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在職老齢年金とは?働くと年金が止まる基準額65万円

「年金をもらえる年齢になっても、まだ働き続けるつもり。でも、働くと年金が減る・止まると聞いて不安」。年金のしくみを説明する場で、この質問は何度も出てきます。実際に、給与とのバランスで老齢厚生年金の一部が止まる 在職老齢年金 というしくみがあります。

ただ、この「止まる」を「働くと損」と早合点して、働く時間をわざわざ減らしてしまう方がいます。そこには、見落とされがちな前提がいくつもあります。

先にお断りしておくと、この記事は「あなたは働き方をこうすべきです」と決めるものではありません。「働きながら年金を受け取ると、どの部分が・どんなときに止まるのか」というしくみを知っておくことがねらいです。具体的な金額やご自身のケースの扱いは、年金額・働き方・賞与で変わるので、最後に必ず公式情報・専門家をご案内します。

企業が将来払う退職金や年金の額(退職給付債務)を数理で計算し、その中身を説明する仕事を、コンサルタントとしてしてきました。年金や保険の数理(アクチュアリー)の準会員です。個人の損得に踏み込む助言はせず、年金・退職金・NISA・iDeCoのしくみを、一次情報で確かめながらやさしく整理します。特定の銘柄をすすめたり「もうかる」と断定したりはせず、自分で選ぶための"制度の知識"をお届けします。

なお、ここで扱うのは、主に 65歳以降に厚生年金を受け取りながら働く場合の話です(60代前半の特別支給を受け取る方は、扱いが一部異なります)。

しくみ① 止まるのは「老齢厚生年金」だけ ― 基礎年金は全額もらえます

まず、いちばん大事な前提です。在職老齢年金で止まる可能性があるのは、老齢厚生年金(2階部分)だけです。老齢基礎年金(1階部分)は、いくら働いても減りません。全額そのまま受け取れます。

「働くと年金が全部止まる」と思っている方がいますが、それは誤解です。止まりうるのは、厚生年金のうち給与とのバランスで決まる一部分だけで、しかも条件に当てはまったときに限られます。

しくみ② 止まる額は「2つの数字の合計」で決まります

止まるかどうかは、次の2つの数字の合計で判定します。むずかしい名前がついていますが、要は 「毎月の厚生年金」と「毎月の給与+ボーナスを月割りした額」 の2つだと思ってください。

  • 基本月額:老齢厚生年金(年額)を12で割った月額です(加給年金は含めません)。

  • 総報酬月額相当額:その月の給与(標準報酬月額)に、直近1年間の賞与を12で割った額を足したものです。

この2つを足した合計が、基準額(支給停止調整額)を超えた分について、その半分が止まります。式にすると、こうなります。

止まる月額 =(基本月額 + 総報酬月額相当額 - 基準額)× 1/2

合計が基準額以下なら、止まる額は0です。厚生年金は全額受け取れます。

しくみ③ その基準額が、2026年4月から「65万円」に上がりました

ここが、いま知っておきたい最新のポイントです。基準額(支給停止調整額)は、これまで段階的に引き上げられてきました。

  • 令和6年度(2024年度):50万円

  • 令和7年度(2025年度):51万円

  • 令和8年度(2026年4月~):65万円

2026年4月からの 65万円 は、令和7年(2025年)の年金制度改正によるもので、これまでより大きく上がりました。合計が65万円を超えなければ、厚生年金は止まりません。多くの方は、働きながらでも年金が止まらない、ということです。

※ ネットの記事で「62万円」と書かれているのを見たかもしれません。62万円は改正のもとになった基準値で、そこに毎年度の賃金の変動を反映した 実際の適用額が、令和8年度は65万円です。さらに、この基準額は 毎年度見直されます(ここでお伝えしているのは令和8年度=2026年度の数字です)。

たとえば、基本月額20万円・総報酬月額相当額50万円の方なら、合計は70万円。基準額65万円を超えた5万円の半分、つまり (70万円 − 65万円)× 1/2 = 2.5万円が止まり、厚生年金は月17.5万円受け取れます(基礎年金は別に全額です)。一方、合計が60万円の方なら、65万円以下なので 止まる額は0=厚生年金は全額です。同じ働き方でも、基準額が51万円だった2025年度より、止まる額は小さくなった、という見方になります。

「働くと手取りが減る」は、正しくありません

在職老齢年金でいちばん多い誤解が、「年金が止まるなら、働くと手取りが減って損」というものです。これは正しくありません。

止まるのは「超えた分の半分」までで、給与そのものは止まりません。給与と、実際に受け取れる年金の合計(手取り)は、働いて報酬が増えるほど、なだらかに増えていきます。「基準額を超えたとたんに手取りがガクッと減る」ということは、起こらない設計です。だから、年金が止まるのを避けるためだけに働く時間を削ると、かえって受け取れる総額が小さくなることもあります。

見落としやすい点 ― 加給年金と繰下げも押さえておきます

しくみ①〜③とあわせて、2つだけ注意点があります。

  • 加給年金との関係:加給年金(配偶者などがいる場合の上乗せ)は基本月額に含めて計算しませんが、老齢厚生年金が全額止まると、加給年金も止まります。働き方によっては、ここが効いてくることがあります。

  • 繰下げとの関係:受け取りを後ろにずらす「繰下げ」をしても、在職老齢年金で止まっていた部分は、繰下げの増額の対象になりません。「働きながら繰り下げれば、止まった分も後で増える」とはならない、ということです。

まとめ:止まるのは厚生年金の一部だけです

在職老齢年金は、「働くと年金が全部止まる・損をする」しくみではありません。止まりうるのは厚生年金の一部だけで、基礎年金は全額。止まるかどうかは「基本月額+総報酬月額相当額」と基準額(2026年4月から65万円)の関係で決まり、手取り自体は働くほどなだらかに増えます。

むずかしい計算の前に、「自分の基本月額と総報酬月額相当額の合計が、65万円に対してどのあたりか」だけ持っておくと、年金事務所で相談するとき、聞くべきことがはっきりします。具体的な金額やご自身のケースの扱い(加給年金や繰下げとの組み合わせを含む)は、年齢・年金額・働き方で変わりますので、日本年金機構(年金事務所)・ねんきんネット、社会保険労務士などの専門家で確認しながら決めてください。

次の一歩・関連
・繰下げ受給で「止まっていた部分は増えない」しくみは → 年金の繰下げ受給(分かれ道③)


免責:この記事は、制度の一般的なしくみをやさしく整理したものです。個別の投資・税務・社会保険の助言や、結果(手取り・損得)の保証ではありません。基準額・計算方法・具体的な金額・ご自身のケースの扱いは、日本年金機構などの公式情報や、社会保険労務士・税理士などの専門家でご確認ください。

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