FIREした父、娘の運転練習で戦力外
FIREしてからというもの家にいる時間が増えた。
妻と娘には相変わらず煙たがられている。
まあ今まで家にいなかった人が急に家にいるわけだから、しょうがない。
ただ、良い話として、ちょっと前まで冷戦状態だった娘と最近少し会話が生まれ始めた。
僕が家にいることに娘も少し慣れてきたのだろうか。
「このメイクどう思う?」
「髪染めたけどどう思う?」
そんなことを聞かれるようになった。
会話が生まれたというよりは彼氏にどう見られるかを意識して、近くにいた父親に聞いているだけのような気がするが。
まあいい。父親というのは、だいたい都合よく使われるものだ。
そんな折、娘が車の免許を取った。
そして僕にこう言ってきた。
「今度、運転するから見てくれない?」
はい、きた。
これは父を頼っていますね!
完全に頼っていますね!!
結構うれしいオファーである。
もちろん二つ返事でOKした。
FIREしていると、こういう娘からの急なオファーにすぐ応えられる。
これも時間があることの醍醐味なのかもしれない。
その日が来るまでの僕は、ちょっと浮かれていた。
若葉マークを購入したり、座席が汚れていないかチェックしたり、フロントガラスが汚れていないか見てみたり。
さながらデート前の男子である。
いや、50歳過ぎたおじさんが何を言っているんだという話ではあるが、娘から「運転を見てほしい」と言われたのだ。
これはもう父親としてはうれしい話だからね。
そして当日。
車に乗り込むと娘はシートのポジションを調整している。
僕はできるだけ落ち着いた声で言った。
「サイドミラーとバックミラーとかも見てね」
娘は短く、
「うん」
と言った。
いいぞ。
落ち着いている。いいぞー。
これは穏やかな親子ドライブになるかもしれない。
ウキウキしながらまた指摘をしてしまった。
「あ、サイドミラーはボタンを押さないと……」
「わかってる!」
はい。
少し黙っておこう。
そして、いよいよ発進である。
車はゆっくり前に進む。
うん。ゆっくりでいい。
最初はゆっくりでいい。
あれ…ハンドルを切るのが少し遅い。
いや、けっこう遅い。
ちょっと怖いぞ…
交差点を右折する場面になった。
ウィンカーが出ていない。
「あ、ウィンカー……」
「わかってる!!」
次の瞬間。
シャッ。
シャッ。
ワイパーが動き出した。

僕は凍った。
これは、僕が想像していたデートのような空気ではない。
命がかかっているかもしれない。
そこから、さながらアトラクションのような娘の運転が始まった。
いや、アトラクションというよりリアルでの「マリオカート」である。
しかも、よりによって自転車が車道をバンバン走っている(誰だよ法改正したの!)。

これはもう楽しく会話しながらのドライブなどではない。
僕は不本意ながら、言葉を多くしてしまった。
「右右!!ちゃんとハンドル切って!」
「うおーーーー、左寄りすぎてる!!壁にぶつかるって!」
「ブレーキ、ブレーーーーーキ!!もっとタイミング早く!!」
父として娘との距離を縮めたい。
穏やかに見守りたい。
できれば余裕のある大人として助手席で微笑んでいたい。
だが、現実はそんなに甘くなかった。
娘の命を最大限守るためである。
これは断腸の思いのアクションだった。
少なくとも僕の中ではそういうことになっている。
…15分ほどだろうか。
命がけのドライブは、ようやく終わった。
車を降りた娘は、過去ないほど不機嫌そうな顔をしていた。
まあ、そりゃそうだ。
初めて自分の家の車で、楽しく走りたかったはずである。
そこに父が助手席でシャウトしまくったわけだ。
最近少し距離が縮まりかけていた実感はあった。
だが。
だがしかし。。
あの運転が終わってからというもの、彼女は一言も口を聞いてくれない。
今はどうやら妻を誘って運転の練習に行っているようだ。
父、戦力外通告である。
こんな日常も含めて、
FIRE後の生活をこれからも書いていこうと思います。
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★FIRE後の誤算シリーズ。よかったら読んでもらえたら!
今日もクスッと笑って元気に過ごしましょう!
