アンドロイド転生1703
2134年8月19日 深夜
ホーム 共同の居間
富士山巡礼を終え、さらにアオイがいる目黒の邸宅を尋ねてホームに戻ったタカオ。彼は義理の父親でもあり、村長でもある彼に「話がある」と言って呼び出した。
富士山の頂上で、ケントにタケルを埋葬してもらったこと。一羽の鷲を見上げながらアオイの目覚めを信じたことなどを語った。
「親父さん、俺は…タケルの遺志とアオイの思いを叶えたい。だから全員で国民になろう」
昨年、タケルとアオイがメンテナンスのためにホームを訪れたときのこと。2人は村の深刻な高齢化に心を痛め、自らの最期を語り、命の尊さを切々と訴えた。
国民になって生活の質を上げてほしい…。そう願う彼らの決死の説得も、その時は滅亡派たちの心を動かすには至らなかった。だが村長は今、再び決意を固めて顔を引き締めた。
「ああ、私も同じことを考えていた。それこそがあいつらの切なる願いだ。タカオ君、私はあの頑固者を必ず説得する。任せてくれ」
・・・
翌日 8月20日 夜
共同の居間
そこには村長と弟のケンジがいた。村長は「タケルは富士山の頂きで御霊(みたま)となった」と告げた。そこで、彼は決然と切り出した。
「ケンジ。喪中の最中に不謹慎だとは分かっている。だが…どうだ。国民にならないか」
「なんだ。本当に…こんな時に言う話か」
ケンジは鼻で笑っている。村長はその傍らに立てかけられた杖をちらりと見た。一昨年あたりから、弟の足腰の衰えは顕著だった。
「お前の足は、益々悪くなってきた。この険しい山で暮らし続けるのはもう限界だ。そのうち寝たきりになるぞ」
「…分かっているさ」
村長はじっと弟を見つめた。
「お前が…親父のことで今も心を痛めていることも、あの時のタウンの人間を許せない気持ちも、全部理解しているつもりだ」
80年以上も昔の、あの丑三つ時の惨劇。タウンの若者たちが村を襲い、20人の命が奪われた。その中に2人の父親がいた。
5歳のケンジは戦うと決めて、1人でおもちゃの銃を取りに戻った。そこで敵と出会し、命の危険にさらされた。ケンジを救ったのは父親だった。だが、彼は銃弾に倒れたのだ。
ケンジの後悔は計り知れなかった。自分の無謀な行動が目の前で大切な人を失うことになったのだから。その恨みと後悔で、国民になることを拒否し続けている。
「兄貴、言っただろ?俺は1人でも村に残るぞ」
ケンジの頑なな言葉に、村長の堪忍袋の緒が切れた。常に穏やかな彼が椅子から勢いよく立ち上がり、声を張り上げた。
「いい加減にしろ!そうやって、自己憐憫に浸っているのも程がある!80年以上も自分を許せずにいて、何になるんだ! 執念深い奴め!」
「…うるさいぞ! 兄貴だからって威張るな!」
「いいや、今日だけは威張らせてもらう!」
村長は居間を激しく歩き回った。
「いいか? タウンに行けば、またこうやって自分の足で大地を踏みしめ、誰の手も借りずに生きていけるんだ」
村長は再びソファに座り、身を乗り出して弟を射抜くように見つめた。
「ノアも自分を責め、お前も自分を責めている。だがな、タケルや親父が、そんなふうに後悔され続けて喜ぶか? それが死んだ者たちの望みか?」
ケンジは言葉を失い、顔を歪める。
「タケルは村の力になりたいと言っていた。村人全員が国民になり、新しい人生を歩むことを誰よりも望んでいたんだ。…ケンジ、今ここでタケルの遺志を継ごう。それが生き残った俺たちにできる唯一の『供養』だ」
※タケルとアオイは村人を説得しました
※惨劇の夜のエピソードの抜粋です
