世にも不憫な小学生【ショートショート】
「いやー、きれいになったね」
放課後、昨年の文化祭で使った道具類をまとめ終えると、担任のコニシ先生が顔を出した。
「アルロンに任せてよかったよ。ありがとう」
「こういうのって、学級委員がやるもんでしょ? マイトンにやらせればよかったのに」
最後に倉庫を掃き掃除しながら、おれは先生に愚痴った。
「マイトンには凛花さんの案内係をお願いしちゃったからね。凛花さんが転校してきてから一週間くらいたったけど、まだ知らない場所も多いだろうから。それにこの倉庫は今日のうちに取り壊さないといけないんだ。だからいらないものはぜんぶ業者に持っていってもらうんだよ。そこで、美化係のアルロンの出番ってわけさ」
「美化係はおれ以外にもいますよ」
「みんな凛花さんの案内に行っちゃったよ。アルロンは隅っこの方で仔鹿みたいにふるえてたじゃないか」
痛いとこをつくなぁ、先生。
「うぐぐ……まあいいや。先生、これもらってっていいんですよね?」
おれは両手でやっと抱えられるくらいの大きさの段ボールを指差した。この中には、大量の画用紙――3年n組の文化祭の展示で描いたポケモンのイラスト――が入っている。記念にもらおうと思ったのだ。
「いいよ。片づけのお礼ってわけじゃないけど、持っていきなよ。先生はよくわかんないけど、アルロンは本当にポケモンが好きなんだね」
「うん!」
「その顔、いっすね~」
「……? なんのはなしですか」
◇
重たい段ボールをヒイコラいいながら運び、3年n組の教室に戻ってきた。とりあえず段ボールは邪魔にならないように廊下に置いておこう。今日はバドミントン部が休みだから、支度をしてさっさと帰ろう。
教壇側のドアから教室に入ると、何人かの生徒は教室にいた。メガネをかけた学級委員のマイトンもいた。
「R、おつかれ!」
マイトンがこちらに振り返り、手を振りながら言った。爽やかな笑顔を振りまいているが、目は笑っていない。こいつは要注意人物だ。クラスのみんなは完全に信用しちゃってるけど、おれは騙されないぞ。
うさんくさいメガネは、聞いてもいないのに説明を続ける。
「アハハ。ほかの人たちはもう帰ったよ。ぼくたちはおしゃべりをしてたんだ」
マイトンの後ろを見ると、いつも騒がしい本田すのう、不気味な笑みを浮かべているみくまゆたん、そして件の転校生、三條凛花がいた。
三條凛花とはまだちゃんと話したことがない。なのになんだ、あの捨て犬を憐れむようなまなざしは。あれか、いつも下校時間に流れる放送の「残念賞」が毎日おれだからか!
おのれリィめ! せっかくウルトラマンゼロのレアカードをあげたのに!
まあいい。あいつは放送係としての役目を果たしただけだ。それにウルトラセブンのカードくれたし。へへへ。
せっかくの機会だから、転校生との放課後トークに混ぜてもらうとするか。あ、いや、でもまずいかな。もしかしたら、たった今お開きになって帰ろうとしているところで、おれが教室に入ってきてなんか変な空気になってるんじゃないのかな。どうするどうするあばばばば。
静寂を破ったのは、案の定、本田すのうだった。
「アルロンくん!! プロフィール帳、書けた?!」
プロフィール帳とは、3年n組のみんなのことを三條凛花に知ってもらうため、クラスで配られた紙のこと。ほかのみんなは何日も前に書き終えている。
「書けた?!」と聞いてきたのは、おれのプロフィール帳は風で飛んでいったり水たまりに落としたりして、7回くらい新しいのをもらっていたからだ。8枚目のこれはなんとか無事だ。
「おおー!! やっと書けたんだね!! 見せて!!」
ずずいと詰め寄ってきたので、思わず後ずさりする。
「お、おおふ……」と我ながらなんともいえないリアクションでプロフィール帳を差し出した。

ていうか、これは転校生に見せるもので、君が見るものじゃな……
ん? なんだ? 本田すのうの胸ポケットに入ったボールペンの先っちょに、中指を立ててる謎のピンク色のキャラクターがいるぞ。なんだありゃ。かまぼこの妖精か?
あまりにも謎に包まれたそのキャラクターを凝視していると、ブルルッ、うう、なんだか寒気が……
気のせいか? いや、みくまゆたんがチラチラこちらを見ている気がする。
最近なんか視線を感じると思ったら、みくまゆたんだったのか。なんでこんなにおれの方を……ま、まさか……
おれが暗黒の使徒・ダークネスグランドクロスブラックサンダールシフェルだということがバレたのか……?!
い、いや、そんなはずはない。おれの変装は完璧だ。
……ほんのちょっとだけ不幸体質なだけで、あとはごくごく普通の小学生に擬態できているはず。
こいつも油断ならないな。マイトンとみくまゆたんは要注意だ。
ふう、このまま教室に残っていると、暗黒の力を消耗してしまう。そろそろ帰るとするか。
ランドセル(漆黒の生地に大きく「R」と赤い文字が刻まれた自作のカバーをかけている)を背負って、廊下に置いといた段ボールを……
ない。おれの段ボールが、ない。
「どうしたの、アルロンくん」
パニック状態であばばばばとしていると、青空ちくわが声をかけてきた。生きもの係の彼女は、クラスで飼っているザリガニの水槽を手入れしていたらしい。おれはこのザリガニに唇をはさまれたことがある。青空ちくわの親父は料理上手だって聞いたから、こいつも料理してくれればいいのに。
いやザリガニは今どうでもいい。段ボールを探すのが先だ。
「こ、ここに段ボールを置いといたんだけど……」
「段ボール? さっきゆにちゃんがゴミだと思って倉庫に持っていったよ」
「ああ、そうなのか……倉庫なら取りに行けば…………あっ!!!!!」
コニシ先生がさっき言ってた。
それにこの倉庫は今日のうちに取り壊さないといけないんだ。だからいらないものはぜんぶ業者に持っていってもらうんだよ。
窓の外を見ると、たった今、倉庫の前から「廃棄物処理車」とラベルされた大型トラックが走り去っていった。
「あ、アルロンくん……?」
青空ちくわの声も耳に入らない。おれは、おれは……叫ばずにいられなかった。
「ゆにやってんな!!!!!」
(おしまい)
本作品は、三條凛花さんの短編小説のスピンオフです。素敵な物語をありがとうございます!
全員を登場させるのはとても無理だったので、ひとまず一部の人だけ(今後ほかの人も登場させたい)。
登場人物には、いろいろ雑な扱いをしたかもしれません。怒られる前にお詫び申し上げます。苦情は受けつけません。
今日も、最後までお読みいただきありがとうございました。
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なんと アルロンが おきあがり
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