矢男町役場の涼木デュラハン【第2話】
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第2ハン 広報広聴係の涼木デュラハン
~矢男町役場 2階 企画課~
新入職員の涼木デュラハンが、企画課の2年目職員・鳥羽津 智理から仕事について教わっている。
鳥羽津「まずは、おれたちがどんな仕事をしているか教えておく」
涼木「はい! よろしくお願いいたします!」
鳥羽津「おれたちの所属は、企画課の広報広聴係だ」
涼木「広報広聴係、ですね」
鳥羽津「涼木、『広報』と『広聴』の意味わかるか?」
涼木「『広報』は、広報誌とかの『広報』ですよね? 町の情報を発信する、というような意味でしょうか」
鳥羽津「まあそうだな。町の政策やどんなことがあったかを定期的に伝えていくのが『広報』だ。じゃあ『広聴』は?」
涼木「『広聴』……聴くという字があるから、意見を聴く……ということでしょうか」
鳥羽津「おお、やるじゃん。『広聴』は『広報』とは逆で、お前の言ったとおり住民から意見や要望を受け取るのが仕事だ。アンケート調査なんかもやるし、苦情の受付も少なくないな」
涼木「なるほど、住民の声に耳を傾けるということですね。まあ私、耳ないんですけど」
涼木が手帳にメモをする。
鳥羽津「ざっくり説明するとこんな感じかなー。あとは来客・電話応対とか伝票処理とかメールチェックとか資料作成とか、部署に関係なく発生する仕事もたくさんあるからな。ちょっとずつ覚えていけばいいよ」
涼木「わかりました! では、私はまずなにをすればいいでしょうか?」
鳥羽津「うーん、そうだなー……」
プルルルルー
突然、企画課の電話が鳴った。
涼木「私が! 出ます!」
鳥羽津「お、おい! まだ電話応対のやり方も説明してないのに大丈夫か……?」
鳥羽津が皆まで言う前に、涼木が電話を取った。受話器は、通常人間の耳がついている位置に持ってきている。
ガチャ
涼木「はい! 矢男町役場企画課の涼木でございます! ……はい! お世話になっております! ……はい! 課長の勝田でございますね! 少々お待ちいただけますか?」
ピッ(保留ボタンを押す音)
涼木「勝田課長! 1番に株式会社コケ企画の菊家 香子さまからお電話です!」
鳥羽津「完璧じゃん。なんならおれより上手だよ」
勝田「あー、めんどくさいから居留守って伝えといてくれー」
鳥羽津(比べてこっちはダメ上司!)
鳥羽津「課長! ほら早く出てください! ていうか、先方に居留守って言っちゃダメじゃないですか!」
勝田「だってよー、あの人キコキコうるさいんだよー」
鳥羽津「なんですかそのオノマトペ。待たせてるんだから早く出てください! 涼木の初電話応対を無駄にしないでくださいよ!」
勝田「わーったよー……あーめんどくさ」
勝田がしぶしぶ電話を取る。
鳥羽津は涼木の方に向き直る。
鳥羽津「てかめっちゃ上手いじゃん涼木」
涼木「ありがとうございます! 緊張してなんだか顔が熱くなりましたね! まあ私、顔ないんですけど」
鳥羽津「コールセンターのバイトでもやってたのか?」
涼木「いえ。ただ『留守電探偵・仙田 耕瑠』というドラマにハマっていた時期がありまして、たぶんその影響かなと」
鳥羽津「なにそのドラマ。留守電探偵ってなんかひたすら受け身っぽいな」
涼木「コールセンターではたらく主人公の仙田耕瑠が、家に帰ってきて留守電の異変に気づき、そこから事件解決の糸口を見つけるという構成なんです」
鳥羽津「いやドラマの説明はいいわ。てかその構成ならコールセンター勤務の設定いらないだろ」
涼木「あ、でもコールセンターのシーンだけで前半30分くらいの尺を使ってましたよ?」
鳥羽津「どんなドラマだよ。まあとにかく、初めての電話応対が悪質なクレームとかじゃなくてよかったな」
涼木「そうですね。ただ少し不思議なしゃべり方をする人でした」
鳥羽津「不思議なしゃべり方?」
涼木「はい。『お世話になっておりますキコ。わたくし、株式会社コケ企画の菊家香子といいますキコ。勝田課長はいらっしゃいますキコ?』って」
鳥羽津「めっちゃキコキコ言ってる。勝田課長の言ってたとおりじゃん」
二人が勝田の方を向く。勝田は、心の底から面倒くさそうな顔で電話を受け流している様子。
鳥羽津「ふう、ちょっと休憩するか。トイレ行ってくるわ」
涼木「わかりました!」
鳥羽津が席を離れる。その直後、役場の2階に大きな声が響き渡る。
???「おおーーーい! 勝田はいるかーーー!」
色黒かつ小柄で歯の抜けた、目つきの悪い年配の男性。矢男町の名物じいさんこと小地井 寿頼だ。毎日のように現れては言いたい放題するクレーマーで、見た目と性質がゴキブリっぽいことから、職員間では「おGさん」という異名をつけられている。
小地井が現れた瞬間、企画課職員の顔色が変わった。小地井に聞こえないようにひそひそと話している。
企画課職員A「うわー、今日も来たよ『おGさん』」
企画課職員B「まじかー、勝田課長まだ電話してんじゃん。だれが応対するんだよ……」
小地井「勝田はいるかーーー!」
企画課のカウンター前で、小地井が大声を上げる。
応対したのは、涼木だった。
涼木「こんにちは! 申し訳ございませんが、勝田はただいま電話応対中です。ご用件がありましたら、代わりに私が承ります!」
企画課職員たちは「涼木! やめとけ!」と言わんばかりの表情と仕草をするが、涼木は気づかない。
小地井「なんだお前は!」
涼木「はい! 本日より企画課に配属となりました、涼木デュラハンです!」
小地井「すずきずらはん?」
涼木「デュラハンです! デュです、デュ」
小地井「じゅ?」
涼木「デュ」
小地井「ず?」
涼木「デュ」
小地井「じゅ?」
涼木「デュ。あの、舌を上顎につける感じで、デュ、です。まあ私、舌も上顎もないんですけど」
小地井「ええい! そんなもん知らん! 勝田を出せ! 小地井が来たと言えばわかる!」
涼木「申し訳ございませんが、勝田はただいま電話応対中です」
小地井「いいから勝田を出せ!」
涼木「申し訳ございませんが、勝田はただいま電話応対中です」
小地井「ええい! お前はさっきからなんなんだ!」
涼木「新入職員の涼木デュラハンです!」
小地井「すずきじゅらはん?」
涼木「デュラハンです! デュです、デュ」
小地井「じゅ?」
涼木「デュ」
小地井「ず?」
涼木「デュ」
小地井「ええい! お前じゃ話にならん! 勝田を出せ!」
涼木「申し訳ございませんが、勝田はただいまキコキコ応対中です」
小地井「さっきから同じことばかり言いおって! どうせお前もわしのことを冷たい目で見下してるんだろ!」
涼木「私、目ないんですけど」
小地井「どうせ裏で陰口たたいてるんだろ!」
涼木「私、口ないんですけど」
小地井「そりゃあ公務員様はいいよな! 仕事は楽だし、残業もないし、クビを切られることもない。給料も安定してて、鼻が高いだろうよ! この天狗め!」
涼木「私、鼻ないんですけど」
小地井「わしが若いときはな、食べていくのがやっとだったんだ……それでもこの矢男町でがんばって生きてきた……それなのに、役場の連中ときたらひどいもんだよ! わしは用があって来てるのに、まともに取り合ってくれやせん。『話はわかりましたから、今日のところはお帰り下さい』なんて、どの面下げて言ってんだ!」
涼木「私、面ないんですけど」
小地井「悲しい! わしはとても悲しい! 先祖代々ずっと暮らしてきたこの町が、どんどん変わっていってしまう! もっと住民の声を聞いてくれてもいいじゃないか! もっと耳を傾けてくれたっていいじゃないか!」
涼木「私、耳ないんですけど。でも小地井さん、あなたの話はもっともです。我々役場職員は、住民の皆さんの安心安全と幸せを守るのが使命。未熟者ではありますが、私でよければお話を聞かせていただけませんか?」
小地井「おお、お前はなかなか骨のある奴じゃな! スズキチャーハン!」
涼木「涼木デュラハンです」
小地井「じゅ?」
涼木「デュ」
小地井「ず?」
涼木「デュ」
小地井「ええい! もうそのくだりはいい! わしの話を聞け!」
涼木「はい! はりきってどうぞ!」
……
数時間後、しゃべり倒して満足したのか、小地井はにこやかな表情で帰っていった。鳥羽津はとっくに自席に戻っており、勝田の電話も終わっていた。
鳥羽津「涼木! わりい! おGさんのこと説明してなかった! 大丈夫だったか?」
涼木「はい! 独居だったこともあり、だれかに話を聞いてほしかったみたいですね!」
勝田「涼木ー、よくがんばったなー」
涼木「ありがとうございます、勝田課長! ところで、小地井さんが勝田課長に話したかったことなんですが……」
勝田「あー、いーいーいーいー。どうせ私のやる気がなくてけしからん的なことだろ」
涼木「あ、いえ。家の近くの国道が一部陥没しているから、早く直してほしいとのことでした」
鳥羽津「めちゃくちゃまともな要望だった!」
涼木「いやあ、広聴ってとても大変なお仕事ですね! でも小地井さんとの距離が縮まったようで、嬉しくて口角が上がってしまいそうです! まあ私、口ないんですけど」
(つづく)
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