自分の人生を人に委ねたとき、負の連鎖は始まる
負の連鎖の始まりはいつなのでしょう。
何もないところから始まった戦後。
けれど、すでに親がいる、いないから始まっていて。
老害と言われる世代は、本当に害なのでしょうか。
ハラスメントは本当に弱いものを守るためのものなのでしょうか。
弱いと決めるのは誰なのでしょうか。
弱かったら強いと思う人を考えなくても良いのでしょうか。
弱い人は守られて当然なのでしょうか。
弱いと甘えは、意外と紙一重に見えてくることもあります。
弱いと言いながら、強い人の後ろに隠れる。
守られているのか。甘えているのか。
弱いとはなんなのか。
ふと、祖父母の時代に想いを馳せながら、私の作品の背景を重ねてみます。
負の連鎖の始まりの「彼」の祖母。私の祖母の妹。
遠いようで近い。近いようで遠い。
焼け野原になった広い大地に、戦争の終わりを告げる声が響き、幼い弟を背負った少女。
そして妹と手を繋ぎ、兄と肩を並べて、泣きじゃくる大人たちを眺める。
この少女が私の祖母。
彼の祖母は、私の祖母の妹。
九州で生まれ、4人きょうだいだったのです。
長男、長女(祖母)、次女(彼の祖母)、次男。
祖母は庄屋の出だったことを誇りとして語っていました。
お姉さまにあたる人は大きな屋敷で、当時高価な自転車をお世話の方が運んだりしていたとか。
尾長鳥の尾っぽが綺麗で、羽子板の羽にしたくてむしり取ったところ、追いかけまわされて、鳥嫌いになったと聞きました。
鳥肉も食べられないほどに。
――少し余談ですが、祖父にも似たような話があります。
頭を割られた牛に追いかけられ、田んぼに逃げたとき、石に頭をぶつけて血を流したそうです。
それ以来、牛肉が食べられなくなったと言っていました。
戦後は親が戦死し、小作人たちや親戚たちに形見もすべて持っていかれたという話は印象的でした。
親がいないなか、親戚の家に身を寄せて、祖母は幼い妹、弟のお世話を必死にしていたそうです。
親戚の後妻の方と長男の年齢が近いことから、親戚の家にいることが難しくなり、長男と長女が名古屋に出稼ぎに出たのです。
祖母は名古屋で住み込みの居酒屋で働きました。
後を追うように、妹と弟も名古屋にやって来ました。
弟は本来、学生として合否の知らせを待っていたのですが、妹が先に連れてきてしまったのです。
親がいないというだけで、受験では合格点を取っていたにもかかわらず、「親のいる子どもを優先して合格させる」という話を聞いたといいます。
「そんな学校に行くものか」――弟はそう言って、名古屋へ来たのだそうです。
祖母は弟に「学校に行きなさい」と叱りつけました。
そして、妹も「故郷に帰りたい」と泣くので、働いていたお店の人にお金を借りて、2人を故郷へ返したそうです。
本当は、自分だって帰りたかった。
それでも涙をこらえて、見送ったのです。
——でも、その妹はすぐに名古屋へ戻ってきてしまったそうです。
祖母は当時、居酒屋に2人の常連の人がいて、そのうちの1人は祖父で、もう1人は当時の恋人だったようです。
見送った後の祖母を支えてくれたのはこの2人だったのです。
その恋人は白血病を煩い、亡くなってしまったそうです。
その恋人のお墓までを送迎してくれたのが、タクシーの運転手だった祖父らしいのです。
愛する人を失い、お金もなく、頼れる親がいないなか、妹と弟のために働いた祖母。
そんな祖母を助けるために、祖父は寄り添っていたみたいです。
当時のタクシー運転手は高給取りだったのも時代を感じます。
結婚してからも、祖母の弟や妹、妹の娘、兄の娘と、援助していたみたいです。
私が子どもの頃、祖父母の家の2階には誰かが住んでいた印象があります。
祖母の妹も結婚しました。
どうしようもない男にひっかかり、離婚し、酒乱に。
けれど、なにかあるたびに祖母に泣きつきながら、のらりくらりと人生を歩んでいました。
妹の子どもに罪はなく、祖母は家に置いていたそうです。
祖母の妹が変死でみつかったとき、祖母は自分が四国の88か所を巡って、御朱印でページが真っ赤になるほどの御朱印帳を棺に入れました。
祖父は「ばばあは、いつも、俺に迷惑をかけやがる」
こんな悪態すらも、愛の言葉に聞こえます。
そんな祖父ですら、想いだけを持っていても、法律の前では意味がなかったのです。
祖母は妹を守るために。
祖母の妹は、祖母の影に甘んじ。
現代社会も同じですね。
私の父も、母が笑っていたから大丈夫だと思った。
離婚届に押印するときに、泣きながら呟いたのです。
弱い人を見捨てろとは思いません。
誰だって、甘えたいときがあることも分かっています。
けれど、甘えっぱなしでは、誰のためにもならないと思うのです。
「弱い」という言葉を盾にしてしまったら、
そこで道が止まってしまう気がします。
負の連鎖は、考えることを放棄し、
自分を誰かに委ねてしまったときに始まる――
私はそう思うのです。
