

尾坪「毎度のことながら困った奴だ。君も大変だな、鳥羽津」

鳥羽津「あ、はい、まあ……」

尾坪「それと例の件だが、迷惑をかけることになり申し訳ない。どうかよろしく頼む」

鳥羽津「あっはい、わかりました」

尾坪「ではこれで失礼する。行くぞ勝田」

勝田「助けてーーー」

尾坪が勝田の首根っこを引っ張っていく。勝田は泣きながら引っ張られていく。

鳥羽津「歯医者を嫌がる子どもみたいだな」

涼木「あの、今の方は?」

鳥羽津「ん、ああ。子育て支援課の尾坪課長だよ。勝田課長とは同期だったかな」

涼木「そうでしたか! いやあ、ずいぶんと綺麗な方ですね! 思わず鼻の下が伸びてしまいました! まあ私、鼻ないんですけど」

鳥羽津「綺麗は綺麗だけど……おれはちょっと苦手かな。けっこう口うるさいところもあって、好き嫌いが分かれるタイプだぞ」

涼木「そうですか……あ、ところで例の件ってなんのはなしですか?」

鳥羽津「あー、これだよ」

そう言うなり、鳥羽津は手元の書類を見せた。書類には「音菜野おとなのこども園 運動会プログラム見直しの協力依頼」と書いてある。

鳥羽津「運動会のプログラムを見直したいから企画課も協力してくれ、って勝田課長が園長先生にお願いされたみたいでさ。で、課長はあんな感じだから、おれのところに来たってわけ」

鳥羽津がため息をつく。

涼木「そうでしたか。でもそれって企画課がやることなのでしょうか?」

鳥羽津「もちろん本来は子育て支援課なんだけどさ、子育て支援課の職員や保育士さんたちが軒並みインフルエンザらしいんだよ」

涼木「4月なのに流行ってるんですねえ、インフルエンザ」

鳥羽津「そうだ。取材には連れてってやれないけど、お前もプログラム考えるの手伝ってくんねーか?」

涼木「よろしいのですか?! やりますやります! 腕をふるって考えますよ! まあ私、腕ないんですけど」

鳥羽津「いや一応あるだろ銀色のが」

涼木が自席(鳥羽津の隣)に座る。

鳥羽津「あ、そういやさ、もう一人来るんだよ」

涼木「もう一人? 企画課のどなたですか?」

鳥羽津「いや、企画課じゃないんだ。こども園で一人だけ動ける保育士がいるんだけど、そいつがさ……」

???「あぶなーーーーーいっ!!!!!」

鳥羽津が言いかけたとき、高らかな声が2階フロアに響き渡った。そして、何者かがドドドドドと走り出し、企画課の涼木の席までやってきて、涼木に見事な一本背負いをかました。

涼木「うおおおおっ?!」

涼木はカウンターを飛び越え、来客用のベンチに放り出された。鎧の「ガッシャーン」という音が、2階フロアに響き渡った。

鳥羽津「涼木ー!!!!!」

???「大丈夫っすか! 鳥羽津主事!」

涼木を投げ飛ばし、鳥羽津を心配しているのは、若いショートカットの女性だった。柔道着の上からエプロンを着用している。

鳥羽津「おい唐間割からまわり! なにやってんだ!」

唐間割「なにって、鳥羽津主事のすぐそばに悪霊がいたんすよ! でも悪霊は自分が成敗したからもう安心っす! 押忍!」

鳥羽津「そいつは悪霊じゃねえよ! 今年入った新人の涼木だよ!」

唐間割「へ?」

唐間割の背後から、ボロボロになった涼木が声をかける。

涼木「初めまして……企画課の涼木デュラハンです……」

唐間割「ぎゃあああああっ!」

唐間割は叫ぶなり見事なハイキックをかます。しかし、その脚は空を切った。

涼木「あ、私、頭ないんですけど」

唐間割「悪霊退散! 悪霊退散!」

今度は一心不乱に正拳突きを繰り返す唐間割。涼木の鎧にヒットするたび「ガインガイン」という音がしている。

鳥羽津「落ち着けって! 悪霊じゃなくておれらの後輩!」

唐間割「でも頭が! 頭が!」

パニックになっている唐間割をなんとか制御する鳥羽津。

鳥羽津「涼木、大丈夫か?」

涼木「ええ、なんとか」

鳥羽津「さっき言いかけてたもう一人ってのが、こいつだ。唐間割からまわり なお。入職2年目で、おれの同期になる。見えないと思うが、音菜野こども園の保育士だ」

涼木「なんというか……ずいぶんと個性の強い方ですね」

鳥羽津「お前が言うな」

5分後、ようやく唐間割が落ち着きを取り戻した。

唐間割「押忍! 音菜野こども園で保育士をやっている、唐間割 直っす! 涼木主事補! さっきはすみませんでしたっす!」

涼木「いえ、お気になさらず! 鮮やかな一本背負いは目を見張るものがありました! まあ私、目ないんですけど」

鳥羽津「こいつは柔道の有段者だからな。学生時代は全日本の大会で優勝したこともあるらしいぞ」

唐間割「お、押忍! そ、そんなに褒められると、恥ずかしいっす……」

唐間割が顔を赤らめる。が、まんざらでもない表情だ。涼木はなにかを察した。

涼木「……ほう」

鳥羽津「そういや唐間割、こども園でインフルエンザ流行ってるみたいだけど、お前は大丈夫なのか?」

唐間割「自分も数日前にかかったんすけど、病院にも薬にも頼らず気合いで乗り切ったので問題ないっす! 自分が治りかけの頃から、周りの人がバタバタと休みだしていったんすけどね」

鳥羽津「じゃあ犯人お前じゃねえか。大問題だろ」

唐間割「おかげでこども園は臨時休園だし、子育て支援課も尾坪課長と自分以外はみんな休み……自分の気合いが足りなかったばっかりに……!」

鳥羽津「お前に足りないのは気合いじゃなくて療養だよ」

唐間割「そんなわけで、運動会のプログラムの見直しを手伝ってほしいんす! 見直しといっても、年長さんのお遊戯に使う曲を選ぶだけっすから、そんなに手間は取らせないっす! すまないっすけど、よろしく頼むっす!」

涼木「わかりました! そういう事情なら仕方ありませんね! 唐間割さんのため、そして子どもたちのため、私も頭をフル回転させてアイデアを出します! まあ私、頭ないんですけど」

唐間割「おお……! 頼もしいっすね!」

涼木「押忍!」

唐間割「押忍!」

鳥羽津(もう打ち解けてる……)

涼木と唐間割が押忍ポーズをとっているのを、鳥羽津が冷めた目で見ている。

鳥羽津「それで、使う曲つっても音源リストみたいのがあるんだろ?」

唐間割「押忍! 尾坪課長が勝田課長に渡してるはずっす!」

鳥羽津「え? おれもらってねえけど」

唐間割「へ? おかしいっすね……たしか尾坪課長は課長会議の開催案内と一緒に渡したって……」

鳥羽津と涼木が顔を見合わせる。そして、二人の脳内に勝田の台詞がよみがえった。

勝田(回想)「わざわざ紙で開催の通知までしてよー。資源の無駄じゃんかよー。あんなのすぐにシュレッダー行きだろうがよー」

鳥羽津「……」

涼木「……」

唐間割「あ、あれ……? 自分、なにか悪いこと言ったっすか……?」

脳内にニコニコしながらサムズアップをする勝田をイメージし、鳥羽津は叫んだ。

鳥羽津「課長ーーーーー!!!!!」

涼木「さすがにこれは頭を悩ませますね……まあ私、頭ないんですけど」


(つづく)




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