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退職金は一時金と年金分割どちらで受け取る?

退職が近づくと、会社によっては「退職金を、まとめて(一時金)受け取りますか? それとも分割(年金形式)で受け取りますか?」と選べることがあります。

同じ金額なのに、選び方で手元に残るお金が変わることがあります。これは運用の上手い下手ではなく、税のルール(しくみ)が一時金と年金形式で違うから起こります。

最初にお断りしておくと、この記事は「どちらが得か」を決める記事ではありません。得かどうかは金額・他の収入・年齢・働き方で人それぞれ変わり、一概には言えないからです。ここでやるのは、「どこで税の扱いが分かれるのか」というしくみを、先に地図として知っておくことだけです。

企業が将来払う退職金や年金の額(退職給付債務)を数理で計算し、その中身を説明する仕事を、コンサルタントとしてしてきました。年金や保険の数理(アクチュアリー)の準会員です。個人の損得に踏み込む助言はせず、年金・退職金・NISA・iDeCoのしくみを、一次情報で確かめながらやさしく整理します。特定の銘柄をすすめたり「もうかる」と断定したりはせず、自分で選ぶための“制度の知識”をお届けします。

しくみ① 一時金で受け取ると「退職所得」になる

退職金をまとめて(一時金で)受け取ると、税の世界では「退職所得」という扱いになります。退職所得には、長く働いた人ほど手厚くなる専用の優遇が用意されています。ポイントは3つです。

  • 退職所得控除:勤続年数に応じて、課税の対象から差し引ける金額があります(勤続20年以下=40万円×勤続年数〔80万円に満たないときは80万円〕、20年超=800万円+70万円×(勤続年数−20年)。勤続年数の端数は1年に切り上げ)。

  • 2分の1課税:控除を引いた残りを、さらに半分にした金額が課税の対象になります。式にすると「(収入金額−退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額」です。

  • 分離課税:退職所得は、原則として給与や年金など他の所得とは分けて税額を計算します。他の収入で税率が上がる影響を受けにくい、ということです。

たとえば勤続30年なら、退職所得控除は「800万円+70万円×(30−20)=1,500万円」。退職金がこの範囲におさまれば、退職所得自体が生じない計算になります(あくまで控除の計算例で、実際の税額はご自身の状況によります)。

※注意:勤続年数が短い場合は「2分の1課税」が使えない例外があります。役員等で勤続5年以下の場合は、退職金の全額について2分の1課税が使えません(金額の条件はありません)。役員以外で勤続5年以下の場合は、退職所得控除を引いた残りのうち、300万円を超える部分について2分の1課税が使えません。あてはまりそうな方は、専門家にご確認ください。

しくみ② 年金(分割)で受け取ると「雑所得(公的年金等)」になる

一方、退職金を年金形式(分割)で受け取ると、税の世界では「公的年金等に係る雑所得」という別の扱いになります。こちらにも控除はありますが、効き方が①と違います。

  • 公的年金等控除:受け取る年金の収入から差し引ける金額があります。最低額は年齢で変わり、おおむね65歳未満で60万円、65歳以上で110万円が目安です(年金以外の所得など、条件によって控除額の計算は変わります)。

  • 総合課税(合算):ここが①との大きな違いです。退職金を年金形式で受け取った分は、国民年金・厚生年金などの公的年金や、その年の他の所得と合算して課税されます。受け取る年に他の収入が多いと、その分だけ税や社会保険料に影響することがあります。

なお、企業年金(確定給付企業年金)や、iDeCo・企業型DC(確定拠出年金)を年金形式で受け取る場合も、この「公的年金等」の仲間として扱われます。

両者のしくみを並べると

一時金で受け取る場合

  • 税の区分:退職所得

  • 使える控除:退職所得控除(勤続年数で増える)

  • 課税の単位:原則、他の所得と分けて計算(分離課税)+2分の1課税

  • お金の受け取り方:まとめて一度に

年金(分割)で受け取る場合

  • 税の区分:雑所得(公的年金等)

  • 使える控除:公的年金等控除(年齢・収入で変わる)

  • 課税の単位:公的年金など他の所得と合算して計算(総合課税)

  • お金の受け取り方:何年かに分けて毎年

「では一時金がいつも得?」とは言えない理由

しくみだけ見ると、一時金は「控除+2分の1+分離」と優遇が重なって見えます。ただし、年金形式にも見落とせない面があり、どちらが有利かは一概には言えません。たとえば——

  • 年金形式は、据置期間などに応じた加算が設けられている制度設計の会社もある(受け取る総額が増減しうる)。

  • 年金形式なら、公的年金等控除を毎年使えるため、受け取り方によっては年ごとの課税を抑えられる場合がある。

  • 一時金でも、退職所得控除を超えた部分には課税されるので、金額が大きいほど税は出る。

  • 受け取り方を組み合わせる(一部を一時金、残りを年金)選択肢がある会社もある。

  • iDeCoや企業型DCもある方は、退職金と「いつ」受け取るかの順番・間隔でも結果が変わります(2026年1月から、受け取り時期が近いと控除の調整が入る期間が、おおむね5年から10年に広がりました)。これは別の分かれ道なので、セルフチェックの「分かれ道②」をご覧ください。

つまり、得かどうかは金額・他の収入・年齢・働き方・他の制度との兼ね合いで変わります。この記事で言えるのは「①は分けて軽く課税、②は合算して課税、という“しくみの違い”がある」というところまでです。

まとめ:しくみを地図として持っておく

退職金の受け取り方は、退職や年金の手続きが始まってからでは選び直しにくいものがあります。だからこそ、むずかしい試算の前に「一時金と年金形式では、そもそも税の“しくみ”が違う」とだけ知っておくと、いざ勤務先の窓口や税理士に相談するとき、話が早くなります。

具体的な金額・税額・最新の制度改正は、ご自身の勤続年数や他の収入で変わります。国税庁・日本年金機構などの公式情報や、税理士・勤務先の担当窓口で確認しながら決めてください。

関連:退職金の受け取り方で手取りが変わる|3つの分かれ道

ここまで読んでくださってありがとうございます。役に立ったと感じたら、スキをもらえると、次にどの分かれ道を掘り下げるかを決める参考になります。退職金・年金・iDeCo のしくみを順番に整理しているので、フォローしておくと続きが届きます。

【次の一歩:自分の数字で整理する】
ここまでの「しくみ」を、ご自分の退職金・iDeCo・年金の数字に当てはめて、受け取り方を一枚で見比べたい方へ、記入式の「受け取り方ワークシート」を用意しました。特定の受け取り方をすすめるものではなく、ご自身で判断を整理するための手順表です。
https://note.com/seido_kaisetsu/n/n6e0722d51a7c

免責

この記事は、制度の一般的なしくみをやさしく整理したものです。個別の投資・税務の助言や、結果(手取り・税額)の保証ではありません。具体的な金額・税額・最新の制度改正は、国税庁・日本年金機構などの公式情報や、税理士・社会保険労務士などの専門家でご確認ください。

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