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じゃない方の髪型 ー髪にまつわるシンクロニシティ

今日は出社している。
朝から30度を超えているが、会社の中は涼しくて快適だ。
昼には眠気がやってきて、いつものように目を閉じた。
束の間、うたた寝してしまう。

そろそろ歯磨きしなくちゃ、でも眠い……と思っていたところ、
少し離れた向こうから、女性の弾んだ声が聞こえてきた。
どなたか、このフロアに立ち寄ったらしい。

「Y君、久しぶり!頑張ってる?」
うちの課の若手の先輩のようだ。入社したての頃、世話になったのだろう。
いくつか世間話をしている様子だったが、この一言で私は覚醒した。

「松下幸之助だよね?」

おや? お札の渋沢栄一ならわかるけれども、松下幸之助の話題が出るとは。
先輩は続けて言った。

「松下幸之助の髪型だよね?」

先輩はY君に、ヘアスタイルについて尋ねているのだ。
ちょっと待ってくれ。それは私が聞きたかった質問なのだ。

Y君の佇む姿を見て、髪について思い出したことがある。

私はこの春、髪型を大きく変えたばかりだ。
40代最後を迎えて、ほっこり路線からの脱却、
髪型の変更を余儀なくされたのだ。

もともとちょっぴり神経質だから、仕事中は必ず縛れるだけの長さが必要だった。
そして、実際にいつも縛っていた。
手入れの楽さもあり、おそらく15年は同じ髪型を続けていた。
寝癖も目立たないし、カットも2、3ヶ月に1回でいい。

しかし、あるとき私は、「Fさん」という別の先輩に、
「40代のロングヘアはよく考えて」とアドバイスを受けたのだ。
初めは受け入れたくなかったが、徐々に長さを背中から鎖骨まで短くしていった。
私は自分が、俳優の萬田久子さんのようにはなれないと悟ったからだ。

最終的には、ドライヤーのない南の島へ旅行するという事情から、
「似合わせカット」でバッサリいった。
※その人の骨格や顔立ち・雰囲気に合わせて最も似合う髪型に整える技法

鏡の中の私は、襟足はベテラン次長、
前から見るとY君風になっていた。
以降、次長については省略(笑)

カットの翌日、気の合う主任に尋ねたところ、
「本当だ、Y君と一緒!」と認定された。
どちらも黒髪。右分けか左分けかの違いである。

ひと月後、美容師さんにこの話をしたところ、
「その彼、会社員にしては長めですね。」とのこと。
私はY君が、見た目も立ち居振る舞いも静かな感じで、
少し長めの前髪が似合っていることを説明した。

二度目のカットの後、私は短めのY君ヘアとなった。

そんなだから私は、Y君に、
「私たち同じ髪型だね。」と言ってみたかったのだが、
いかんせん席が遠い。
もう一人の若手がすぐ近くにいることから、
なんとなくY君と話す機会がないまま、すでに数ヶ月が過ぎた。

そんな折、聞こえてきたのが、「松下幸之助だよね?」である。
私は耳をそば立てた。
世間で知られている実業家・松下幸之助氏は、
賢者の風格漂う姿だからだ。

「あんまりテレビとか映画見ないんで……。」

あれ? 幸之助さん、最近ドラマかなんかで取り上げられてたっけ?
偉人ではあるけれど、かなり前になくなっているし。

「そうなの? 短い時にそっくりだと思うんだけど。」

短い時? 長い時もあったのか?
幸之助さんはヒッピーでもされていたのか?

しばらくして意味がわかった。
幸之助さんじゃない。
松下洸平君だったのだ。
完全なる私の聞き間違いである。

「なんてオーダーしているの?」

答えが聞こえた。
「伸びたんで短くしてくださいって。」

「いつも通りってことなんだね(笑)」

私は思った。
Y君は、素敵な髪だと判定されているのだ。
私と彼を比べてみよう。
頭の横幅は違う。顔の形だって、彼は卵で私は丸い。
だけど紛れもなく、私たちは同じヘアスタイルなのだ。
さらには人気俳優と一緒だなんて。

思い切って髪を切ってよかった。
自分も先輩に褒められた気がした。

ちなみに自分も、つむじを活かしたこのヘアの
正しい名称はわからない。
来月、美容師さんに聞いてみよう。
なお、彼女の名字も「F」である。

あとがき

原稿を書いた後、調べてみた。
松下幸之助さん。
くしくも、髪のお手入れにかなりのこだわりがあったらしい。
2週間に一度は、理髪店へ通っていたという。

月イチでカットすると決めた私が、聞き間違えたその名前。
思いがけず私は、昭和の偉人ともシンクロしているのかもしれない。

こちらもお楽しみください😊


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