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自死問題への取り組み - 実践編 その4(埼玉いのちの電話研修講師)

 2026年2月に行った、埼玉いのちの電話の相談員継続研修の報告その3の続きです。その3では相談者の話を丁寧に聴いていくために役に立つと思われる理論として、認知プロセスの二重過程理論(速い脳、遅い脳)を紹介しましたが、それを踏まえこのアイデアで面接を分析するとどうなるか、以下のように解説しました。

▼支援者の頭に一瞬浮かぶ反応を、あえて可視化してみる

 面接の具体例に何を使うか、かなり悩みました。自分の過去の論文や講演、研究会での発表記録を使うか、それともカウンセリングや精神医学の本から拝借するか。長すぎても困るなあ、比較的短いやり取りはないかと考えていたのですが、そうだ、すでに挙げたものを使わせてもらった方がいいようだと気づきました。この報告のその1で紹介した、村松先生の本に掲載されていた患者さんのつぶやきです。

「手首を切ってジンジンした痛みが出てくると、不思議と注意がそっちに向かったんです。それまでは頭のなかで『なんで』『どうして?』『ひとりにしないで』『ひどい』って言葉が渦巻いていて、胸が苦しかったのに、切ったらそれを感じなくなった。あれ、何か気持ちが楽になってるって、そのとき感じたんです」

 善意だけはあるけれど、何も教育を受けていない相談員が、いきなり手首自傷の電話を受けたら、頭の中でどのような言葉が瞬間的に(つまりヒューリスティックに)浮かぶか。あくまでも仮想の一つの例ですが、考えてみました。
 以下は相談者に向けてよい言葉ではまったくありませんが、支援者の内側に一瞬浮かびうる戸惑いや防衛的な反応を、あえて可視化したものです。

【ヒューリスティックに浮かんだ言葉】
手首を切ってジンジンした痛みが出てくると、
(え、なに、やだ)
 
不思議と注意がそっちに向かったんです。
(どういうこと?わからない…)
 
それまでは頭のなかで『なんで』『どうして?』『ひとりにしないで』『ひどい』って言葉が渦巻いていて、
(そうなんだ…)
 
胸が苦しかったのに、切ったらそれを感じなくなった。
(え~、痛くないの!?)
 
あれ、何か気持ちが楽になってるって、そのとき感じたんです。
(楽になるってどういうこと??)
 
どれだけ傷ついてめちゃくちゃになっていても、黙っていれば人に気づかれない。
(それはそうだけど…)
 
こんなに苦しんでいるのに、なかったことにされてしまう。
(そうよね…)
 
だから、切ることで目に見えない心の痛みを形にして、残そうと思ったんじゃないでしょうか。
(えっ、残す…)
 
傷口から血が流れてきたとき、これだけ傷ついているんだ、傷ついたと思っていいんだ、ようやく安心することができたんです。
(う~ん、よくわからないわ…)

 いかがでしょうか。万が一ここに記した応答例を言葉にしてしまったら、間違いなく途中で電話を切られてしまうでしょう。実際の相談員はこんな応答はしません。しかし手首自傷に関する知識が乏しいと、私たちは一般的な知識(常識など)や自分の過去の経験から「答えらしいもの(自分の納得)」を探し、言葉にしようとしてしまいがちです。

▼ネガティブ・ケイパビリティを発揮する

 しかしそうした言葉が心に浮かんだとしても、すぐに答えを出そうとせず、わからなさや戸惑いを抱えたまま、相手の語りにとどまり続ける力があります。これがネガティブ・ケイパビリティです。「言ってはいけない言葉を飲み込む力」であると同時に、「まだわからないまま聴き続ける力」でもあり、近年注目を集めている、対人支援職には不可欠な能力です。
 我々は自分にとって困難な状況になると、脳は自分の過去の経験に何とか答えを求め、ストレスフルな状況から逃れようとします。これは速い脳の機能によって瞬間的に浮かんでしまう答えで、そういった思いが浮かんでしまうのは避けられないと私は考えています。しかし速い脳の考えだけで動いてしまっては対人支援の仕事はできません。困難な状況からどうやって希望を見出すのか。だからこそ対人支援に携わる人は、知識だけでなく、繰り返しの訓練や振り返りを通じて、自分の反応に気づきながら聴く力を育てていく必要があります。

▼ともかく傾聴する

 対人支援の仕事の基本は、相手が何を訴えているのかを把握するため、話をよく聴くことです。傾聴と呼びます。医学生の頃から「患者さんの話をよく聴きなさい」と教育を受けました。来談者中心療法というカウンセリングの基本姿勢を打ち立てたカール・ロジャースは傾聴の3原則として「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」を挙げました。これを知ったとき、私はとても納得したのですが、いざこれを若い人に教えようとなるとどうしたらいいか、わからなくなりました。何をすれば「共感的」になるのでしょうか。どうすることが「無条件」なのでしょうか。「自己一致」とはどういう感覚なのでしょうか。

▼動機づけ面接との出会い

 この疑問に答えてくれたのが動機づけ面接でした。動機づけ面接は米国の行動療法家であるミラーが、アルコール依存症患者の「飲酒行動」への介入スタイルとして開発したもので、近年では行動変容と成長を支援する方法論として、さまざまな分野で用いられています。ただ「動機づけ」という言葉のイメージからか、「○○をさせる」方法のように受け取られていると感じることがあります。しかし動機づけ面接の基本となるスキル、OARS(オールズ。下記)は、対人支援の基本だと私は思っています。

OARS(オールズ)
Open questions(開かれた質問)
Affirming(是認)
Reflection(聞き返し)
Summarizing(要約)

 次号その5では、この自傷の語りについてOARSで対応するとどういう展開になるのか、ご紹介します。

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