掌編小説「クリスマス ギフテッド」第4話「もみの木のてっぺんの星」#いつきちゃんのアドベンドカレンダー

今日も無理クリ行きまっせ(笑)
前回までのお話はこちら↓

「もみの木のてっぺんの星」
裕樹との約束の23日がやって来た。
前日から真由子は準備に余念がなかった。ローストするチキンに下味を付けて冷蔵庫で一晩寝かせたり、スープを作るためのヴイヨンを牛骨から手作りしたり。
裕樹のため。
そう、全ては裕樹のためだった。
子どもが居ない真由子にとって、この十年間は裕樹だけが生き甲斐だった。それに裕樹は沙枝子に似て目鼻立ちが整った顔に栗色の髪をした綺麗な少年に育っていた。スーパーに裕樹を連れて買い物に行くと、その愛くるしく人目を惹く美貌に真由子は皆から羨望の眼差しを向けられた。その上、彼は異常とも思えるほど勉強はもちろん、ピアノもヴァイオリンも絵画も書道も⋯何をやらせても才能に満ち溢れていた。早くに母を亡くしたこの子に、神は二物も三物も与えたのに違いないと真由子は誇らしく思っていたが、それと同時に微かな不安も感じていた。
『真由子、パパ達が出掛けたから来て』
裕樹から届いたラインにタッパーウェアをいくつも紙袋に詰めて、うきうきした足取りで真由子は家を出た。
もう二度と通ることはないと思っていた歩道には、残り少ない枯葉が風に舞い冬の深まりを告げていたが、今日の彼女の心は温かかった。
ーー裕樹に逢える。それだけで、こんなに嬉しいなんて。
裕樹から貰った鍵で玄関を開けると、慣れ親しんだ家の玄関フロアに毎年恒例の巨大なもみの木のツリーが二階まで伸びていた。そのてっぺんの星から真由子は視線を逸らした。
「真由子、大変!!真由子〜」
階段の横のキッチンの方から裕樹の叫ぶ声が聞こえた。
「どうしました?裕樹坊っちゃん」
キッチンでイタズラでもして何かをこぼしでもしたのだろうか。
「早く来て!!真由子」
「はいはい」
キッチンのドアを開けると、裕樹がわなわなと震えて立っていた。
「真由子、あ、あそこ!!」
「あ、」
裕樹が指差した先には真っ赤にふくれた顔に充血させた白目を剥いて嘔吐物を口からはみ出した女が倒れていた。口を大きく開けている姿はムンクの絵を連想させる。濃紺のガウンを確認するまで、その女が深雪だと気付くのに三秒はかかった。急いで脈をとろうとして掴んだ手首は既に冷たく、生を感じるものではなかった。裕樹の方に振り返り真由子が訊ねた。
「坊っちゃん、ママはお出掛けしたんじゃなかったの?」
「ロシアンルーレットをしたの」
「どうゆうこと?説明して、坊っちゃん」
か細い肩を両手で揺さぶると裕樹は、ゆっくり話し始めた。
「ママね、今日は風邪でお出掛けしないって言い出したの」
「それで?」
「僕は真由子とクリスマスをしたかったから」
「それで、どうしたら、こうなったの?」
「眠ってもらおうと思っただけなんだ。ママはロシアンルーレットに負けたんだよ」(約1100字)
(明日はブッシュドノエル?!何としても、つづく)

