矢男町役場の涼木デュラハン【第1話】
【あらすじ】
矢男町役場企画課に新入職員がやってきた。
名は、涼木デュラハン――その名のとおり、銀色の鎧を身にまとっており、首から上は“ない”。だが彼は、だれよりも実直でだれよりも熱い、人間以上に人間らしい男だった。
職員や住民たちと関わりの中で、涼木デュラハンの公務員キャリアが進んでいく。
非凡だけど平凡、普通だけど普通じゃない、首なし騎士系ゆるゆる日常お仕事コメディ。
第1ハン 新入職員の涼木デュラハン
~矢男町役場 3階 会議室~
町長「……で、君はどうしてウチの役場に入りたいと思ったんですか?」
矢男町長・松志倉 宣好は、訝しげな顔で涼木の方を見た。両脇に座っている副町長、総務課長は、どちらかというと恐怖におびえた顔をしている。
涼木の後姿が、黒い影として映し出される。
涼木「はい! 以前、観光でこの町に訪れたとき、町の人々のあたたかさに感動いたしました! 私はこのような人と人とのつながりを大切にしたいと思っており、就職するならこの町にしたいと、強く思いました!」
町長「なるほど。この町の人々のあたたかさとは、具体的にどんなものでしたか?」
涼木「はい! 道に迷ってしまったとき、立ち寄ったコンビニの店員さんがとてもていねいに対応してくれました! わざわざ警察官まで呼んでくださったんです! いやぁ、あのときは本当に目頭が熱くなりましたね!」
涼木の全身が正面から映し出される。中世ヨーロッパ風の鎧の上からリクルートスーツを着込み、首から上はない。
涼木「まあ私、目ないんですけど!」
町長「おもしろいねー君! 採用!」
~矢男町役場 2階 企画課~
端正な顔立ちをしたポニーテールの女性職員――企画課長の勝田 莉衣奈が、面倒くさそうに新入職員を紹介する。
勝田「えー……今日から企画課ではたらくことになったー……あー……名前なんだっけ」
涼木「はい! 涼木デュラハンと申します!」
勝田「だそうだー。みんなよろしくなー」
勝田は心底ダルいと言わんばかりに後頭部を掻いているが、企画課の面々は恐怖で顔が引きつっている。
勝田「鳥羽津ー、お前が仕事教えてやれなー」
鳥羽津「お、おれですか?!」
入職2年目の若い男性職員がビクッとする。
鳥羽津(よりによって、なんでおれが教育係なんだよ……)
勝田「じゃあ仕事に戻っていいぞー。あー、めんどくさ」
勝田の一言を皮切りに、鳥羽津と涼木以外の職員はすぐに自席へ戻り仕事に取りかかった。涼木は、鳥羽津の席につかつかと歩いていった。
涼木「よろしくお願いいたします! 先輩!」
座ったままの鳥羽津が、ため息交じりに自己紹介する。
鳥羽津「はあ、よろしく。おれ鳥羽津 智理」
涼木「涼木デュラハンです! あらためてよろしくお願いいたします!」
鳥羽津「ああ、その、なんていうか……めずらしい名前だな」
涼木「そうなんですよ! リンリン鳴る方の『鈴』じゃなくて『涼しい』って書くんです!」
鳥羽津「そっちじゃねえよ。いやそっちもめずらしいんだけどさ。おれは『デュラハン』の方を言ったんだ」
戸惑う鳥羽津。
鳥羽津「えっと、生まれたときからそんな感じなの?」
涼木「はい! 生まれたときからすでに首がなかったみたいです! モンスターみたいですよね!」
鳥羽津「すげー明るく言うのな。ご両親は驚いただろ?」
涼木「そうですねー、聞いた話ではお産に立ち会った父の第一声は『首なし騎士みたいなの出てきたwwwウケるwww』だそうです」
鳥羽津「やべー奴じゃん。え、お母さんは?」
涼木「(母親のモノマネをしながら)マジでwwwもう名前『デュラハン』で確定じゃんwww」
鳥羽津「大丈夫かお前の両親」
ドン引きする鳥羽津。
涼木「というわけで、名前はソッコーで決まったみたいですね!」
鳥羽津「……あのさ、ほかにもいろいろと聞いていい?」
涼木「はい! なんなりと!」
鳥羽津「お前の体どうなってんの?」
涼木「どう……と言いますと?」
鳥羽津「いや、なんつーかさ、頭、ないじゃん」
涼木「ないですね」
鳥羽津「目とか見えんの?」
涼木「見えますね」
鳥羽津「なんで?」
涼木「なんで……でしょうか……」
考える仕草をする涼木。
鳥羽津「自分でも仕組みはわからないのか」
涼木「そうですね。でも感覚としてはなんとなくこのへんにありますよ!」
涼木は、通常人間の目がついている位置を手で示した。
鳥羽津「じゃあさ、おれがこう手でシュッってやったらビビる?」
だんだん感覚がマヒしてきて恐怖よりも好奇心が勝ってきた鳥羽津が、通常人間の目がついている位置に手刀の仕草をする。
涼木「いえ、目がないので、痛みや反射反応はないです」
鳥羽津「そうなんだ。え、じゃあさじゃあさ、飯は? どうやって食うの? ていうか、食うの?」
涼木「はい。このへんに口があるので、そこに食べ物や飲み物を入れます。通常の人間と同じですよ」
涼木は、通常人間の口がついている位置を手で示した。
鳥羽津「それでどうやって食うの? あ、これでやってみてよ」
鳥羽津は、引き出しからチョコレートを取り出した。
涼木「あ、すみません。私、甘い物がニガテなんです。どうも舌に合わなくて……まあ私、舌ないんですけど」
鳥羽津「いっちょまえに好き嫌いはあるのか。じゃあお前のお茶でやってみてよ。どうやって飲むんだ?」
涼木「どう、って……このへんに運んで……」
涼木が通常人間の口がついている位置にお茶を傾けると、お茶は涼木の甲冑の中へ吸い込まれていった。
鳥羽津「いやブラックホールかよ」
涼木「我が家ではそう呼んでますね、ちなみに肛門はホワイトホールと呼んでます」
鳥羽津「聞いてねえよ。てか肛門はあるんだ。ウンコとかオシッコとかすんの?」
涼木「いえ、ウンコもオシッコも出ませんが、代わりにこのへんからオーラが流れます」
涼木は、通常人間の肛門がついている位置を手で示した。
鳥羽津「オーラ」
涼木「ホワイトホールからは茶色いオーラが、反対側からはリンゴジュースみたいなオーラが流れます」
鳥羽津「リンゴジュースに謝れ」
涼木「まあなんやかんやで通常の人間と同じ感じの構造みたいです! 体が首から下の鎧しかないだけで」
涼木はジャケットを脱ぎ、長袖シャツを腕まくりした。シャツの下から、銀色に輝く鎧が見える。
鳥羽津「てかさ、なんで鎧の上からスーツ着てんの?」
涼木「それは社会人として当然じゃないですか」
鳥羽津「お前の場合、社会人以前に人間として当然じゃねえけどな。鎧は体の一部なのか。え、生まれたときからこのサイズ、じゃあないよな?」
涼木「あ、生まれたときからこんな感じで、はい」
鳥羽津「マジかよ。どうやってお母さんのお腹から出てきたんだよ?」
涼木「パーツごとに分かれてたみたいです。こんなふうに」
涼木が、鎧の右腕部分をガチャリと取り外す。
鳥羽津「うわあああ! やめろ! ビビるだろ!」
鳥羽津と周囲の職員がビビり散らかす。
涼木「あ、すみません! 足の方がよかったですか?!」
鳥羽津「そういうことじゃねえよ! 急に体のパーツが取れたらだれだってビビるだろ! お前が生まれて出てきたとき、親はどんな反応だったんだ!」
涼木「(母親のモノマネをしながら)羊水で錆びてないか心配www」
鳥羽津「親の方がよっぽどモンスターだわ!」
涼木「とまあこんな感じでパーツごとに分かれてて、腕とか足は胴体の中に収納されてたみたいですね」
鳥羽津「なんでそんなコンパクトにまとまってんだ。それにしたってこのサイズはでかすぎないか?」
涼木「私の母は体が大きいんです。身長247cmなんで」
鳥羽津「完全にモンスターじゃねえか!」
涼木「あれ、246cmだったかな……」
鳥羽津「そのへんの誤差はもはやどうでもいいわ」
涼木「ちなみに私は160cmです。頭さえあれば180cmはいけそうだったんですけどねー」
鳥羽津「悩みが唯一無二すぎる」
身長計の横規を首の部分につけている涼木の姿を想像しながら、鳥羽津が言った。
プルルルルー
突然、鳥羽津の席の電話が鳴った。
鳥羽津「あ、わりい。内線だ」
ガチャ
鳥羽津「はい、企画課・鳥羽津です」
駒貝「鳥羽津ぅ! お前また伝票まちがってるぞ! すぐに来い!」
電話の相手は、出納室の係長・駒貝 虎悟斗だった。
鳥羽津「すいません……すぐ行きます……」
ガチャ
鳥羽津「はああああ~~~~~」
鳥羽津が盛大なため息をつく。
涼木「どうしたんですか、鳥羽津さん?」
鳥羽津「ちょっと伝票のミスがあったみたいで……これから1階の出納室に行ってくるわ……」
鳥羽津は勝田に一声かけた。
鳥羽津「課長……出納室に行ってきます」
勝田「まーた地雷ガーに呼ばれたのかー。めんどくさ。生きて帰ってこいよー」
矢男町役場きってのヒステリック職員である駒貝は、その神経質さから「地雷ガー」と呼ばれている。
がっくり肩を落とした鳥羽津が、とぼとぼと歩き出す。
涼木「あ、私も行きます!」
鳥羽津の後ろを、涼木がついていく。
~矢男町役場 1階 出納室~
出納室の窓口では、眼鏡をかけた40代の男性職員が、手元の書類を不機嫌そうに眺めている。
鳥羽津が顔を見せると、駒貝はこめかみに青筋を立てた。
駒貝「お前! 何度言ったらわかるんだ! ここの日付は……」
普段なら怒りのお説教が続くところだったが、涼木の姿を見た駒貝は絶句した。
鳥羽津が申し訳なさそうに説明する。
鳥羽津「あ、こっちは今日から企画課に来た新人です……」
涼木「涼木デュラハンです! よろしくお願いいたします!」
駒貝「あ、ああ、よろしく……」
駒貝は目をぱちくりさせている。
駒貝「……日付、すぐに直して再提出しろよ。行っていいぞ」
赤ペンの入った書類を鳥羽津に押しつけ、駒貝はパソコンに向き直った。
鳥羽津「はい、すいませんでした。失礼します」
涼木「失礼します!」
~矢男町役場 2階 企画課~
勝田「おー、よくぞ戻ってきたー」
戻ってきた二人に、勝田が声をかけた。給湯室から出てきたところで、手にはコーヒーの入ったマグカップを持っている。
勝田「あー……意外と早かったなー?」
鳥羽津「はい。あ、伝票すぐに直すので、決裁お願いします」
勝田「あーそっかー。めんどくさ」
気のない返事をして、勝田は自席に戻っていった。鳥羽津も自席に戻った。
鳥羽津「お前のおかげかもな、涼木」
涼木「私はなにもしていませんが……」
鳥羽津「いや、お前に助けられたよ。ありがとな」
微笑む鳥羽津。
涼木「恐縮です。そんなふうに言ってもらえると、なんだか鼻が高いですね! まあ私、鼻ないんですけど」
(つづく)
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