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【連載小説】ラクえもん――空のノートピア(1)

第一話 お空の上でもFランク、ヨシ


ノートピアに来て、三日たった。
正確には「目が覚めたらいた」ので、連れてこられた記憶はない。

うけた覚えのない人間性検査の結果は――規格外Fランク。
理由はよくわからないが、結果の下にこう書いてあった。

 摩擦予測値:やや高
 共感出力効率:低
 継続性:極低
 総合評価:超非効率個体

超非効率個体ってなんだよ。

とはいえ、ノートピアは優しい世界。
最底辺のFランクでも衣食住は保証されている。
Fランク用の小さな長屋の一室を与えられ、そこに住むことになった。
ほかの部屋には誰も住んでおらず僕1人。
Fランクはノートピア史上初らしく、わざわざ宿舎を用意したらしい。
そこまでして隔離される存在なの、僕……。
悲しみはあるけれど、住むところがありしかも食事までついてくる。
だから僕は今日も元気に図書館へ行く。

「ねえ、そろそろ発信しないと」

外に行こうとしたところで、背中から声がかかった。
そこにいたのはアライグマ型AIロボット。型番AIB-00T。
通称ラクえもん。
僕のパートナーロボットらしい。
絶妙にかわいくなく、見るからに不良品であることがわかる。

「発信って何だよ」
「ヨシを生む行為だよ」
「めんどくさい」
「ヨシは安全な共鳴の数値化なんだ。大切なものなんだよ」
「共鳴ねぇ……」

ラクえもんはしっぽを揺らした。
しま模様のしっぽだけはもふもふでかわいいのがイラっとくる。

「三日間、発信ログがゼロ。透明化ゲージが減ってる」
「ゲージ?」
「存在維持ラインを下回ると、誰の視界にも入らなくなる」
「ふーん。じゃあ行ってきまーす」
「あっ! カミジョーくーん!」

呼びかけるラクえもんを無視して、僕は家を出た。

発信なんかよりマンガの続きの方が大切に決まってるじゃないか。
図書館につくと、火星でゴキブリと戦うマンガに手を伸ばす。
ラクえもんがもっと良質なエッセイやビジネス書じゃないとヨシが増えないよ、とか言ってたけど知ったことではない。
…………。

あ、アドルフさーん!!

僕はショックのあまり読んでいたマンガを思わず閉じる。
そこで気づいた。

手が薄い。

試しに光に透かすと、向こうの棚がうっすら見える。

「……え?」

そういえばラクえもんが消えるとかなんとか……。

「ら、ラクえもーん!」

僕はマンガを片付けると、大急ぎで家に帰った。


「だから言ったじゃないか、はやく発信しようって」

家に帰るとラクえもんが呆れた顔で僕を見た。

「発信ゼロが72時間を超えると、存在ログが希薄化する仕様なんだよ」

仕様ってなんだよ仕様って。
僕は人間だぞ。

「別に消えるほど悪いことしてないだろ」
「してないよ。怠けてるだけ」

ぐうの音も出ない。

「ヨシを集めないとほんとうに消えるのか」
「集めるというより、出力しないとね。共感、気づき、物語。何でもいいよ。それにヨシがつくんだ」
「マンガの感想じゃだめ?」
「それでもいい。でも"あなたもそう感じたことはありませんか?"を付けるとヨシ効率が上がる」
「そんなの嫌だよ」
「しょうがないなー、カミジョーくんは」

ラクえもんはポケットから何かを取り出した。

「最低限ヨシ生成テンプレート〜」

 紙の束に文字が書かれている。 
ラクえもんが紙を並べた。

「ちょっと古いけどまだ使えると思う」
「うーん」

何か嫌な予感がする。
だけど……。
僕は透けた腕を見つめる。
マンガは読みたい。
発信は面倒くさい。
でも消えるのは、ちょっと嫌だ。

「……わかったよ。なんか書くよ」
「よし」
「ヨシって言うな」
「ヨシはまだゼロだよ」

僕はため息をつき、発信画面を開いた。
タイトル欄が白く光る。

何を書けばいいんだよ。
腕はまだ、うっすら透けている。

――Fランク、発信三日目。
消えたくないから、しぶしぶ書く。

それが、僕のノートピア生活の始まりだった。
ヨシはまだゼロだ。


・続き


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