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【創作大賞】占い師×薬剤師のお仕事小説第2話【中編】「人通りを外れた路地裏の占術オタク」

【あらすじ】
久しぶりに再会した高校の同級生・和歌子から、夫の深刻なモラハラを打ち明けられたナツ子。 友人を救うため、独学の紫微斗数ノートを広げて熱弁を振るう彼女の背後で、突然、不敵な笑いが響き渡る。
ナツ子の運命を一変させる、喫茶店での「奇跡の出会い」とは――。



ナツ子を待つ間、わかちゃん――高橋和歌子は、アイスコーヒーのストローをいじりながら、少しだけ緊張していた。

今日は久しぶりに、高校の同級生のナツ子と出会う。彼女は、昔からどこか浮世離れしていた。
グラスの氷をカラリと鳴らしながら、和歌子は当時のナツ子の姿に思いを馳せる。

艶々の黒髪はいつも短くカットされていて、眼鏡の奥は一見すると冷たい、切れ長の目が光っている。
その目が、常人とは異なる世界を見ているようで、正直、少しだけ怖いと思ったことが何度かある。

例えば、クラスの誰もが「おしどり夫婦」だと信じて疑わなかった担任の先生が、ある日突然離婚したときのこと。ナツ子だけは数ヶ月前から「あの先生、もうすぐ一人になるよ」と予言していた。
理由を聞くと、「だって、声のトーンが完全に『終わった人』の響きになってるもん」と、当たり前のことのように言うのだ。
人の嘘や、空気のわずかな歪みを見抜く第六感が、生まれつき異常に発達しているようだった。

でも、クールなのかと思いきや、映画『魔女の宅急便』を見て大号泣したり(和歌子からすれば、一体どこに泣くシーンがあったのか未だに謎である)、授業中に漫画『ろくでなしBLUES』を堂々と読みふけって先生に大目玉を喰らったり、なんにもない平らなところで派手に躓いて転んだりする。

大人かと思えば子ども。
真面目かと思えばふざけてる。
目に見えない波長には敏感なのに、足元の現実には驚くほど無防備。
そう、彼女はどこかアンバランスなところのある子だった。

お互いに就職してからは連絡も間遠になっていたのだが、
先日、ナツ子から突然
「最近調子どお?今度会わない?」とラインがきた。
そこには「あ、生年月日時、わかる?」とも添えられていた。

また何か変なことを企んでいるんだろうな、と思う。
でも、あの子といると絶対に退屈しない。
だから私は一も二もなく会うことに同意した。
もちろん、母子手帳を引っ張り出して調べた生年月日時も、ちゃんとメッセージで教えた。



「お待たせ、わかちゃん!」

ドアのベルが鳴り、早足で歩いてきたナツ子が和歌子の向かいの席に滑り込む。手には、何やら怪しげな図表がびっしり書き込まれた大学ノートが握られていた。

久しぶりの再会。最初は互いの近況報告から始まった。
正社員として働きながら二人の子供を育てる和歌子の日常は、一見充実しているように見えて、その実、限界が近かった。 気づけば和歌子は、誰にも言えずに胸の奥底に沈めていた、一番ヘビーな愚痴をこぼしていた。

「……実はさ、夫のモラハラが本当に酷くて。数年前、本気で離婚届に判を押す寸前までいったんだよね。今はなんとか嵐が過ぎ去って落ち着いてるんだけど……あの時は本当に死ぬかと思った」

言いながら、和歌子の声が少し震える。 するとナツ子は、キリリとした切れ長の目をさらに鋭く光らせて、テーブルの上にノートを広げた。

「……わかちゃん、ここ見て」

ナツ子が指差したのは、和歌子の生年月日時から弾き出されたという、東洋の星占い『紫微斗数』の命盤だった。

「ここにね、『破軍』っていう星が入ってるの。これ、文字通り『破天荒将軍』の星。お互いに我が強くて主導権を握ろうとして、正面衝突しやすい配置なんだよね。……で、ここからが過去の答え合わせなんだけど。数年前のこの時期、何かあった?」

ナツ子が運勢表の一点をトントンと叩く。和歌子はハッと目を見開いた。

「え……嘘でしょ? その年だよ、夫の暴言が一番ひどかったの。何でそんなことまでわかるの……?」

驚きと、当時の恐怖を思い出して青ざめる和歌子に、ナツ子はいつになく真剣な、硬い表情を向けた。
授業中にふざけていた時のナツ子じゃない。
目の前の友の苦境に、心から向き合おうとする大人の顔だ。

「そりゃあ、星が色々教えてくれるから…。まあ、今の私にわかるのは『明らかに悪い時期』の波だけなんだけどさ。
でも、わかちゃん。そんなヘビーな時期を乗り越えて、今こうして現状をキープできてるの、本当にすごいことだよ」

「う、うーん。でもさ……」

和歌子は、ナツ子のノートを怯えたような目で見つめた。

「こんな風に星に全部決められてると思うと、なんか怖くない? この先の未来にも、そういう悪い時期がまた巡ってくるのが見えちゃうわけでしょ……?」

不安そうに眉をひそめる友人に、ナツ子はノートをピシャリと叩いて言った。

「バカ言うんじゃないよ、わかちゃん! 占いはアテモノじゃないんだよ!」

「え……?」

「古文書には大凶だの何だのって脅し文句が書いてあるし、未来の悪い時期の波だって確かにくる。だけどね、占いは悪い結果に怯えて、ビクビク暮らすためにあるんじゃないの。自分の性格の癖や、相手の仕様(システム)を把握して、これからをどう賢く生き抜くかっていう、オーダーメイドの作戦図なんだから!」

熱弁を振るうナツ子の声が、静かな喫茶店に響いた。
和歌子がきょとんとした、その時だった。

――「くっくっく……、あっはははは!」

背後の席から、突然、低くて野太い爆笑が湧き起こった。
振り返ると、そこには珈琲カップを片手に、度の強い眼鏡の奥の目をギラリと光らせた、見るからに一癖も二癖もありそうな年配の男が座っていた。



「いやぁ、嬢ちゃん。おもしろいことを言うねぇ」
男はゆっくりとこちらに身体を向けると、不敵な笑みを浮かべた。
「あんた、紫微斗数をやってんのかい? ――俺もだよ」
男のその言葉を聞いた瞬間、私の体中に稲妻が走った。

「え……。紫微斗数……?」

呆然とする私に、男はニヤリと不敵に口元を下げて言った。

「宮立命(みや・りつめい)って名前で、占い師をやってる。主戦場はアメブロだ……まぁ、業界の人間なら、”聞いたことくらいはある”レベルの、ただのおっさんだよ」

男がそう名乗った瞬間、私の頭はパニックで高速回転を始めた。

「み、宮立命……!? え、あの、宮先生……っ!?」

自分の声が裏返ったことにも気づかず、椅子から飛び上がって呆然と立ち尽くす私を、わかちゃんが不思議そうに見つめている。

知っているどころの騒ぎではない。徹底的な現場検証を重ねて独自の理論を編み出し、当時アメブロ界で「半年先まで予約が取れない」と恐れられていたあのレジェンド、宮立命――。

独学で行き詰まっていた私にとって、ブログの画面越しに崇める、まさに「雲の上の神様」のような存在だった。
そして何より、私とこの先生の間には、数日前に画面越しで起きた、ある「大事件」があったのだ。

私がブログで『死期の検証』という超ヘビーな題材を取り上げ、人間の寿命が本当に盤面で割り出せるのかと愚痴を連発していた時のこと。
なんと、その雲の上のレジェンドである宮先生本人から、直接、個人的なメッセージが届いたのだ。
最初、画面に「宮立命」の文字が見えた時は、あまりの恐れ多さに「うわあああ!」と自宅のパソコンの前で文字通り飛び上がって驚いた。心臓がバクバク鳴る中で恐る恐る開いたメッセージには、こう書かれていた。

『死期の検証は人の命に関わることで、軽々しく扱う題材じゃない。だから俺は誰彼構わず教えることはしない。だが――俺のやり方で見れば、死期すら完璧にわかる。興味があるなら、連絡してこい』

「連絡してこい」と言われたものの、小心者の私は「そんなレジェンドにいきなり連絡するなんて恐れ多すぎる……!」と、スマホを握りしめたまま数日間モヤモヤと悩み続けていたのだ。

その、ネットの向こうの神様が。
いま、私の真後ろの席で普通に珈琲をすすっていた生身のおっさんだったなんて、一体誰が想像できるというのか。

「宮先生……! 先生のブログ、いつも本当に勉強になってます! 私、『紫微斗数道場』って名前でブログを書いてる広瀬ナツ子と申します……! で、でも、なんでここに……っ?」

ほんま、それである。
私だって、自分が小説の主人公だったら「このプロットはご都合主義がすぎる」と作者に文句を言っているところだ。
だが、のちに宮先生は、この時のことを少し照れくさそうにこう語ってくれた。

『色んな人のブログを見てきたけど、いつもなら見るだけで余計なお節介なんてしなかった。でも、あんたのブログを読んでいた時だけは、黙っていられなくてコメントしたんだ。あれは偶然じゃない。俺の中で時々起こる“降りてきた現象”に突き動かされたんだよ』

つまり、これは小説の神様ではなく、占術の神様が仕組んだ「降りてきた現象」のなせる業。 ネットの向こうで私のオタク魂に引き寄せられていた宮先生のアンテナが、この寂れた喫茶店で、物理的に私をキャッチしてしまった。そう納得するほかない、奇跡的な磁場がそこには働いていたのだ。


声を上ずらせて身を乗り出す私に、宮先生は「おお、あんたが広瀬さんかい!」と声をあげ、さらにニヤリと笑みを深めた。

「いやぁ、さっきの啖呵、痺れたねぇ。『占いはアテモノじゃない、現実を生き抜くための作戦図だ』、か。まったく、その通りだよ」

宮先生はふうっと息を吐くと、少し遠い目をして、それまでの不敵な笑みを消した。



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📖 最初から読む方はこちら!
[第1話【前編】「運命のカルテ〜占い師・ナツ子の冒険〜」


【読者・編集部のみなさまへ】
本作は、現役占い師である著者のリアルな鑑定実績に基づき、
「紫微斗数」「四柱推命」の本格的なロジックと、人間の業のドラマを掛け合わせたお仕事小説です。
登場するエピソードや対話には、実際の鑑定で向き合ってきた生々しい「実話」のエッセンスを濃厚に注ぎ込んでいます。星の動きが恐ろしいほどに人間の人生をあぶり出す、フィクションを超えたリアリティをぜひお楽しみください。 (※プライバシー保護のため、個人が特定できないよう設定の改変や再構成を行っています)

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